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【フィールドワーク】人の思いに触れた旅〜三重県桑名市

桑名市と清泉女子大学が2024年6月3日、連携協定を結んだのを受けて、地球市民学科の学生9名と教員1名が桑名市を訪問させていただきました。桑名市と清泉女子大学の縁を取りもったのは、「日本近代建築の父」と呼ばれ、鹿鳴館の設計で知られるイギリスの建築家、ジョサイア・コンドルの建築です。桑名市は六華苑、清泉女子大学は旧島津家本邸(本館・3号館)がコンドルの設計によるもので、共に国の重要文化財に指定されています。

まずは六華苑へ向かいました。すると、うれしいサプライズが待っていました。桑名市の伊藤徳宇市長がお忙しい公務の合間を縫って、わざわざ六華苑に来てくださり、学生との懇談の機会をつくってくださったのです(午前中は密漁パトロールのご視察だったそうです)。

伊藤徳宇市長との懇談の様子です。市長のお話のおもしろさに引き込まれました

六華苑という貴重な資産を守るためにも、いかに活用していくのか。フィルムコミッションと連携した映画やドラマの撮影の誘致やその具体的な取り組みなど、興味深いお話を伺いました。六華苑は洋館と和館で構成されているのが特徴です。このため同じ作品で洋館と和館が同時に撮影に使われたこともあるそうです。六華苑は2023年に公開された映画『わたしの幸せな結婚』のロケ地としても知られています。昨年度は訪問者が5万人を超えました。

伊藤市長のお話で印象的だったのは、桑名の歴史を切り拓いた実業家のエピソードでした。ひとつは、諸戸家です。初代諸戸清六は、米相場や林業で財を成しました。18歳で家督を継いだときには莫大の借金がありましたが、わずか2年で完済。いわゆる富豪でありながら、生活は質素で華美を好まない一方で、公共投資は惜しまなかったそうです。明治期には多額の費用がかかるとして町が断念した桑名の水道の整備を独力で完成させ、市民に開放しました(大正2年に竣工した六華苑の洋式トイレは水洗です!)。初代諸戸清六の邸宅は重要文化財に指定されており、その庭は国指定名勝となっています。六華苑は二代諸戸清六の邸宅です。六華苑が完成した当時、二代諸戸清六さんは20代の新婚だったそうです。

笑顔の絶えない懇談でした。伊藤市長、ありがとうございました

もうひとつが、ナガシマリゾートを開発した大谷家です。運営会社である長島観光開発を創業した大谷伊佐氏がガスを掘ろうとして温泉が出たことが、今につながっています。

ナガシマリゾートといえば、ナガシマスパーランドのジェットコースターが有名ですが(その数は日本一だそうです)、創業家につながる方のジェットコースターに対する思いがあふれるエピソードを教えてくださいました。ただ、やみくもに絶叫マシンを増やしたわけではないのです。世界のジェットコースターを乗り尽くしたご経験あっての今なのです(ご本人にぜひお目にかかりたいです)。

ナガシマリゾートについては、このほかにも入込客数やアウトレットモールの実績、駐車場の広さなど、聞いてびっくりの情報を教えてくださいましたが、なかでも興味深かったのがオリーブを使った六次産業化のお話でした。六次産業化といえば、農家さんが農産品を商品化・サービス化するというイメージですが、ナガシマリゾートは消費や販売の場がある、つまり商品化・サービス化できることから逆算して、ナガシマファームにオリーブを持ち込んだと教えてくださいました。しかも、樹齢2000年を超えると言われるオリーブの木をスペインからわざわざ運んできたそうです。ナガシマリゾートを切り拓いてこられた方の発想と行動の徹底ぶりが印象的で、そのユニークさに施設のイメージがガラリと変わりました(次回の訪問では、大谷伊佐さんの銅像にもご挨拶しなければと思いました)。

市長との懇談のあとは、六華苑の苑長の石神さんと前苑長の水谷さんが館内を1時間以上かけて丁寧に案内してくださいました。

水谷さんのお話は六華苑への愛情にあふれていました
池越しの六華苑もまた美しい。さすが映画とドラマのロケの聖地です
洋館と和館の繋ぎ目
「あの階段が大学の本館みたい」
六華苑と大学の本館の違いを細かく教えてくださいました
塔の4階。塔は当初3層の予定でした。諸戸さんが川を眺めたくて増やしたそうです
「諸戸さんは、この景色を見たかったのか、、、」
和館はまた全く異なる趣です。庭の風景は額縁の絵のようです
明かり取りをパシャリ。六華苑は小さな見どころもたくさんあります

六華苑の見学に続いて、国指定名勝の諸戸氏庭園もご案内してくださいました。諸戸氏庭園は、初代諸戸清六が明治期に買い取り、増築した庭園です。敷地内には、邸宅や御殿広間、洋館などもあり、それらの建物は重要文化財に指定されています。

管理をしている会社の水谷さんと松本さんが、こちらも1時間以上かけて丁寧に案内してくださいました。

初代諸戸清六の邸宅兼事務所です。重要文化財です。建物には米穀商らしいつくりも
諸戸氏庭園は春と秋、年に2回一般に公開されています
「天国みたい」の声。花菖蒲は桑名市の花です
水谷さんのお話も諸戸氏庭園への愛情にあふれていました

