見出し画像

BAKU!! ~爆末陰陽伝~

漫画原作『BAKU!! ~爆末陰陽伝~』の全話版です。一気読みしたい方のため&アルラポリスの外部リンク用にまとめました。


①京都

ナレーション『──文久三年・京都──』
提灯を片手に夜道を歩く、段だら羽織の新撰組隊士(長内守善)。
二人の目の前にひらひらと落ちてくる、人間の形に切り抜かれた紙。
書かれた文字は「生 宿 動」。
新撰組隊士「ん?」

地面に落ちた紙が、ムクリと起きあがると、トコトコと歩み寄ってくる。
長内に向かい、童歌を歌い出す紙人形。
  紙人形「……籠目 籠目 
      籠の中の鳥居は
      いついつ出やる
      夜明けの晩に
      つるつるつっぺった
      なべのなべのそこののけ
      そこぬいてたもれ……」
 長内守善「なにヤツ!? 狐狸のたぐいか」

異様な雰囲気に、気色ばむ長内。抜刀して斬りかかるが……
紙人形はひらひらと後方に飛び去る。
すると、最初は二〇センチ程度だった紙人形は、みるみる長内と同じぐらいの大きさになり、水干を着た人間のシルエットになる。
  紙人形「新撰組二番組の長内守善殿……かな?」
 長内守善「ちぇええいっ!」

長内、下から上へ刀を跳ね上げるが、その手には刀がない(作画:着物の裾に隠れて、手首は見えない)
 長内守善「な?」

自分の手首から先がないことに気づき、ポカンとする長内。
血がほとばしる腕を呆然と見る。
刀と柄にぶら下がる長内の手首、力無くボトリと落ちる。
シルエットの男に光る、独鈷杵の形状をした剣。
長内が刀で切り上げようとした瞬間、独鈷杵の形状をした剣で右手を切られたのだ。
 長内守善「う…ぐおお……おおおっ!」

血が噴き出す手を見ても、事態が把握できずに混乱する長内。
その胸に、剣が一閃して噴き出す血。
絶叫する長内。
その傷口に腕を突っ込み、中からメキビチと湿った音をさせ、心臓をつかみ出そうとする影の男。
 長内守善「オゲエエエエ……」
仲間の隊士「ひ、ひぇえええ!」

あまりの事態に、腰を抜かした仲間の新撰組隊士、這うように逃げようとする。
が、影の男の左腕から、白い狗のような霊体がスルッと現れ、中間の延髄に噛みつく。
長内の体内から引きずり出した、まだピクピク動く心臓を手に、隊士の断末魔の叫びを聞く影の男。引きの絵。

②朝の町

無惨な状態の長内の死体。
周囲にたかる野次馬たち。
死体を見聞する、新撰組の面々。
死体を厳しい表情で見る三十代の男。
   字幕『新撰組副長・土方歳三』
 土方歳三「こりゃひどいな、永倉」

呼ばれた男、緊張した表情で頷く。
   字幕『新撰組副長・永倉新八』
 永倉新八「土方さん、こりゃどうも野犬に襲われたようですね。
      こちらは心の臓と両腕を食われて、こっちは頸をやられてる」

内臓を食われた仲間の死体を、青ざめた顔で見ている新撰組の二人。
長内の左手に握られた脇差しの、血糊に気づいた土方。
 土方歳三「長内は、左手で脇差しを抜いて、一太刀は浴びせたようだな」
 永倉新八「とっさにやったなら、たいしたもんです」

長内の額に刺さった独鈷杵を、引き抜く土方。
 土方歳三「なんだ、こりゃあ?」
 永倉新八「寺の法具で見たことがありますね、
      不動明王の剣も、似たような形で。
      天竺の昔の武器とかなんとか」

そこに通りかかった武家の娘(お染)、人垣を見て手近な男に聞く。
   お染「どないしたの?」
 野次馬1「なんでも野犬に、お侍さんが喰われたらしいて」
 野次馬2「イヤぁ、ありゃ勤王の浪人に斬られたんとちゃいまっか」
   お染「また天誅騒ぎどすか? どっちにしろ物騒やわぁ」

人垣を追い払おうと、大声で怒鳴り散らす御倉伊勢武。
御倉伊勢武「これこれ! おまえら見せ物ではないぞぉ!
      サッサと立ち去れぇい」
 土方歳三「おい御倉! ちょっと、戸板を借りてきてくれ」

一瞬、土方の刺すような視線と、目が合うお染。
頭をプルプル振って、小走りに走り去る。
その後ろ姿を見ている土方。
 土方歳三「あの娘……」

③会津藩藩邸

赴任の藩士が居住まいする長屋。
長屋の前にきたお染、戸を開け、
   お染「田島医師せんせ、ご飯出来ましたえ。
      お母はんのお薬……あら?」

中に誰もいないので、拍子抜けするお染。
と、いきなりお染の足首をガシッと掴む、血まみれの腕。
   お染「え?」

視線を土間に落とすと、そこにうつ伏せになっている、薄汚れた男(榊晴明)。
頭部から大量の血を流しながら、血まみれの顔を上げて、お染に哀願するように、
  榊晴明「く…くいも……」
   お染「い……イヤぁ〜っ!」

お染、驚きのあまり、男の頭を下駄でガンガン蹴りまくる。
  榊晴明「イデッ! ちょ……やめろって!」
   お染「放してぇーっ!」

長屋中に響くお染の絶叫。

④長屋の中

医者の格好をして、苦笑している田島新九郎。
田島新九郎「そっかそっかぁ、それは榊殿が悪いよ」

その横で、凄い勢いで飯をかき込んでいる榊晴明。
  榊晴明「んむごごご、むががをんごご!」

口をご飯で一杯にして、ツバを飛ばしながら抗議する榊晴明。
苦笑しながら茶を差し出す新九郎。
田島新九郎「飲み込んでから、話しなよぉ」
  榊晴明「笑いごっちゃねぇよ! 
      喧嘩に巻き込まれて必死で逃げてきたら、
      怪我したところを下駄で、何遍も踏まれたんだぞ?」
   お染「血まみれの男に、いきなり脚を掴まれたら
      誰かて驚きますぅ!」

同じく、ムッとした顔で榊晴明を睨んでいるお染。
田島新九郎「こちらは晴明はるあきらさかき晴明。
      しばらくうちで預かる事になってね。
      商売は売トばいぼくをやってるんだ」

キョトンとした顔のお染、
   お染「梅毒ばいどく…ですか? 
      かさのお医者さんですのん」
田島新九郎「梅毒じゃない、ば・い・ぼ・く。占い師さ」

苦笑する新九郎を尻目に、胡散臭そうな目で晴明を横目で見るお染。
   お染「なぁ〜んや、当たりそうにもないどすなぁ。
      見てもらうだけ、お金の無駄やわ」
  榊晴明「だったらタダで占ってやろうか? 
      ………おまえにゃあ後家相が出てるな」
  お染め「後家相って! あんさんなぁ……」
激怒するお染め。ヘラヘラ笑う晴明。

ムッとして、さらに何か言いかけるお染の気配を察し、必死にその場の雰囲気を変えようとする新九郎。
田島新九郎「美味いねぇこの飯! 
      榊殿も喰ってばっかりいないでお礼を言ったら」
  榊晴明「この飯はあんたが? 
      人間、なんかひとつぐれぇは取り柄があるもんだな」

