わさびっちょとの出会い④【完結】
わさびっちょとの出会い③の続きです。
前回の記事はこちら
https://note.com/chimiko_/n/n81b9d64a0852
無事に退院できたものの、触られるのが嫌いになってしまい、ビビリになってしまったワカケホンセイインコのヒナ。
それを克服するために作戦を考えることにしました。
まずはワカケホンセイインコの特徴を知る必要があります。
もともとワカケホンセイインコは神経質な傾向にあると言われています。
野生では、警戒心が強く、緑色の保護色で木の葉に溶け込み、高いところを好みます。
スズメやハトのように地面を歩くところは、少なくとも私は見たことがありません。
今でこそ鳴き声を覚えたので近くにいると分かるようになりましたが、生い茂った林の中を目視で見つけるのはなかなか大変です。
カラスなどの外敵がいると大きな声で警戒し、仲間と呼びかけあって情報を共有します。
興奮すると瞳は点のように縮まります。
求愛などポジティブな理由で興奮しているのが理由の場合もありますが、怒りによる興奮である場合もあります。
慣れるまでは、何による興奮なのか見分けるのはなかなか難しいです。
怒ると頭を膨らませて威嚇し、鋭いくちばしで素早く噛みつきます。
また、驚くとパニックになって暴れ、場合によってはケガをしてしまうこともあります。
多くのペットバードと比べると、動きがユニークでおしゃべりや芸の素質がある反面、スキンシップは好まない個体が多いと本に書いてありました。
(ただし、この点は本当に個体差が大きいです)
そんなもともと神経質な傾向のインコが、治療のためとはいえ人間に嫌なことをされたのですから、失われた信頼を取り戻すのは一苦労です。
しかし、戦略はあります。
まずは、単純に餌付けです。
いかにも動物を手懐けるには多く取られる手法ですよね。
手からおやつを食べてもらいます。
上から手を近ずけると掴まれそうだと思って怖がるので、「おやつだよ〜」と言いながら、手のひらにのせたおやつが見えるように、下からゆっくり近づけます。
食べ始めてくれたら、なるべく動かないように辛抱強く待ち、食べ終わって手を引っこめるときもゆっくりにします。
また、何をするにしても急に動かず、先に優しく声をかけます。
「お水を替えるね〜」とか、「電気が暗くなるよ〜」とか、「鳥かごを動かすよ〜」とか、言葉の意味は分からなくても前もって話しかけられることで、鳥も心の準備ができて、それほど驚かずに済みます。
そして、動物の習性に合わせて行動して安心させます。
例えば犬ならまず最初に手の匂いをかいでもらうと安心してもらえますし、猫なら正面から目を合わさないようにしつつ指先を鼻に近づけるのが良いご挨拶です。
インコの場合、仲間意識が強いので、
「周りの仲間と一緒のことをしたい。好きな相手の真似をしたい。」という心理があります。
群れで連れ立って飛び、同じ餌場で食事をして、ねぐらに集まって眠ります。
多様な鳴き方を覚えて愛情を示したり、情報を共有します。
その「仲間」だと思ってもらえれば、警戒が解けて仲良くなれるというわけです。
もちろん、普通に餌をあげてお世話をしていても信頼はしてくれるようになりますが、近道できる作戦があります。
こちらからインコの行動を「真似」するのです。
怖がらない距離までゆっくり近づき、同じくらいの目線の高さで座ります。
たいていインコは注意してこちらを見るので、こちらもインコの目を見つめます。
そして、インコがまばたきしたタイミングに合わせて、すぐにこちらもまばたきして見せます。
さらに長く目を閉じて見せたりします。
「まばたきの真似をするくらい仲間だと思っているし、目を閉じて気をゆるめるほど君のことを信頼しているよ」
というボディーランゲージなのです。
なんなら目の前で眠って、こちらが無防備なところを見せます。
そういった、歩み寄りの時間を設けるのです。
インコがちょっと頭をかしげたり、体の向きを変えたりしたら、鏡写しのように即座にそれを真似します。
何か鳴いたら、こちらも声で返答します。
食事の時間を共にするのも仲間意識が高まります。
青菜、フルーツ、コーン、ナッツなど、鳥も人も食べられる食品を分け合って同時に食べると効果的です。
(与えてはいけないものもたくさんあるので注意です)
おもちゃになるものは、足でつかんでかじったり、咥えて振り回したりするのですが、落として遠くにいってしまったら拾って「はいどうぞ」と渡してあげます。
そうした積み重ねで、インコは、「こいつは…嫌な奴じゃないのかもしれない。仲間なのかな?」と思い始めたようで、だんだんと心を許してくれました。
手からおやつを食べるのがスムーズになり、人が近くにいても眠ったり、速く動いても驚かなくなり、手に乗るのも積極的になって、おもちゃで無邪気に遊ぶ時間が増えました。
人間が食事し始めたのを見て、「あっ、ごはんの時間なのか!合わせなくちゃ!」とでも言うように、インコの方も慌てて餌をついばみだすくらいになれば、もう完全に仲間と認めてくれているサインです。
そして、保護当時はあんなに食事を拒絶していたインコだったのに、すっかり食いしん坊になっていきました。
それはもう、お腹ペコペコの犬がごはんに飛びつくような、おいしいチュールをねだる猫のような…食への執着を見せるようになりました。
今まで飼っていたセキセイインコは食に淡白でしたので、こんなに食い意地の張ったインコがいるなんて驚きました…!
