銭湯ではダラダラと話がしたい。

学生時代、友達とスーパー銭湯に行って湯船に浸かりただ会話をする時間が好きだった。
会話にはいつも些細な議題を用意していた。
スマホに頼ればすぐに終わるような議題でも、湯船の中では自分で頭のみで考えるしかない。
大人とも子供とも名乗れない年頃に似つかわしい、知ったかぶりの妄想を振り回してその場限りの結論を出す。
ひとしきり話しきる頃には身体が芯まで温まり、満足してその日を終えることができていた。

上京して一人暮らしを始めると銭湯に行く機会はもちろん、湯船に浸かることすらめっきり減ってしまった。
些細な議題も必要なくなり、なんとなく生きることを繰り返している。
周囲への関心は薄れて今では与えられたものを消費することしかできない。

失われたのは銭湯に行く習慣だけではなく、立ち止まって考えることそのものなのかもしれない。
全て同じ形を取り戻すことはできないが、日常の中で溢してしまうような些細な議題はこの場を借りて掬い上げていきたいと思う。

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