プイと横を向いて、反目しあってる晴明とお染。
そこにかかる、外からの声。
 土方歳三「田島先生、いるかい?」

無遠慮に家の中に入ってくる土方歳三、永倉新八、御倉伊勢武の面々。
田島新九郎「これは土方さん、どうかしましたか?」
 永倉新八「ウチの隊士が、また殺された」
  お染め「また?」

新九郎、表情を曇らせて、状況を把握した様子。
田島新九郎「わかりました、検死ですね?
      すぐに行きますので少々お待ちを」

慌てて箸を置き、飯もそこそこに、立ち上がって支度をしようとする新九郎。
そこに割って入る晴明の嫌みを含んだ声。
  榊晴明「二本差しってのは、横柄でいけないねぇや」

自分たちを非難する言葉に、気色ばんで晴明を睨みつける永倉。
どこ吹く風でメシを食う晴明。
御倉伊勢武「なんだぁ、キサマは?」
  榊晴明「新九郎さんは飯の最中だ。
      もうちょっと待てないのか?」

ぞんざいな晴明の言葉に、青ざめるお染。
小声で、だがきつめに忠告する
   お染「ちょっとちょっと! この人ら壬生の浪士隊ですえ」
  榊晴明「壬生浪士隊? 食い詰め浪人の強請ゆすりか?
      それとも町人の侍ごっこか?」
 土方歳三「『悪名高い壬生の人斬りだからよぉ、
      口の利き方に気を付けろ』……って
      嬢ちゃんは忠告してるんだよ」
   お染「いえ……そんな」
狼狽するお染め。

ニヤリと笑う土方の視線に怯え、思わず顔を背けるお染。
ぎゅっと握った手が、かすかに震えている。
  榊晴明「あんたぁ、いい男だな」
 土方歳三「なんでぇ? 薮から棒に」
  榊晴明「侍なんぞならなんでも、役者になった方がよほどいい」

土方の気を逸らす晴明。
だが、土方の目が細くなり、眉間に皺が寄る。
 土方歳三「───何が言いたい?」
  榊晴明「新撰組ってのは浪人者や、百姓町人が
      士官を狙って結成されたんだろ?
      そうまでして侍になりたいもんかねぇ。
      いざとなりゃあ腹切って死ぬ仕事だぜ?」

晴明の小馬鹿にした態度に、土方もぞんざいな口の利き方になって対抗する。
 土方歳三「おい新九郎よぉ~ コイツは何者だ?」

慌てて、その場を取り持とうとする新九郎。
田島新九郎「榊殿、歳さ…土方さんとは、
      江戸にいた時分からの、古い顔なじみなんだよ
      歳さんの実家は石田散薬の行商やっててね」
  榊晴明「だから幕府奥医師の疋田様の、高弟である田島殿に、
      ぞんざいな口を利くんだ? たいしたもんだね」

晴明は飄々と語っているが、土方の方は表情がさらに怖いものに。
 土方歳三「そう言うおまえさんも、ずいぶんとぞんざいだぜェ?」

ゆっくりと、刀に左手を添えようとする土方。
目には殺気が浮かぶ。
  榊晴明「気に障ったかい? じゃあお詫びに、
      あんたの今日の運気を占ってやろうか?」
御倉伊勢武「なんだとぉ? 馬鹿にしてるのか?」

面食らう永倉を尻目に、懐からびた銭を取り出すと、軽きチャリチャリさせた晴明。
急に、土方の後ろの柱に向かって投げつける。
  榊晴明「ふぬッ!」
びた銭は平のまま、柱に食い込む。
土方&永倉「!」

驚く永倉と土方を尻目に、さらに爪楊枝を投げる榊晴明。
びた銭の穴に、突き刺さる爪楊枝。
  榊晴明「大当たりぃ〜! 運気は好いようだぜ」

何事もなかったように、メシを食い続ける晴明。
気勢をそがれた形の土方達。
しばしの沈黙の後、苦笑しながら土方、刀の柄から手を放し、
 土方歳三「……ふふん、ずいぶん面白い芸を見せてもらったな。
      では田島殿【強調の傍点入る】、行きましょうか」
田島新九郎「あ、はいはい、ただいま」

出て行く新九郎と土方達を見送りながら、茶碗でお茶をグビグビ飲んでいる晴明。
土方達の姿が消えてから、はぁ〜っと大きく安堵のため息をついて、肩の力を抜くお染。
   お染「んもォ、寿命が縮んだわ〜!
      壬生浪みぶろ相手になにしますのん。
      あん人達は強請たかりどころか、付け火までするんですえ! 
      大坂ではそれで商家が燃えて泣き寝入りやったって」

一気にまくし立てるお染を無視して、土方達が立ち去った方を見ている晴明。
  榊晴明「あれが鬼より怖いと謳われる、
      新撰組副局長・土方歳三か。
      なかなかたいしたもんだぜ」
   お染「たいした……って何がどす?」
  榊晴明「もう一本は、避けやがった」
手に持った爪楊枝を、ピンと跳ね上げる晴明。
   お染「へ?」
状況がわからず、戸惑うお染め。

⑤新九郎と通りを歩く土方たち

土方の手のアップ。
そこには、晴明が投げた爪楊枝が握られている。
 土方歳三「新九郎よぉ……ありゃあ、いってぇ何者だぁ?」
田島新九郎「榊殿は手相見で、蘭学に興味があると言うので預か……」

新苦労の言葉を、イライラした調子で遮る永倉。
 永倉新八「あんな手相見、おるものかッ!」
 土方歳三「──小柄ならともかく、丸い銭を投げて
      柱に食い込ませるってぇなると、
      新撰組随一の手裏剣の技量を誇る永倉をしても……」

土方に促された永倉、自分の手持ちのビタ銭を、目の前の木戸の柱に向かって投げつける。
びた銭は全体の4分の1ほどを食い込ませて突き刺さる。
驚く新九郎。
だが数秒後に、ポロリと落ちてしまう。
 永倉新八「やはり無理ですな」
 土方歳三「だがあいつは縦にした銭じゃなく、
      平のままを柱に食い込ませやがった」
御倉伊勢武「拙者は荒木流手裏剣術を、
      多少は心得ておりまするが……
      あのような技は初めて見もうした」
 土方歳三「しかも銭の穴に、楊枝を通すなんざ、曲芸師でもできねぇ」

土方の脳裏によみがえる、晴明のヘラヘラした顔。
吐き捨てるように土方、
 土方歳三「それだけじゃねぇ!
      野郎、二本同時に楊枝を投げてやがった」
晴明が日本同時に投げる姿を、スローモーション風に再現。

手にした爪楊枝を、ペキンと音を立てて、へし折る土方。
田島新九郎「……ゴメンよ歳さん。
      僕も詳しいことは知らないんだよ。
      ただ会津藩直々の依頼でねぇ」

土方、晴明の腕や肩に巻かれた包帯と、膏薬を想い出し、疑いの表情。
 土方歳三「あの榊とやら、ケガをしてたな」
田島新九郎「なんでも、地回りのヤクザ者に、
      喧嘩をふっかけられたって」

疑いの表情の土方歳三。
 土方歳三(喧嘩でできた傷か長内に斬られた傷か……)
土方、晴明の顔を想い出し、中空に放り投げた爪楊枝を、抜刀して両断する。
 土方歳三「榊晴明……か、おもしれぇ!」