水谷さんと松本さんのお話で印象的だったのが、ところどころで出てくる水の話です。写真を撮り忘れたのですが、六華苑と諸戸氏庭園を隔てる運河がありました。その運河は桑名城の外堀にあたり、揖斐川につながっていると教えてくださいました。水位は揖斐川と連動して変化するそうです。揖斐川から運ばれてきた米や材木は桑名に集まりました。伊勢神宮の式年遷宮に使われる木もまずは桑名に引き上げられます。木曽三川と接する桑名には水との闘いという歴史もあります。堤防で集落を囲う輪中の文化を伝える複合施設「輪中の郷」もあります。松本さんは桑名の水の文化をもっと伝えていきたいとおっしゃっていました。次に訪問するときには、水に焦点を当ててまちを歩きたいと思いました。

揖斐川をバックに。水谷さん、ありがとうございました。富士山?が見えるの、わかりますか?

夕方6時になり、「桑名の名物のはまぐりを学生の懐でも食べられるお店、ありますか」と伺ったところ、『川市』さんを紹介してくださいました。

はまぐり目当てのはずが、煮込みうどんの文字にひかれてしまい、、、
9人中8人が味噌煮込みうどんを頼みました。絶品です。ボリュームもたっぷり
もちろん、はまぐりもいただきました。お出汁のきいたスープも堪能しました。次回は、はまぐりのラーメンをねらいたいです。

夕食のあとは、桑名市内の宿でチェックインを済ませて、ナガシマリゾートの原点、長島温泉『湯あみの島』へ。

これがまた素晴らしいお風呂でした。お風呂は17種類(男女合わせて)。特に露天風呂は、森と渓流の風景に大きな岩を配した野趣溢れるもので、その趣向を堪能しました。「日本初の大自然露天風呂」はその名の通りだと思いました。長島温泉を開いた大谷伊佐さんは、長島に緑が少ないことを嘆いていたそうです。実際に当時の映像を見ると長島は砂地です(ほんとうに何もないところです)。それが今の姿になったと思うと、創業に関わった方々の温泉に賭ける情熱に感服してしまいます。

もちろん地下1540メートルから湧くアルカリ性単純温泉も気持ちよかったです。こちらは昭和39年に開業したときから、今も変わらず、私たちを癒し続けているんですね。

翌日は、ナガシマリゾートへ。伊藤市長にたくさんのエピソードを教えていただいたあとの訪問なので、大谷さんの思いや息遣いを感じます。駐車場の広さにも圧倒されました。

広い!!!自分の車を見つけられるのか、不安になりそう、、、

まずはアウトレットモールの『矢場とん』で腹ごしらえしたあと、絶叫マシン組(大好きな人たち)とアウトレット組(絶叫マシンに乗れない人たち)に分かれて存分に楽しみました。

ウェルカムゲートにて。ナガシマリゾートはまだまだ楽しみ方の開拓の余地ありです

今回は1泊2日、事実上、初日の午後半日と翌日のお昼過ぎまでという短い滞在でした。桑名での滞在を存分に楽しみましたが、もちろん今回の訪問は小さな一歩にすぎません。オリーブの木も見ていませんし、桑名宗社も石取会館も行っていませんし、街をゆったりと歩く時間もありませんでした。輪中の郷や多度大社にも行ってみたいです。

フィールドワークの取り組み方はいろいろありますが、まずは、そのフィールドを好きになること、何度も行きたいと思えるようになることが大切だと考えています。今回の旅で、学生・教員一同、桑名が大好きになりました。次回の訪問計画を早速、今週立てる予定です。

フィールドワークの初期は、調査者というよりむしろ観光客の感覚でよいと考えています(哲学者の東浩紀さんの『観光客の哲学 増補版』(2023,ゲンロン)に触発されています)。桑名は観光を存分に楽しめるまちです。それだけに観光的な楽しさと、桑名の先人が築き上げてきたまちの歴史とのギャップが印象的な旅でした。

短い旅にもかかわらず、桑名のまちを好きになったのは、受け入れてくださったみなさまのあたたかさのおかげです。伊藤市長、石神さん(六華苑苑長)、水谷さん(六華苑前苑長)、水谷さん・松本さん(諸戸コーポレーション)の思いやりにあふれたおもてなしとお気遣いに心から感謝を申し上げます。ありがとうございました。

そして、みなさまのお話からは、桑名のまちをつくってきた先人に対する心からの敬意を感じました。先人が残してくれたものをどう守り、どう生かし、これからのまちをどう切り拓いていくのか。短い旅ながらも、学びのヒントや手がかりをいただいた気がします。このご縁を大切に、今後も桑名に繰り返し足を運び、人に会い、学ばせていただきながら、桑名のまちに何か少しでもお役に立てることを見つけていきたいと考えています。

ひとまず、お礼を兼ねたご報告でした。学生の声は改めてお伝えします。

文:兼清慎一(地球市民学科)