鎮丸~怪蛇とをらふ~ ⑨
鎮丸は事務所で目が覚めた。
ちょうど葉猫が晴屋の相談を受け終わった頃のことだ。
「変な夢を見たな…なんだ、あいつら?蓉子が言ってた『変な子鬼』か?」
鎮丸に「覚醒した姿」の時の記憶は、もうない。
サロンには行かずに再び、霊査をする。
蛇の行方だ。
しかし、また分からない。
(この妖は、結界を張っている。そして一方的にこちらの様子を窺っている。)鎮丸は思った。
「やっかいだわい…。」と小さく言った。
ただの蛇と思っていたが、実際に会って、底知れぬ妖力を感じた。なめら筋を侮っていた。鎮丸は後悔した。
「なめら筋」とは岡山に伝わる、魑魅魍魎が通る道のことだ。これの影響を受けると決定的に良くないことが起こる。
それぞれ呼び方は違うが、同様のものは広島、四国にもある。
蓉子の以前の実家はなめら筋のすぐ側にあった。
蓉子の祖母が狐使いとして拝み屋をやりつつ、なめら筋の影響を無意識に最小限に抑えていたのだ。
蓉子の父である息子はなめら筋をはっきりと感知し、影響を受けない土地へ引っ越した。同時に拝み屋は辞めた。
「奴の住処はいったいどこだ?」鎮丸が考えているとまた、頭の中に声が響いた。
(もう、じれったいわね!その答えなら、今日、葉猫に伝えたわよ!)
「葉猫が知っているんですね?」
鎮丸はそれを聞くや否や、事務所を飛び出した。
すぐ近くにある自分のサロンへと飛び込む。
息を切らしながら、葉猫に聞いた。
「今日、いつもの方から、蛇の住処を聞いたか?」
「どうしたの?薮から棒に。」葉猫が驚いた。「御神託はあったけど、蛇の事じゃなかったわよ。」と言う。
「えっ?」鎮丸は拍子抜けした。
「それより瘴気は抜けた?」葉猫が心配そうに聞く。
「ああ、それは大丈夫だよ。他に何か思い当たる節は?」鎮丸は更に聞いた。
「うーん。今日のクライアントさんは男性だったけど、なんでも廃寺の復興をするんだって真剣に訴えていたわよ。御神託では、その人をスカウトしろとのことだったけど…。」
「それだ!」鎮丸が叫んだ。
「そのクライアントが鍵を握っている。」
鎮丸の表情が明るくなる。
「どういうこと?」葉猫には合点がいかなかった。
それには構わず、鎮丸は続けて質問した。
「その男性、どこに住んでいると言った?」
「確か、十二杜と言っていたような…?」
「よし、今度はこちらから仕掛ける番だ。一泡ふかせてやる。」
鎮丸は昼の劣勢を忘れたかのように不敵に笑った。
(to be continued)
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