⑥再び新九郎の住まい

爪楊枝でシーハーする晴明。
壁にめり込んだ投げ銭を、呆れた顔で見ているお染。
   お染「あんさん占い師やのうて
      曲芸師ですのん?」
  榊晴明「その銭、取れたらやるよ」
   お染「ほんまですのん? ほんなら遠慮のう」

お染、嬉々として柱のびた銭を取ろうとする。
   お染「あら…この……うう〜ん!
      ぜんぜん取れへん。あきまへんがな」
苦戦するお染の様子を見ていた晴明、
  榊晴明「んなこたぁ、ねぇよ」

晴明が軽く指で弾くと、銭は柱から外れて、突き刺さった爪楊枝の上に乗っかる。
  榊晴明「ほらよ」
お染にびた銭を投げてやると、爪楊枝を柱から引き抜く晴明。
不満げな顔で、爪楊枝を見ている。
  榊晴明「削りが甘い楊枝だなぁ。
      安もんでも、もうちっとマシな品があるだろうに」

そう言うと懐から独鈷杵を取り出し、楊枝を削る晴明。
独鈷杵のアップ入る。
それが何か解らず、小首をかしげるお染。
   お染「けったいな小刀ですなぁ。大工道具ですか?」

⑦壬生屯所・新選組の宿泊地

新九郎が手にした独鈷杵のアップ。
晴明の独鈷杵の絵と、角度を重ねる。
田島新九郎「これが亡骸に?」

カメラ引いて、壬生の屯所の全景。
死体の額から抜かれた独鈷杵を手に、思案投げ首の新九郎。
 永倉新八「今まで殺された隊士には三人共に、
      これが突き刺さっておりました」
田島新九郎「これは独鈷杵と言ってね、
      密教の修法に使う法具だからねぇ。
      討幕派の天誅ならわかるけど、
      いったいなんの意味がるんだろ?」
 土方歳三「ただの殺しじゃねぇってコトだけは、確かだな」

しばらく思案していた土方、
何かを決断したように、柏手をパァーン!と大きく打つ。
その音に驚く一同。
 永倉新八「副局長?」
田島新九郎「どうしたの、歳さん?」
 土方歳三「……ここはひとつ、罠を張ってみるか」
御倉伊勢武「罠……ですか?」
土方の真意が分からず、戸惑う永倉新八と御倉伊勢武。

⑧真夜中の大通り

中間と帰り路を急ぐお染。
   お染「すっかり遅くなってしもうたわ〜。
      隠居はんは話が長うていかんわ」

とつぜん、お染の前を横切る人影。
見覚えのある輪郭。
   お染「あら? 今のは榊はんやおまへんか。
      こないな所で辻占やってはったんどすか」

お染が近づこうとすると、路地にスーッと消える晴明の後ろ姿。
不思議に思って追いかけるお染。
角を曲がった途端、足下に何かヌルッとした感触が───。
   お染「イヤやわぁ、ドブから水があふれているんやろか?」

足元を見るお染。
目に入る、額に独鈷杵が刺さった、新撰組隊士の死体の顔。
カメラが引いて、お染の足下に広がる血だまり。
   お染「あ、あ……いやぁああああっ!」

腰を抜かしてへたり込み、絶叫するお染。
その向こう側に、血の付いた独鈷杵を持って佇む人間のシルエット。
   お染「だ…誰?」

振り向いた顔は、榊晴明。
無表情の晴明と目が合い、恐怖に怯えてヨタヨタと後ずさりするお染。
ドン!とお染の背後に、ぶつかる人影。
振り返ると、そこには土方ら新撰組隊士が。
 土方歳三「おう、ケガはねぇか? お嬢ちゃんよ」
   お染「ひぃいいいっ!」
 土方歳三「助けてやったのに、ご挨拶だなオイ」

苦笑する土方、お染をそっと路肩においてやり、抜刀して構える。
 土方歳三「榊ィ! キサマなんの遺恨ありて新撰組をつけ狙う?
      事と次第に選っちゃあ、五体がバラバラになるぜい」
  榊晴明「そいつを殺【や】ったのは俺じゃない」

晴明の言葉に、気色ばんで刀を八相に構え直す永倉新八。
 永倉新八「この期に及んで見苦しいぞ、神妙にしろ榊!」

隊士の一人が、晴明に斬りかかる!
だが、その頭上をふわりと飛び越え、眉間に独鈷杵を突き立てる晴明。
  榊晴明「遅い」
新選組隊士「ウギャアアアッ!」

眉間を切られて、つんのめる隊士。
間髪を入れず晴明に斬り掛る土方、倒れる隊士の背後から飛びかかるように。
晴明がサッと後退すると、土方との間に割り込んでくる白い影。
 土方歳三「狗【いぬ】? いや……狐か」

見ると、2匹の白狐が出現する。
低く唸る狐たち。口吻に皺を寄せ、威嚇の表情。
土方が気を取られている隙に、土塀にヒョイと駆け上がる晴明。
 土方歳三「なッ…! 奇妙な技を使いやがって、この軽業師が〜」
  榊晴明「おい、土方やら…長州藩には気を付るんだな」
 土方歳三「んだとぉ〜?
      長州藩がいったいなんの
      関わりがあるってんだ」

他の隊士に、フォーメーションを指示する永倉新八。
 永倉新八「荒木に松井、越後! ヤツの背後に回り込め」
 荒木たち「はっ!」

名前を呼ばれた荒木左馬之介、松井竜三郎、越後三郎の三人は、晴明を挟むような形で背後側にバラバラと走り寄る。
 永倉新八「御倉とそれがしは、土方殿と正面から迎え撃つ!」

抜刀した刀を、それぞれの得意な構えにする新撰組の面々。
晴明、懐からびた銭を取り出し、チャリチャリ言わせる。
 永倉新八「気を付けよ! ヤツは礫【つぶて】を打ってくるぞ」
御倉伊勢武「ははっ! わかり申した」

土方と永倉の背後に立つ御倉伊勢武、刀を大上段に構える。
 土方歳三「おい榊、さっきの長州藩に気を付けろたぁ、
      いってぇどういう意味なんだ?」
  榊晴明「新撰組の隊士の動きを、
      長州藩は事細かに調べ上げている。
      おそらくは局の内部に……」
 永倉新八「間者がいると申すか? 何をバカなことを!」
  榊晴明「現に俺がやったその隊士は、
      長州藩士と密会していたさ。
      懐を改めてみな? 密書があるはずさ」

不審げに、眉間をうがたれた隊士と晴明を、交互に見る土方。
チッと舌打ちをしつつ、大声で怒鳴る土方歳三。
 土方歳三「───永倉ぁ!
      そいつの懐を探ってみてくれい」
 永倉新八「そんな歳さ…副長! 
      こんな苦し紛れの言い逃れに
      つきあっても……」
 土方歳三「いいから調べろい!
      出てこなきゃこないで、
      それまでの話だ」
 永倉新八「は、はぁ……しからば」

不満げな顔で、晴明に倒された隊士に近づこうとする永倉。
路肩にへたり込んでいたお染、永倉の背後の御倉が、いきなり永倉を斬ろうとするのを目撃する。
   お染「ああ……あぶないっ!」

