薔薇の香と男の子 by Umrko

「あの女が悪いのよ。大事な優君を傷つけるから。」

「落ち着いて、ね。 お・ち・つ・い・て、ね。」

「大事な、大事な、優君。 
ちょっとぐらい、触ろうとしたからって、
なによ、爪で優君の顔に傷つけるなんて、ゆるさない。 
綺麗な顔。 素敵な唇。 大事に、大事に、育ててきたのよ。 
それを、なに? あの女、優君の良さも分からない。
くそ女が!」

髪を乱して叫び続ける夜叉の顔をした女からは、薔薇の香がした。

「落ち着いてね。 わかったから、ね。 それでどうしたの?」 

「刺してやったわ、果物ナイフで、
刺した瞬間にクリッと手首を返したわよ。
殺すつもりだもの。」

「いいのかい、供述として記録されるが、いいのかい?」

「いいわよ。 優君の居ない世界に未練はないわ。 
ここにナイフがあればあなたも刺すのにね。」 

「精神鑑定が必要かもしれない。」

「おかしくなんてなっていないわよ。
まさか優君が自分で自分を刺すとは思わなかったもの。 
この女さえいなくなれば、
また、二人の生活が始まると思っていたのに、優君。 
ごめんね、優君。 
そんなに彼女が好きだったなんて知らなかった。 
私の体だけでは満足できなかったの? ねぇ、優君。
おかーさんのどこがいけなかったの? ねぇ、優君。」

「殺人と死体遺棄、どうも、前もある様だ。遺棄現場の周辺ももう少し、調査した方がいいな。 児童買春には当たらないか、実の息子だから。 それでも、相当前から、怪しい少女の失踪もあるし、連続少女殺人事件にならないと良いがな。」

「警部、ゴミ箱から隠す様子もなく、ナイフが出てきたそうです。 指紋もばっちりついています。」

「ホシで確定だな。」

「それと、お風呂場から、多数のルミノール反応が出ました。」

「くそ、連続殺人かよ。 うちの管内は殺人はすくなかったのに、豊島区に負けるなぁ。」

そんな話がある都内の警察署で続く中、青少年研修センターの片隅で、綺麗な顔をした15才くらいの男の子、喉からお腹まで包帯で包まれているが、それほど痛そうではない。 顔にはひっかき傷がある。 

「僕は、どうしたらいいの? ママは大丈夫なの?」

「ママは大丈夫よ、少しの間、別のところで生活するけど、大丈夫。」

「でも、ママは僕がいないと、とても怒って怖いよ。」

「大丈夫、ちゃんとお薬を飲んで、普通になったら、会えるから。」

「本当?」 安心したように言葉を飲みこんんで、

「一人で寝ても怒らない?」 

「大丈夫よ、心配しなくても、大丈夫。」

「うん、良かった。」 少し目に輝きを取り戻したようだ。 



令和2年1月から12月までの警視庁発表の犯罪者数
強制わいせつ 4154件 
強制性交など 1332件
殺人      929件 


ロクでも現実が、そこかしこにある。 

自分の文章ではそれを超えるのは難しい。 


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