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イヌクティトゥット語の「イグルー」または「雨風をしのげる場所」

地下鉄の改札を足早に通り過ぎ、急いで彼女の待つ場所へ。 

真夏に咲き乱れた百日紅が 
こんなに短い期間で葉を落とす 

彼女は待っていてくれるだろうか? 

ランダムに流れるイヤホンからのピアノ曲 
「ベートーヴェンだっけな」 
心が死んだあたしへの鎮魂歌に聴こえる 

彼女との約束をかみしめながら、流れる汗をぬぐう。 

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先月までの酷暑も、例年にない肌寒い秋も 
耳に流れる“月光”も、落葉する百日紅も 
全てがあたし、御用達 

彼女はの光が似合う。 イヤ、彼女はの光が似合う。

夏にうけた熱いほどの体温は、今はもうない 

そんな彼女を夜に縫い留めたのは自分だ。 

「人に気づかれたら終わり」 
簡単なルールと味わったことのない情交 
ただ、相手を貪るだけ 
絡み合うだけの禁じられた恋は 
こんなに美味しいものとは思わなかった 

禁断果実を分かち合った背徳の最初の人類。 

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「だから、隠れて食べるんだな」

彼女を抱きしめて、耳元にささやく「ごめん、遅くなった。」

簡単なルールと理性がどこまで利くか 
仕事をしていても「欲しい」と身体が覚えた本能 
喉から出てくる熱い息の玉は 
淫らな声に聞こえ、顔を赤らめた 

滑るように肩から背中へ、受け入れる心と、拒絶する心、

今日はどちらが勝つのだろう。 

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「全部終わった」 

「さよなら」、そう彼が言った言葉を反芻するようにかみしめた。 

肌寒い朝の通勤時間帯 
信号待ちする私に見えた、あの人に似た男 
頬を伝う水滴に気づき 

左目だけが泣いている 
指で拭ったときに、人差し指の指紋が 
浮いて見えた 

理性で食い止めるから、左目だけの涙 

「悪いこと、酷いことしてるの、分かってた 
でも周りが絶対 
気づかないようにやればいいやって思ってた 
あたし、淋しいだけの人生に耐えられない」 

かえってこだわっていたのは自分だった。 

トートバッグから覗くレジュメに目を落とし 

次の恋は 
ページをめくるたびに薄皮が剥がれて 
いくようではなくて 
イグルーのなかにふたりだけでいる 
ものがたりが良いなと思う 

不織布マスクに溜まる左目の涙と、震える唇

次の恋は
自分の焦がれる想いの熱さ
のなかではなくて
互いをあたため合う心地よさに
身を寄せていたい
信号が変わった、あたしは変わるしかない

思うままに飛び込んで、
思うままに両目で泣けるような
恋を次はしようと決めて、歩き出す
前を見据えて、しっかりと 

君は君のままで美しい。  

陽の光も君には似合う。  

そう、これはある日の君の物語。 

By りよう & うめこ 

官能小説なのか、感情小説なのか、

勝手に手を加えてしまい、申し訳ございません。 

情感があつすぎて、少し冷ましてしまったかもしれません。 

りょうさん、うめこさん、許してくださいね。 

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