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岩波少年文庫を全部読む。(71)中年男、アリスの穴へ 舟崎克彦『ぽっぺん先生と帰らずの沼』

前回の『ぽっぺん先生の日曜日』(1973。岩波少年文庫)に続くシリーズ第2弾(1974)。

このシリーズで舟崎克彦は自身が挿画を担当しており、そのキャラクターデザインをもとにアニメ化もされたようです。

中年独身男版『不思議の国のアリス』

この物語は、ゴーリキーの戯曲『どん底』(1902)の台詞の引用を題辞として始まります。

夏休み直前の独活うど大学(作者の母校・学習院大学がモデルとされる)で、ぽっぺん先生は構内の〈帰らずの沼〉の生物たちの〈生存競争〉についての、科学雑誌からの原稿依頼に応えるために、研究室でがんばっています。
でも執筆はいっかな進まみません。

午後一時、先生の腕時計が止まりました。
先生は食堂のテラスの夾竹桃の木蔭で、見たことのない色の薄羽蜉蝣うすばかげろうが飛んでいるのを見ます。新種か珍種か……。
懐中時計を持った兎をアリスが追ったように、先生は蜉蝣のあとを追って沼へ。

このあと先生は自ら蜉蝣に変じ、冒険を重ねていきます。先生が体験するのは、〈帰らずの沼〉の生態系で繰り広げられる食物連鎖のドラマ。

蜉蝣として魚に食べられた先生は、こんどはその魚に転生します。つづいて魚として翡翠かわせみに食べられると、こんどはその翡翠に転生します。
さらに翡翠としていたちに食べられてしまった先生は、鼠退治用の毒薬を口にしてしまい、落命します。

それで終わりではなく、つづいて茸となってしまう。鼬の死体に胞子がついていた、その茸です。
茸として、同僚の蜂須賀先生のお尻に押しつぶされたぽっぺん先生は、さらに茸を育てる〈ドウナガアリ〉(『ピタゴラスイッチ』で有名な葉切蟻みたいなもの?)に転生。

エコロジカルすぎない転生物語

そして蚜虫ありまきのお尻から出る蜜を思い切り顔に浴びた先生は地面に落下──そのあとも冒険はもう少し続きます。

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