お染の声に振り返った土方、
まさに無防備な永倉を、背後から斬ろうとする御倉の姿に驚愕。
 土方歳三「チィイイイイッ!」

御倉の額に、突き刺さる投げ銭。
土方が振り開けると、投げ銭を名へ終わったポーズの晴明。
御倉伊勢武「わぁ!」

御倉の動きに呼応するように、いっせいに土方と永倉に斬りかかってくる松本達3名。
激しく斬り結ぶ土方&永倉と、新撰組隊士達。
 ※アクションシーンの演出はお任せ。
 土方歳三「御倉!
      松本…荒木に越後!
      キサマら長州の間者だったかッ!?」
 越後三郎「土方死ねぇ!」

土塀の上を走りながら、次々と投げ銭を打つ晴明。
二人同時に永倉に斬りかかろうとする越後達、手首や顔面に投げ銭の直撃を食らい、ひるむ。
御倉がお染の方に駆け寄ろうとすると、お染の前にヒラリと飛び降りた晴明、独鈷杵を持って身構える。
  榊晴明「おっとぉ! この娘にぁあ指一本、触れさせねぇぜ」

見栄を切る晴明。
大袈裟な見栄に、気圧される御倉たち。
御倉伊勢武「くッ…うう……」
   お染「晴明はん!」
パッと明るくなるお染めの瞳。
見せ場、全身&アップで晴明とお染を大きく

⑨真夜中の大通り

いっぽう背後では、永倉に刀を飛ばされる荒木田。
裏切った新選組の隊士たち、やや劣勢。
御倉伊勢武「ちぃ!」

御倉、懐から独鈷杵を取り出すと永倉に向かって投げつける。
永倉が避けた瞬間、別の独鈷杵が永倉の肩に突き刺さる。
 永倉新八「うぎゃああ! その独鈷杵、
      きさまの得物であったか……」

御倉、印を組むと、中空に九字を切る。
御倉伊勢武「臨! 
      兵! 
      闘! 
      者! 
      界! 
      陣! 
      列! 
      在! 
      ……はぁあああああっ前!」

御倉の指先からほとばしった光が数条、独鈷杵の先に集中する。
電流が流れる感じで、小刻みに震える永倉新八。
 永倉新八「おのれぇ御倉ぁ……ァウガガガガ〜」

抗って必死に動こうとするが、独鈷杵から広がった光に全身を絡めとられて、金縛りにあう永倉。
そのまま身体が浮き上がり、永倉は白目を剥いてドゥ…と倒れ込む。
  荒木田「永倉を止めたか? ひとまずここは退くぞ!」
 他の間者「おおッ!」

荒木田の言葉に呼応して、倒れた永倉を担いで、遁走する間者隊士たち。
去り際に、懐から取り出した鳥の形の紙型を取り出し、空中に放つ荒木田たち。
新選組隊士「おのれ待てぃ!」
  榊晴明「追うな!」

晴明の言葉を無視して追った隊士、フワフワと飛ぶ鳥の紙型に触れると、
突然、炎が吹き上がる。
新選組隊士「な…これは?」
新選組隊士「あわ…火! 火がっ!」

全身が炎に包まれて、絶叫しながら倒れて転げ回る隊士たち。
理解が追いつかず、泣きべそをかきながら、逆ギレするお染。
   お染「なんやのぉ!
      もういったい何がなにやら……」

半べそをかいて震えるお染。
晴明、右手で五芒星の形の印を切ると、隊士に向かってふっと息を吹きかけるような仕草をする。
  榊晴明「かぁ……」

五芒星の光、隊士の身体に当たる。
と、身体を包む炎が消え、火傷の痕すらない。
再び、飛ぶ鳥の紙型に戻った式神を、空中で加えてキャッチする白狐たち。
口の中で、バタバタと暴れる。
 土方歳三「なにぃ!?
      火が消えた……」

気を失っている隊士に駆け寄り、状態を見る土方。
  榊晴明「驚いて気を失ってるだけだ。
      本当の火に巻かれた訳じゃないからな」
 土方歳三「幻術……か? 初めて見たぜ。
      ───おい起きろ! いつまで寝てやがる」

土方に怒鳴られ、さらに往復で頬を叩かれ、目を覚ます隊士。
周囲をキョロキョロと見回しながら、
新選組隊士「──は! 拙者はいったい……火はどこへ?」
 土方歳三「榊が加勢してくれた。
      業腹だが礼は言わせてもらうぞ」
  榊晴明「別にあんたらを助けた訳じゃねぇ〜よ」
ぶっきらぼうに答える晴明。

ニヤリと笑う土方歳三。
土方歳三「それよりも榊、お主にはなにゆえ
     間者の存在を知ったか、それを聞きたい」
だが、土方歳三の問いを無視して、驚くべき跳躍力でピョンピョンと、一気に近くの家の屋根にまで達する晴明。
屋根の上から土方歳三らを見下ろし、笑う晴明。
  榊晴明「それは言えんなぁ〜」
 土方歳三「てめぇ、上から見下ろすんじゃねぇ!」

悪戯っぽく笑うと、そのまま再び土塀に飛び乗る晴明。
  榊晴明「永倉の命が惜しければ、
      夜明け前に阿弥陀ヶ峰まで
      来てもらおうか」
 土方歳三「阿弥陀ヶ峰だとぉ?
      ……あ、こら待て榊ッ!」

土方の言葉を無視して、闇の中に消えていく晴明。
後を追うように消える二匹白狐。
ただ見送る土方歳三たち。
呆然とした顔のお染。ボソボソとつぶやく。
   お染「阿弥陀ヶ峰? 豊国神社が鎮座するお山ですなぁ」

お染の言葉に併せて、豊国神社のイメージカットを土方歳三たちの背後に重ねる。
新選組隊士「かような場所へ、何故あの者は?」
 土方歳三「……来いと言ってるんだ、
      四の五の言っても、詮無き話だ。
      行くしかあるめぇ!」
忌々しそうに、吐き捨てる土方。

⑩阿弥陀ヶ峰

暗い中、長い長い石段(NHK大河ドラマ『秀吉』のOPで出たモノ。五百段以上ある)を、独り歩く土方。
登り切り、前方の大鳥居を見上げる。
土方歳三「山頂の太閤秀吉の霊廟は、大阪の陣の後に権現様──家康公が破壊したと聞いているが……」

もうすぐ夜が明けそうな空(伏線)挿入。
鳥居に手を合わせる土方歳三。
土方歳三「盛者必衰、まさに諸行無常だな。
つわものどもが夢の跡、ってか?」
榊晴明「遅いぞ、色男」

突然響く晴明の声に、周囲をキョロキョロと見回す土方。
だが姿がない。
土方歳三「んん〜? どこに隠れてる榊。
ふざけてないで出てこいッ!」
榊晴明「ここだよここ、さっきからあんたの目の前にいるぜ」
土方歳三「目の前にいると言われれも。
声はすれども姿は見えず…
ほんにおまえは屁のような……てか?」
榊晴明「誰が屁だ、誰が!
ここにいるだろ」

土方の前に人型の紙人形が立ち上がり、おいでと手招きをしている。
土方歳三「な…なんだこりゃあ?」
榊晴明「屁じゃなくて紙【し】だな」
土方歳三「怪しげな技を使うとは思っていたが、やはり幻術使いだったか」
榊晴明「口でいろいろ説明するより、実際に見た方が早いと思ってな」

紙型、むくむくと大きくなり晴明に。
それを呆然と見つめる土方。
土方歳三「榊……てめぇはいったい何者だ?」
榊晴明「土御門家の傍流さ」
土方歳三「土御門家と言えば代々、朝廷の陰陽寮の司であった…。
なるほどな、さっきのは“式神”ってヤツか」