特にヒマワリの種は、上手にむいて食べられるようになったとたんに大好物になったので、トレーニング(手に乗ったり、体重計に乗ったりできるようにする練習)のごほうびに使うことにしました。
※さらにその後も芸などにも役立つことになります。今でも一番のごほうびはヒマワリの種です。
そうして信頼を築き、リラックスして人と過ごせるようになったインコでしたが、飼い主の情報は見つからず、警察にも依然として遺失物の届け出が来ていないようでした。
そのうち、警察で拾得物を預かる保管期限の3ヶ月を過ぎてしまいました。決まり上では、これで拾得物の所有権は拾った人のものになります。
ネットでの飼い主探しは続けていましたが、このままずっとうちにいる可能性も高くなってきたので、何か「名前」をつけないと不便になってきました。
また「トリちゃん(仮)」で病院にかかるのもアレですし…
実は、優柔不断な私は名前をつけるのが大の苦手です。
例えばRPGゲームで突然キャラクターに名前をつける画面が出てくると、30分くらい固まってしまって先に進めないことがあるくらいです。
悩んだ私は周りの人にも名前の候補を相談しました。
性別不明なので、オスでもメスでも違和感のない名前でなければいけません。
緑色にちなんで、スイカ、メロン、ライム、マリモ…
さらに、コマツナのおかげで命拾いしたので
「コマツさん」という候補もありました…人間みたい…
そんな中、候補のひとつにあがったのが「わさび」です。
徐々に絞り込み、「マリモ」と「わさび」が残りました。
2択でもさんざん迷いましたが…ここで思い出したのが、あの、ワカケホンセイインコの成鳥の姿です。
君、今はあどけない顔だけど、こんな髭面になってドヤ顔をするようになるかもしれないんだよね…顔もパワーも鳴き声も気難しさもスパイシーだわ…ということで、
名前は「わさび」に決定しました。
とりあえず便宜上の名前をつけてからも飼い主探しをしましたが、その後もなかなかそれらしい人は現れませんでした。
野生出身説が濃厚になってきましたが、野鳥だったとしても、外来種という複雑な状況に置かれた鳥なので、念のため飼育の是非について警察や自治体など各窓口に相談しました。
野生のワカケホンセイインコは、もとをたどれば、ペットとして売るために約50年前に人の手によって日本に連れ込まれたものがご先祖さまです。
そして、無責任に大量に捨てられなければ、人間の良きパートナーとして真冬も暖かい家で暮らせたはずの彼らです。
始まりは私が生まれる前の話ですが、同じ人間の責任として、本来ペットになるはずだった外来種インコたちの末裔を、再び外に放り出すことは好ましくないと考えました。
鳥種としては野生で生きていける身体能力が証明済みですが、この子は人間との生活を学習し、すっかり慣れてしまっていたので、それも難しいでしょう。
それから、なんだかんだ11年経った今まで一緒に暮らしています。
しかし、この時点での名前は「わさび」です。
「わさび」がどうして「わさびっちょ」になったのか?
どうしておしゃべりやユニークな動きをするようになったのか?
その秘密は、また別のお話で…!
(わさびっちょとの出会い編 おわり)