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無職のまま星になりたい

「無職だよ」と口にするとき、少しだけおどける自分がいる。

久しぶりに、「仕事をしていた頃」に出会った友人とオンラインで集まった。
24歳のときに潜り込んだ某大学のアカペラサークルで、バンドのメンバーとして一緒に活動していた人たちだ。
年齢はみんな5個ないし6個違い。
社会人2年目を迎えてもなお大人としての自覚に乏しかった僕は、サークル内で圧倒的マイノリティでありながら、ぬるりとそこに馴染んだ。

出会った頃、彼らはみんな「大学1年生(ないし2年生)」で、僕は「社会人2年目」だった。
会社勤めをし、日々くたくたになるまで働いていた僕は、彼らからはサークルに顔を出すたび「おじさん」とおちょくられ、それに対して「お前らもゆくゆくこうなるんだからな」なんてまぜっかえしていたものだった。

みんないい子たちだった、と思う。
彼らの学生生活の内情を、僕はそこまで深く聞いていたわけではない。
それでも、授業を散々さぼり倒し、準備不足で挑んだ就活に見事失敗して留年し、いい加減な卒論を書いて卒業した僕に比べれば、彼らはきちんとした学生だった。
真面目に授業に出て、単位を取って、意志と戦略をもって就職活動に臨んで、立派に卒業していった。

今にして思えば本当にすごいことだよな、と思う。
すごすぎる話だ。

今(も)、彼らは各々の選んだ場所で頑張っている。
先の4月に学部卒の子たちは社会人2年目を迎え、修士卒の子たちは社会人としてのスタートを切り出した(年齢の上下がちょっと複雑なのだ、面倒なので説明は割愛するけれど)。
つまり僕がサークルに入った年齢、24歳を今年で迎える子が大半だ(※)。

「この歳でサークル入ったってことでしょ? すごいね」とあらためて言葉として言われたとき、知り合った頃にはまだハタチにもなっていなかった彼らがもう「あの時の自分」と同い年になっているのかと、めまいがしそうなショックに脳を打たれた。
同時に、ずいぶんと状況が変わったもんだな、とも思った。

一介のサラリーマンとして、学生だった彼らに出会った6年前。
「社会人」ヅラをするのも、彼らを半端者扱いするのも好まなかった僕だったけれど、やはりコミュニケーションがポジションに即したものになる瞬間というのは、どうしたってしばしばある。
あのときの関係性の名残が残り香のように身体に染みついている僕は、大きく変転した状況にもまたくらくらしていた。
彼らが学校を卒業して「社会」に出ていっただけじゃない、僕のほうもまた今となっては「社会」から外れてまったく想像もしていなかった場所にいるーー。

「今なにやってるの?」
聞かれることは予想していたけれど、答えを用意していたわけじゃなかった。
なにしろ自分でもまだよくわかっていないのだから。
「なんだろうね、無職とフリーターの間っていうか、自営業といえば聞こえはいいっていうか……。」
口から出たのはそんなぼやけた言葉だった。

おどけた調子に乗せるくらいしないとちょっと居心地が悪くて、冗談めかして話してみたけど、彼らからすると笑っていいやらなんなのやらという感じだっただろう。



このままいくとわけのわからない感じで30歳を迎えることになるな、と思っている。
定職につかず、肩書きもなく、簡単な言葉で説明できるような活動もなく。
別にそれはいい、まったく嫌じゃないしむしろ心地いい。
したくなくなったときに今していることをすべて引き払って、まったく別の何かを始めることもできる、そんなあいまいな立ち位置に在ることが、ちょっとクセになっている。

それでも、そんな自分の感覚を明快に語り伝えることができなかったことは、ちょっと悔しく思うのだ。
わかってほしいとは思わないし、ましてや共感や賛同を得たいとも思わない。
でも、「僕はこれで納得しているし、ちゃんと自分の道としてこれをやっているんだ」ということは伝えたかった。
伝えてどうなるかは別にどうでもいい、けれどもおどけて言葉をぼやかした自分は、ちょっとダサかったなと今でも思っている。

「あのおじさん、今どうしてるの?」「ちょっと何やってるかよくわからないけど、とりあえず楽しく生きてるみたいだよ」「ふうん」くらいでいい。
それで会話が終わっても、連絡しよう!みたいな話にいっさいならなくても。
あそこには星があるな、と思われるくらいの輝きを、光の大小はどうあれ放っていたい。
そんな感じのことを思いながら、今日も僕はわけのわからない暮らしをしている。



サークルに入ったとき、僕は正確には「25歳の年」でした。早生まれなので当時24歳でしたが、年度内には25歳になる年でした。とはいえ「大学を出て2年目」という点での合致のほうが重く映ったため、あえて「当時の僕と同い年」という書き方で押し切った次第です。細かい話。


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