土方歳三の言葉に、軽く驚く晴明。
榊晴明「へぇ〜、わりあい簡単に信じるんだな」
土方歳三「目の前で見せられりゃあ信じるしかあるまい?
そのために見せたんだろうが?
それとも信じちゃまずいのか?」

二人の間に流れる沈黙。
ざわめく森、風に揺れる土方の羽織と袴。
凝視する土方に、イタズラっぽく笑いかける晴明。
榊晴明「怖いね。あんた、剣術の腕より、気迫で人を斬るな」
土方歳三「わざわざ幻術を見せるために、ここに呼んだ訳じゃあるまい?
そろそろ本題に入ろうか、ああん」

土方の後方を指さす晴明。
榊晴明「そのまま振り返ってみなよ。答えはそこにあるさ」
土方歳三「あぁ〜ん?
振り返れば……だと」

土方が振り返ると、ちょうど太陽が昇って着る瞬間。
土方歳三「日の出がどうした」
榊晴明「ここから日輪の間に、何があるか、よぉ〜く見てみな」
土方歳三「間にあるもの?」
榊晴明「そうだ、目を凝らせ……何が見える?

京都の町の俯瞰の全景のカット挿入。
土方歳三「智積院に東本願寺、そして西本願寺……」
ハッと目を見開く土方。
土方歳三「なんだと! おい榊……コレは偶然か?
この霊廟から日の出の場所まで、古刹が並んでやがる」

拍手する晴明。
榊晴明「御名答! 
偶然なんかじゃないさ。
これが日輪の道さ」
ギョッとした表情の土方。
土方歳三「日輪の道……だと?」

説明を始める晴明。
榊晴明「西本願寺と豊国神社、そして秀吉の遺体を納めた豊国廟は、日輪の運行にあわせて、東西を結ぶ線上に置かれたのさ」
土方歳三「何故そんなマネを?
なんのために?
いってぇだれが?」
榊晴明「秀吉が神になるために───」

晴明の言葉に、戸惑う土方歳三。
土方歳三「神に……だと?」
榊晴明「信長公によって弾圧された本願寺を、京に移転させ手厚く庇護したのも、秀吉が神になる秘法を成就させるためさ」

本願寺と豊国神社、阿弥陀ヶ峰の立体的な模式図を読者説明用に入れる。
榊晴明「本願寺の方向、つまり西に沈んだ日輪が地下を通り、東天に昇るのを模すことによって、京の町が持つ霊気と日輪の気を、阿弥陀ヶ峰の秀吉の霊廟に集中させる」

龍脈のイメージカットが入り、説明を続ける晴明。
榊晴明「そのためにも本願寺と豊国神社、そして秀吉の霊廟は、東西を正確に結ぶ日輪の道の上に存在“しなければ”ならなかったんだよ」

意外な秘密に顔面蒼白になる土方。
戸惑った表情で、本願寺から豊国廟を交互に見ながら、
土方歳三「日輪の動きに模して……京の都にそんな秘儀が施されていたとは!」
榊晴明「だが、その秘儀を見破って破壊した者がいた」
土方歳三「……それは?」
榊晴明「東照大権現」

雷に打たれたような顔で、絶叫する土方歳三。
土方歳三「家康公か!」
土方の背後にアップで入る、家康の肖像画のイメージカット。
榊晴明「豊国神社と西本願寺の間に、智積院と東本願寺があるのが見えるだろ?」
土方歳三「智積院と東本願寺? 確かに見えるが、それがいっったい何の意味があるんだ?」
榊晴明「……智積院と言えば太閤秀吉が根来征伐で、焼き討ちにした根来大伝法院の一院だろ?」

弾圧されて惨殺される、門徒のイメージカット入る。
青ざめた顔の土方歳三。
土方歳三「秀吉に恨みを抱く寺をもって、日輪の道を分断したのか……」
榊晴明「それだけじゃない。家康は本願寺の跡目争いにも介入し、東本願寺を分立させたのさ」
土方歳三「それで西本願寺と東本願寺がふたつ、できてしまったてのかよ……」

東本願寺と西本願寺の、イメージカット挿入。
榊晴明「あんたら新選組の屯所から、本願寺は近いからな。
一度、西と東の諸堂の配置を見比べてみればいい」
土方歳三「諸堂の配置? それにいってぇ何の意味がある?」
榊晴明「東本願寺は西本願寺とは、全く逆の伽藍配置を取っているんだよ」

晴明の言葉に重なる、西本願寺と東本願寺の配置図。
土方歳三「なんだってそんな……」
榊晴明「日輪の道の力を、逆流させるためさ」
土方歳三「念には念を入れて、二重三重に秀吉の秘儀を分断しているのか……なんて壮大なッ!」

京の町を見下ろしながら、壮大な呪法陣に絶句する土方。
急に歌い出す晴明。
榊晴明「籠目 籠目
籠の中の鳥居は
いついつ出やる……」
土方歳三「その童歌がどうした?
最近また、洛中の餓鬼がよく口ずさむ歌だがよ」
榊晴明「これは豊国廟の封印を破る呪いが込められた歌なのさ」
土方歳三「なんだと!」

目をむく土方歳三に、周囲を指さしながら再び歌う、晴明。
榊晴明「籠目 籠目
籠の中の鳥居は
いついつ出やる……」

豊国廟の周囲に巡らされた、籠目状にかけられた竹の柵を見る土方。
晴明の謎かけに気付く。
土方歳三「『籠目 籠目 
籠の中の鳥居は
いついつ出やる』
……籠の中の鳥居とは封じ込められた豊国神社の事か!」

朝日に照らされる京都の町を指し示す晴明。
榊晴明「夜明けの晩に
つるつるつっぺった
なべのなべのそこののけ
そこぬいてたもれ」
土方歳三「日輪が東天に出現する時、封印がゆるみ抜ける……つまり豊国大明神が復活するということか!」

墓から這いだした秀吉のミイラが、グワッと右腕を伸ばす、土方のイメージ。
土方歳三「……しかしこの事と一連の隊士殺しと、いってぇなんの繋がりが?」
榊晴明「新撰組だけでなく、最近起こった佐幕派への天誅の場所を覚えているか?」
土方歳三「もちろんだ。
それが俺たちの仕事だからな」

榊晴明、地面にガリガリと本願寺から智積院の、京都の町の通りの模式図を描く。
土方歳三「我が隊士が殺されたのがここ……とここ。
そして会津藩の藩士が殺されたのがここと…」
土方、晴明が描いた絵の、だいたいの場所に小石を置く。

自分が書いた図をジッと見つめて、急にハッとする土方。
土方歳三「なんだこりゃぁ?
全部が智積院と本願寺の周辺じゃねぇか」
榊晴明「この六件の事件現場を繋ぐと…何かの形に見えないか?」
土方歳三「ただの四角のつなぎ合わせにしか見えんが……」

思案する土方歳三。
何かにハッとする土方。
土方歳三「いやいや待て!
智積院と東本願寺を囲むようになってるな。
この形はおまえ───」

京都の地図に重ねて、浮かび上がる北斗七星の文様。
土方歳三「……北斗七星か!」
榊晴明「大当たりぃ〜!」
ふざけた調子の晴明を無視して、昔の記憶を呼び戻そうと、目を細める土方歳三。
土方歳三「寺の坊主に昔、北斗星には魔除けの霊験があると聞いた覚えがある。妙見信仰も、その流れだと」

