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35年以上前からゴルゴ13は「感染」対策のプロだった。武漢封鎖から1年「パンデミック」が引き起こす人間の業を考える/エンタメ・リカレント


ちょうど1年前の中国の武漢で確認された新型コロナウイルス。
今は2回目の緊急事態宣言が出されている真っただ中ですが、昨年1月の時点で誰もここまでの事態になるとは予測できなかったのではないでしょうか。予測できていたら昨年春の時点で五輪も一年延期なんて判断は絶対なかったでしょうから。

「感染症」や「鳥インフルエンザ」「ウイルス」「パンデミック」をテーマに警鐘を鳴らすエンタメ作品は古くはカミュによる「ペスト」から始まり、最近ではNetflix で配信中の2020年のカナダ作品の「ブレイク・アウト」まで数多くこれまでもありました。

単に感染者の恐怖を煽るだけものよりも、医療に携わる方の一人でも多くの命を助けたいという思いとそれがままならない状況を描いたもの、感染者を差別したり、ワクチンを独占しようとしたりという非常時の人間の業や醜さを描いた作品が人々の記憶に残るようです。

今回の状況を想起させる部分もあり最初の緊急事態宣言の時にはNetflixで 「アウトブレイク」などを観たほか、日本の作品でも小説「首都感染」やコミック「リウーを待ちながら」などの作品を読んだのですが、二度目の自粛期間中にこのテーマの回を改めて読み直したのが「ゴルゴ13」でした。

「ゴルゴ13」は長きに渡る連載ゆえ、一度でなく数回、アプローチを変えながら「感染症」「ウイルス」「パンデミック」というワードが出てくるテーマを扱っています。しかもゴルゴ13自身は医者ではないため、政治的背景や人間の権力やエゴを盛り込んだパターンで困難な依頼がくるという設定なんですが、よくこういう形の依頼を思いつくなと感心しながらも、パンデミックに至る前のウイルスや感染源の隠蔽は国際的にも日常的にあるのではと思わせるリアリティがある作品になっていました。

この手の物語は、ある場所で誰かが具合が悪くなって倒れたりするか、あるいは実験場から逃げ出した「猿」とか養鶏場の「鶏」とか動物のシーンで始まることが多いですが、得てして人間たちの行動は後手に回って被害が拡大していくのを視聴者や読者がドキドキしながら進んでいくのが定番です。ある程度被害が拡大してから、物事が動き出すのですが、なんと今から35年以上も前の「ゴルゴ13」の作品の中で、驚くべき感染リスク対策を行っていたことがリカレントして判明しました。

それが1984年5月作品「AZ4CP72」です。(文庫版55巻収録)

PART1「致死率100%」という衝撃的なチャプター名から始まるこの作品は、原因も治療法も発見されていない細菌病「出血病」の症状で、ある老人がホテルで倒れたところから物語は始まります。当時は、ペスト同様 致死率100%と言われる炭疽病(アンスラックス)である症状もみられると医者が動揺しはじめます。

倒れた老人は実はやがて死に至るのですが、イギリス化学戦防衛研究所に潜り込み、炭疽病と出血熱の検体(サンプル)をソ連に金で売りわたすべく持ち出した悪徳医師であることが明かされます。取引場所の細菌臨床学会が開かれるカナダ・ケベックで発症したことがわかりカナダで感染爆発したら国の存亡にかかわるとカナダ陸軍は大騒ぎになります。感染ルートをたどると持ち出しを阻止するため、イギリス化学戦防衛研究所所長がゴルゴ13に依頼していたのでした。

その所長もまた命を落とすのですが、依頼した所長と接触したゴルゴも濃厚接触者ということでイギリス国防省・カナダ陸軍はゴルゴを発見・隔離せねばとCIAの助言までうけて探し回ります。

このあたりで作品タイトルの「AZ4CP72」は
イギリス国防省コードネーム「AZ4」(炭疽病)と「CP72」(出血熱)
から由来であることが明かされます。

なにせ致死率100%の生物細菌兵器のバイオハザードの疑いですから、国家存亡の危機とばかり、感染爆発(パンデミック)を防ぐため、カナダ陸軍では、感染者のゴルゴ13を収容できないなら宿泊している建物ごと焼却せよとの命令が下されるのですが、

そして途中、往来を歩き、列車の中で多くの乗客がいる中にいるゴルゴ13が描かれ、「パンデミック」を予感させるドキドキするシーンになっています。

感染者源と接触したゴルゴ13は感染源として陸軍が確定し、収容できない場合は宿泊施設ごと火炎放射器で償却するという常軌を逸した作戦が開始されます。
呼びかけに応じないゴルゴにしびれをきらし、ホテル焼却の命令が下されるとホテルは業火に包まれます。その炎の中から車で脱出するゴルゴ、カナダ陸軍は今度は市内を封鎖し、焼却する作戦をとり、違った意味でのパンデミック・チェイスものになります。
ゴルゴはクルマを乗り捨て、下水道に侵入しアメリカ国境付近500メートルのところで包囲されますがゴルゴが致死時刻を過ぎても生きていることで感染の疑いは晴れてゴルゴは解放されます。
実は、依頼相手がイギリスの化学戦防衛研究所所長の段階で、バイオハザードの可能性を読んで、接触後すぐに抗生物質を注射していたのが本人の口からではなく追っていたカナダの陸軍省の高官から語られてゴルゴは解放されて物語は幕を閉じるのですが、この作品、お互いが敵国を滅亡させるための軍事戦略の一環の細菌パンデミックの話がちらつく生臭いテーマになっていて、単にマンガで片付けられない重苦しさも描かれています。

依頼を受けた段階で想像力を働かせて、抗生物質を準備して罹患に備えた予防をするという見事な感染リスク対策で、感染を免れています。

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昨年の緊急事態宣言の時に刊行された特別編「パンデミック 感染」に収録された1995年9月作品「病原体・レベル4」では治療薬なし正気でいられるのは3日間、死亡率90%のエボラウイルスの新種に感染した猿を乗せた客船に同乗していたゴルゴも感染してしまう話が、今回の「新型コロナウイルスのプリンセス号と紐づけられることは多いのですが、その遥か以前の1984年から、ゴルゴ13は細菌・感染・パンデミックと向き合ってきたのだと気づかされたのが「AZ4CP72」でした。

こういう作品を読むと中国がWHOの調査団を武漢へ入れることをかたくなに固辞していたのも色々と邪推したくなりますね。

さすが大人のための大人マンガ「ゴルゴ13」              改めて狙撃(スナイプ)の難易度だけのヒーローマンガじゃないことがリカレントで実感できました。ブリーフ1枚で初登場したとは思えないほど深いです。ではまた。





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