榊晴明「佐幕派の人間を、妖気が集まる四つ辻で殺し、それを北斗星の形にする。
秀吉の日輪の道を封じている智積院と東本願寺の霊力を、逆流させようとしているのさ」
土方歳三「徳川の世に一番、怨念を抱いてるのが秀吉だからな。
討幕派がやりそうなこったぜぇ!」
吐き捨てるように言う土方。

土方歳三「この呪法陣で、いってぇ何をやらかすつもりだ?」
榊晴明「秀吉が家康を攻めようと兵を整えていた天正十三年──何が起こった?」
土方歳三「天正? そんな昔のことは知らねぇなぁ。
榊晴明「文禄五年と聞いて、何か心当たりは?」
土方歳三「だからおれぁ、歴史には詳しくねぇんだってばよ!」
榊晴明「なら安政元年はどうだ? さすがにわかろうもんだぜ?」
土方歳三「安政っていえば、大地震で嘉永から改元……あああッ!」
榊晴明「天正も文禄も安政も、大地震が起きた年号だ」

地震で倒壊する二条城天守閣や、逃げ惑う人々のイメージカット挿入。
暗澹たる表情の土方歳三。
土方歳三「家康には秀吉の呪法の秘密を見破り、地震を操る強大な術者がいた?」
榊晴明「だがこの呪法陣は、まだ完成しちゃいない」
土方歳三「確かにまだ星は六個。
最後の星が来るべき場所は……」

土方、最後の星となるべき場所に小石を置く。
土方歳三「西本願寺!
西本願寺には倒幕派が、多数出入りしているとの噂があったが……まさか!」
榊晴明「おそらく呪法陣は、日が真東から昇る彼岸の日までに、完成させなくてはならない」
土方歳三「彼岸って……明日じゃねぇか!」
榊晴明「おそらく今夜、西本願寺境内で最後の生け贄封じが、おこなわれるだろう」
土方歳三「そいつは永倉を、生け贄にするって意味か?」
榊晴明「新撰組二番組長だ、生け贄としては申し分あるまい?」
土方歳三「させるかよ!」

怒気をはらんだ声で一喝する土方。
刀の鞘をグッと握りしめ、今にも抜刀しそうな勢い。
晴明に話しかけようとする土方歳三。
土方歳三「ところで榊、おまえは……ん?」

土方が振り返ると、晴明が立っていた場所に、ひらひらと風に揺れる紙の人型があるのみ。
風に吹かれて、京の町のはるか上空に舞い上がる人型。
土方歳三「ちっ! どこまでも手前勝手な野郎だぜ。女にもてねぇぞ」

土方の背後からスーッと現れる、抜刀した人影。
ボソボソとつぶやく。
人影「場合によっては、斬り殺そうかと思ったのですが……榊晴明、隙がなかったです」
土方歳三「新撰組一番隊隊長の、おまえさんの腕を持ってしても、隙が見つけられなかったか?」
人影「隙だらけのように見えながら、殺気を送った瞬間にスルリとかわされ、刃の届かない場所に逃げられるような……すかしっ屁のような男でした」

虚空に向かって、手にした刀で三段突きを決める人影。
人影「ヤッ、ヤッ、ヤァーッ!」
朝日に照らされて人影、美少年の顔アップ。
字幕『新撰組一番隊隊長・沖田総司』
沖田総司「ぜひ手合わせしてみたいですね、陰陽師・榊晴明」

ウットリとした表情の沖田。
土方歳三「ダメだ総司よ、ヤツぁ俺の方が先約だからよ。俺が斬り殺した後、絞め殺すなり焼き殺すなり、存分に始末しな」
ムッとした顔で歩き出す土方。
苦笑しながらついて行く、沖田総司。
「はいはい、そうさせていただきますよ歳さん」

⑪西本願寺

門の前に立つ土方歳三と数名の人影。
土方と目配せをすると門を叩く。
 土方歳三「夜分恐れ入る!
      当寺に賊が逃げ込んだとの知らせゆえ、
      寺内をあらためたい!」

眠そうな顔で通用門を開ける寺男。
   寺男「そがいな話は聞いておりませんが……
      ああ! なにしはるんでっか」
寺男を突き飛ばすと、強引に寺の中に入り込む土方と新撰組隊士。
 土方歳三「永倉を出してもらおうか」
   寺男「なんの話かさっぱり……」

あくまでもシラを切る寺男の頭上に、ヒラヒラと落ちてくる五芒星が書かれた半紙。
いきなり白い光になると、寺男の口に飛び込む。
   寺男「ふぅんむがが!」
白目を剥いた寺男、取り憑かれたようにボソボソと語る。
   寺男「新撰組の…男は…百華池のほとりに……」

暗闇から聞こえる晴明の声。
  榊晴明「──だってよ、急ぎな色男」
 土方歳三「榊ィ!? てめぇどこだ!
      オレに指図するんじゃねぇ」
辺りをキョロキョロ見回す土方。
寺の門を飛び越え、境内に消えていく晴明の影。
 土方歳三「ちっ! 我が侭野郎が!」
寺男をぶん殴ると、晴明を追いかけるように駆け出す土方達。

⑫西本願寺・百華池

池のほとりに、縛られて転がされている永倉新八。
三鈷杵を手に持って、何か念じる御倉伊勢武。
三鈷杵の片方の真ん中の刃がスッと伸び、剣の形に(不動明王の降魔の剣に近い感じ)。
剣をブルンと振ると、永倉の首筋に当てる御倉。
御倉伊勢武「いよいよ太閤殿下を封じていた
      徳川の呪法陣が今宵、解き放たれる!」

荒木田の他、間者達が周囲を取り囲む。
みな、両手で印を結んでいる。
三鈷杵の剣を振り上げる御倉。
その瞬間、周囲に散開する光の鷺。
御倉伊勢武「なっ!?」

襲いかかってくる鷺を、御倉が三鈷杵の剣で振り払う。
と、五芒星が描かれた紙に変化して、地面に落ちる。
御倉伊勢武「桔梗紋! 榊とやらか?」
池の対岸に出現する晴明。
  榊晴明「御名答~」

すると光の鷺が池の上に飛び石のように落ち、水面に浮かぶ。
  榊晴明「はぁあああっ!」
晴明、その上をポーンポーンと跳ねながら池を一気に渡る。
渡りきると御倉に独鈷杵で突きを入れようとする晴明。
晴明が打ち込んできた独鈷杵を、ガキッと受け止める御倉。
御倉伊勢武「きさま……何者だ!?
      徳川方にかような術者がいるとは、
      とても思えんのだが……」
  榊晴明「そう言うおまえも、長州の人間じゃないだろ?
      もっと西の匂いがする。例えるなら……」

晴明の言葉に、ピクリと反応する御倉。
晴明にいっせいに襲いかかる荒木田ら。
 土方歳三「荒木田ァ!」
横手から絶叫しながら走り寄ると、振り向いた荒木田を両断する土方。
  荒木田「ぐわぁああ!」
御倉伊勢武「土方ぁ!」
激怒する御倉。

土方に続いて、どやどやと駆け寄る新撰組隊士数名。
御倉、後方に飛び退くと、懐から九字の書かれた半紙を大量に取り出し、空中に投げる。
晴明の式神同様、飛び交う御倉の式神。こちらは猿の形(伏線)。
前と同様、式神がぶつかった途端に炎が吹き上がり、次々にのたうち回る新撰組隊士達。
 隊士たち「うぎゃあああ〜熱い、熱い〜」
 土方歳三「騙されるんじゃねぇ!
      これはただの目眩ましだ、
      本当に燃えてる訳じゃない」
御倉伊勢武「そんな言葉が耳に入るか! 
      そやつらは地獄の業火に
      身を焼かれているのだ土方よ
      フハハハハハハハァ〜!」
不敵に笑う御倉。

  榊晴明「水・勝・火! 出でよ介虫式神」
晴明が投げた紙型、亀の形になって燃えさかる隊士達に張り付く。
と、水の入った風船がはじけるように大量の水を発し、隊士を包んだ炎が消える。
  隊士1「……はッ!
      いつの間にか火が消えて…」
御倉伊勢武「うぬぬ〜!
      水気をはらむ介虫【亀】の
      式神を使うとは何者か!」

御倉伊勢武の言葉を無視し、土方の背後に下がる晴明。
  榊晴明「呪法が利かなきゃ、
      剣で戦うしかないな。
      あんたらの出番だ」
 土方歳三「ありがてぇ!
      斬り合いならお手のもんだ、
      永倉を助けるぞッ!」
御倉伊勢武「うぬぬぬぅ〜!」

歯がみしながら刀を抜く御倉、永倉に走り寄って刺し殺そうとする。
が、その前に立ち塞がる晴明。
  榊晴明「おっとぉ、
      そうはさせないぜ」
御倉伊勢武「どけっ!」

晴明に斬りかかろうとする御倉。
その瞬間、首筋を後ろから突きで切られる。
御倉伊勢武「ぐぐっ
      キサマは……」
御倉の背後に立つ、美青年。
 沖田総司「永倉さんは
      斬らせないよ」
御倉伊勢武「沖田……総司!」

御倉の得意の三段突きを決める沖田総司。
 沖田総司「ヤッ、ヤッ、ヤァーッ!」
沖田の突きの連続に、頸動脈から血がビューッと吹き出す御倉。
ヨロヨロと後ずさり、尻餅をつく。

同時に、越後の腕を切り落とす土方。
越後は傷ついた腕を抱え、遁走する。
土方、振り向きつつ、
 土方歳三「でかしたぞ総司!」
  榊晴明「永倉は無事だ」
晴明、永倉の縄を解いてやりながら土方に叫ぶ。

御倉ににじり寄る土方歳三。
 土方歳三「御倉伊勢武──いや
      本当の名前がなんというのかは
      知らねぇが…残念だったな」
刀にすがるようにして立ち上がる御倉、だが息が荒い。
御倉伊勢武「く……ふぅ…」
 沖田総司「長内達の仇、
      討たせてもらいますよ」

沖田、得意の平青眼に構える。
だが御倉、ニヤリとほくそ笑む。
その目線の先には、ムックリと起きあがる永倉の姿。
 沖田総司「ん?」
背後で突然起きる晴明の苦悶の声。
  榊晴明「ぐ……がッ?」

晴明の脇腹を、独鈷杵で刺す永倉新八。
永倉自身は白目で、意識がない。
 土方歳三「な……永倉?
     どうしたんだ
     永倉ぁ!」
晴明の脇腹から噴き出す血。

独鈷杵を土方に向かって突き出し、フラフラと突進する永倉。
土方、身体を横にさばき、永倉の後頭部を柄頭で一撃する。
 永倉新八「ぐげげ」
 土方歳三「大丈夫か榊!?」
  榊晴明「ゆ、油断したぜ。
      だが大丈夫……だ
      致命傷じゃない」

口元に笑みを浮かべ、投げ槍につぶやく御倉。
御倉伊勢武「ふふん……新撰組の永倉も
      幕府の走狗の陰陽師も
      太閤殿下復活の生け贄には
      できなんだか……」
 土方歳三「観念するんだな。
      おまえが目論んだ結界破りは
      この西本願寺で七人目の生け贄を
      殺さないと成就しねぇんだろ?」

刀を構えたまま、ジリジリと御倉に近づく土方。
御倉伊勢武「いいやぁ……まだまだ
      贄の代わりは……いる」
 沖田総司「強がりを言うな。
      今のおまえに何ができる?
      立ってるのも辛いだろうに」

口から血を吐きながらも、ニヤニヤと笑う御倉。
御倉伊勢武「そこな陰陽師……
      きさま榊家の者か?」
  榊晴明「榊晴明……
      それが俺の名だ」
御倉伊勢武「榊…晴明……か
      時の権力者に疎まれ
      闇の中に消えた安倍晴明の末裔が
      榊の名を名乗っていると昔
      聞いた事があったが……
      こんな所で会えるとは御慶かな」
 沖田総司「闇の中に消えた?
      安倍晴明?
      ……いったいなんですか」

沖田の言葉を無視して、晴明を凝視する御倉。
御倉伊勢武「同じ闇に棲む者なれば
      一言忠告して進ぜよう」
  榊晴明「何をだ?」
御倉伊勢武「晴明、おまえは俺だ。忘れるなよ」
 土方歳三「御倉!
      てめぇ何が言いたい」
  榊晴明「御倉……まさかおまえ!」
御倉伊勢武「御倉伊勢武とは仮の名
      兵道家・木下誠三郎隆景が
      最後の呪法を受けよ!」

御倉、刀を振り上げると自分の首筋に当てる。
 土方歳三「な!」
自分の首を掻き斬る御倉伊勢武。

ポロリと落ちた御倉の首。
空中でクルリと回って、自分の足下にピタリと着地。
御倉の生首は目を閉じている。
だが、ボソボソと九字の印を唱え出す。
御倉伊勢武「臨…兵…闘…者……」
  榊晴明「御倉は……いや木下は
      己を贄とすることで呪法陣を
      完成させるつもりだ」
 沖田総司「そんな!」
御倉伊勢武「界…陣……列……在………ぜ…前!」

クワッ!と見開かれる、御倉の赤い両目。
御倉の生首からほとばしった光が、地を這うように移動し始める。
  榊晴明「しまった!
      地脈の中の気が
      動き出した」
 土方歳三「それじゃあ
      秀吉封じの呪法が
      破られるのか!?」
 沖田総司「なんとか食い止め
      られないのですか?」
  榊晴明「ここを発した気が
      北斗星を巡りきる前に
      封じなければ……」
 土方歳三「そんなことができるのか?」
  榊晴明「できる……だが
      止めるのは俺にしかできん。
      気の流れを追うぞ───」

ヨロヨロと走り出そうとする晴明。
しかし、永倉に刺された脇腹を押さえて、ガクッと膝をつく。
 土方歳三「榊ッ!」
  榊晴明「う……ぐぐぅっ」
脇腹から流れて、晴明の水干をぬらす大量の血。
 沖田総司「その傷じゃあ走れないよ」
  榊晴明「大丈夫だ……行かないと」

ムリして走り出そうとする晴明を、ぐいと押しとどめる土方。
 土方歳三「無理するんじゃねぇ」
  榊晴明「無理でも行くんだ……どけ」
土方、晴明を強引に背中に背負う。

その行動に、驚く晴明と沖田。
 沖田総司「……土方さん」
 土方歳三「多摩の田舎じゃ薬箱と
      剣術の防具を担いで
      一日中行商してたんだ。
      足腰は強いんだぜ?」
  榊晴明「わかった……頼む」
 土方歳三「しっかりつかまってろよ!」
土方、晴明を背にかついで走り出す。

⑬本願寺外の通り

必死で気の流れを追うが晴明と土方たち。
だが、土方達の走るスピードよりわずかに早く、なかなか追いつかない。
 土方歳三「ちくしょう、
      スルスルと動きやがって」

角を曲がっていく気の塊を追う土方達。
息を切らし、汗びっしょり。
だが追いつかない。
 沖田総司「ちぃ!」
業を煮やした沖田、土方達を置いて全力疾走し、気の塊に追いつく。
 沖田総司「てぇええええーいっ!」
気の塊に刀を突き刺す。

だが、気の塊はそのまま進んでいく。
 沖田総司「な!?」
  榊晴明「……あれは刀じゃ斬れない」
 土方歳三「ハァハァ…ちくしょう!
      やっぱり俺らが
      追いつくしかないのか」
息を切らしながら、忌々しげに絶叫する土方。

土方の背後で、指示を出す晴明。
  榊晴明「……土方」
 土方歳三「なんだぁ!?」
  榊晴明「あの角を曲がらずに
      まっすぐ進め……」
 土方歳三「なんだってそんな…」
  榊晴明「あの気は…殺された人間の
      念がある場所を…たどっている。
      このまま追うより先回りして
      迎え撃った方がいい」
洛中の地図と、北斗七星のポイントを図示した模式図入る。

北斗星の柄杓の部分をスルーするよう指示する晴明。
 土方歳三「確かにそれなら追いつけるが
      ……本当に大丈夫か?」
  榊晴明「……おそらく
      あの気を封じる機会は
      一度…のみ」
 土方歳三「しょうがねぇな
      おまえを信じるぞ!」

闇の中に駆け出す晴明と土方。
沖田総司はそのまま気を追い、二手に分かれる。
必死で走る土方。
その背中で、脂汗を流しながら息が荒い晴明。
 土方歳三「最初にウチの隊士が
      殺された辻は……
      あそこだ!」
土方が四辻に到達し、左の方向を振り返る。

こちらに向かって進んでくる気の塊と、併走して走る沖田総司。
 沖田総司「土方さん、間に合いましたか」
 土方歳三「榊よォ! …やれるか?
      やれるのかよッ!」
  榊晴明「おまえら…
      巻き込まれないよう
      …離れていろ」
 沖田総司「しかし!」
 土方歳三「総司……餅は餅屋だ。
      俺たちがいちゃ
      邪魔なだけだ」
  榊晴明「ありがとよ……色男」

晴明、土方と総司に微笑むと、四辻の真ん中に立ち、独鈷杵を出す。
独鈷杵の持ち手部分がニュンと伸び、六尺ほどになる。
独鈷杵の先端で。足下に桔梗紋を描く晴明。
桔梗紋をまたぎ、一歩前に出る晴明。
九字を切る。
 土方歳三「榊ィ……」
  榊晴明「臨兵闘者…
      界陣列在……前!
      ……かぁああっ!」

晴明が切った九字の格子縞が、光の格子となって気の塊に突進!
ネットのように気の塊を包み込む。※演出はお任せ
 土方歳三「や…やった!」
 沖田総司「食い止め……た?」

歓喜の表情の土方と沖田とは対照的に、厳しい表情を崩さない晴明。
気の塊はそれでも、じりじりと晴明に接近してくる。
  榊晴明「くぅ……」
 土方歳三「何をやってる榊!
      そのままじゃ
      おまえが……」
 沖田総司「ああっ! 離れてください」

5センチ近くまで接近した気の塊。
突然、両手で抱きつく晴明。
晴明を包む燐火、一気に燃え盛る。
  榊晴明「ぐわぁああっ!」
 土方歳三「榊ぃ!」

駆け寄ろうとする土方を目で制する晴明。
  榊晴明「近づくなと……
      言っただろ」
 沖田総司「し、しかし…」

気の塊を抱きかかえたまま、ヨロヨロと後ずさりする晴明。
圧力に耐えきれず、真後ろにスローモーションのように倒れる。
 土方歳三「ちぃいいっ!」
 沖田総司「歳さん危ない!」
晴明に駆け寄ろうとする土方と、それに驚く沖田。

倒れかけの晴明、目をクワッと見開き、体を入れ替えてうつ伏せに倒れ込む。
  榊晴明「うがぁああ!」
 土方歳三「な……」

倒れた晴明の俯瞰。
晴明が倒れた場所は、ちょうど先ほど自分が書いた桔梗紋の中。
  榊晴明「ハァ…ハァ……」
 土方歳三「え…?」

桔梗紋の結界の中で、激しく左右に動く気の塊。
だが、結界に封じられてそれ以上動けない。
やがて、動きが鈍くなる。
 沖田総司「光の玉の動きが
      ……止まった?」
  榊晴明「結界の中に封じるには
      ああするしか……ウグッ
      なかったんだよ」
 土方歳三「それじゃあおまえ、
      わざと抱きついて……」
  榊晴明「まだ……まだ
      終わりじゃない」

ヨロヨロと立ち上がった晴明。
独鈷杵を手に持ち、気の塊にドスッと刺す。
 土方歳三「榊ッ」
 沖田総司「あああ〜っ」

閃光に包まれる四辻。
そのまばゆさに、顔をしかめる土方と沖田。
独鈷杵から螺旋状に登った光が晴明を包み込み、天空に消えていく。
光が途絶え、再び暗闇に包まれる。
 土方歳三「そ…総司ィ~大丈夫か?」
 沖田総司「光で目を……真っ暗でなにも見えませんよ」

目をこらして、先ほど晴明が立っていた場所を凝視する土方。
徐々に夜目が慣れて、ぼんやりと見えるようになる土方と沖田。
 土方歳三「榊?」
晴明が立っていた場所には、紙の人型が落ちているだけ。

その紙に土方が手を伸ばそうとすると、紙型は燃え上がり、灰も残さず消滅してしまう。
 沖田総司「土方さん…いったい
      あれは……榊とは
      何者なんですか?」
 土方歳三「わからねぇ……
      俺にもわからねぇ」
そう言うと、きびすを返して歩き出す土方。
それを慌てて追う沖田。

カメラアングルは俯瞰になり、どんどん引いていく。
重なるナレーション。
ナレーション『これから二年後、
       新撰組は土方歳三の
       強硬な提案により、
       屯所を壬生村から
       西本願寺に移す』
ナレーション『移転に反対した
       山南敬助の新撰組脱走と
       切腹という悲劇が起きる』
ナレーション『しかし土方がなぜ、
       そこまで西本願寺移転に
       こだわったのか───
       理由は謎とされる』

京都の全景。
土方と沖田の声だけ聞こえる。
  沖田総司「歳さん待ってくださいよ、
       何を怒ってるんです?」
 土方歳三「うるせぇ、怒ってねぇよッ!

真っ黒な背景に浮かぶナレーションの文字でエンド。
ナレーション『維新回天の時代の裏で、
       呪法による激闘があった事も
       歴史は黙して語らない』

■BAKU!! ~爆末陰陽伝~/終わり■

サポート、よろしくお願いいたします。読者からの直接支援は、創作の励みになります。