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言語野直列つなぎの民に『波よ聞いてくれ』をおすすめしたい

私はノリと勢いで生きている。喋ることも不得意ではない。ただ、基本的に『分かる人がわかればいいやろ』というスタンスかつ、めちゃくちゃせっかちなので、段階を踏まずに喋る癖がある。共通言語を持たない人にとっては言ってることが飛び飛びになる壊れたレコードみたいに見えると思う。が、個人的にこれはある程度必要な”ふるい”だと思っている節がある。手っ取り早く共通言語のある人間を見分けるために。
ただし、社会生活を営む上ではこれをやりすぎることはおススメしない。よっぽど上にいかない限り、仕事する人を選ぶことはできないからだ。残念ながら私は社会の末端社畜なので、そんなときはギャル人格をインストールして仕事をしている。おい段階抜けてるぞと思うかもしれないが、要は『人付き合いしやすいペルソナを被って仕事している』ということだ。

長々語ってしまったが、まあ私はそんな感じの人間だ。だいたいなんとなくの嗅覚だけで適当に30年ほどを生きている。そんな人間に、友人がとある漫画をお勧めしてくれた。「めちゃくちゃ君に似た主人公が出てくる漫画がある」という触れ込みで。

それが『波よ聞いてくれ』という漫画だった。アニメ化もしている作品なので、ご存じの方もいるかもしれない。あらすじは以下である。


鼓田ミナレ、独身女子、札幌在住。ひょんなことからギョーカイ人の中年男性にダマされ、ワケも分からずラジオDJデビュー!
鼓田(こだ)ミナレ、20代独身。札幌在住、スープカレー屋勤務。 ひょんなことからギョーカイ人の中年男性にダマされ、ワケも分からずラジオDJデビュー。カレー界とラジオ界の覇道を歩むべく奮闘はしないが、真の愛と幸せと享楽を求めてオンナは戦い続ける、に違いない。 さあさあさあ、波よ聞いてくれ!!!
(出典:アフタヌーン)

要は、この『ミナレ』という主人公によく似ているということらしい。ほ~んどれどれ、というわけで読んでみた。


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開始1ページ目からこれである。出だしのモノローグからぶっ刺さった。

彼氏と別れて荒れている主人公・ミナレが飲み屋で知らないおっさんに絡み倒し、気が付くと自宅のベッドで目が覚める。記憶を失うほど酔っていても理性か意地か、きっちり靴を揃えて脱ぎ、汚れた服を脱ぎベッドで寝ていた。寝起きでぼんやりする頭の隅で、こんなことを考える。

「私があともうちょっと破滅型だったら そっちの方が可愛がられただろうか…」

は~~~~~~~~~~~~~~~ 私か???????????????

諸々の反動で涙が出てきたミナレが取り出したのは『泣けなきゃ人間じゃない』と友人に貸し出されたDVDだ。これはあれだ、泣くことに理由をつけないと気が済まないタイプだ。めちゃくちゃ覚えがある。そして映画を視聴したあとのミナレがこちら。

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ここまででわずか9ページ。(うち2Pが見開きの扉絵である)この時点で私は全巻購入を決意した。


ミナレは衝動的で割り切りがよく調子に乗ると無敵、喋れば時速160キロの直球のみ。直情型かと思えば割に人との距離感を測るのがうまい。情に厚く勘のいいタイプだが、逆に情に引っ張られて勘がにぶると決定的にダメになり、ヒモの元彼には50万円を貸して飛ばれたトラウマがまだ癒えていない。自己中心的で9割がた自分の思考が自分の中で完結しているタイプだ。(しかし残り1割がほつれているので、そこに付け込まれると弱い。その最たる例が元彼である。
私は元彼に50万貸して飛ばれた経験はないが、それ以外はだいぶ身に覚えがある。多分ヘテロだった場合の私ってわりとこんな感じなんじゃなかろうか。

この漫画のメインストーリーはミナレが一般人からラジオDJとして成長していく物語なのだが、あまりにもミナレに感情移入しすぎて帯の『北海レディオ冒険譚♪』の煽りに一瞬戸惑ったレベルだ。ラジオが主体なことを完全に忘れていた。ラジオ部分も十二分に面白いが、ミナレの吸引力が凄まじすぎるのだ(個人的に)

ちなみに、ミナレ以外のキャラクターも超濃い。ミナレを半ば騙し討ちのようにスカウトする食えないおっさん麻藤はもちろん、特にのちのち出てくるラジオ局ADの瑞穂ちゃんなんてマジでリアリティがすごい。真面目で几帳面、優しく人当たりがよく、大和撫子っぽい見た目と内面で、でもそれを少しコンプレックスに思ってる女の子だ。ミナレとは真逆のタイプだが、『違うこと』を楽しめる子なのだ。そして、この瑞穂ちゃんにめちゃくちゃ似ている友人が居る。もうすっごい似てる。あまりにも気立てがよすぎてダメ男にうっかり惚れてしまう感じもほんと似てる。ちなみに私に『波よ聞いてくれ』を勧めた友人も彼女が瑞穂ちゃんに似てると評していた。
とにかく、あまりにいい子過ぎて私はその子に会うたび『うわ~~結婚してえ~~~!』と結構真顔で思うレベルなのだが、作中でミナレもちょいちょい瑞穂ちゃんに対して「ヒモになりたい いや婿入りしたいこの部屋に!」「性転換してこの娘を幸せにしよう!」とか言っててめちゃくちゃ笑った。超わかる。

そんなかんじであまりにもわかりみに溢れるミナレなのだが、2巻以降の展開で元彼から連絡が来てうっかり揺れるミナレの描写をめちゃくちゃ手に汗を握りながら読んだ。マジで「ミナレ!負けるな!絆されるな!がんばれ!!」「ミナレ!目を覚ませ絶対そいつは変わらんタイプだぞ!」と、プリキュア応援上映をしている幼児並みのテンションでのたうちまわりながら読んだ。本当にしんどかったので1ページ読むごとに小休止をとったレベルだ。ちなみに、この元彼に対しある種の“ケリ”をつける訳だが、決定的な啖呵を切ったキメゴマを読んだ瞬間私は泣きながら拍手した。ミナレ、よく頑張った。最高だよミナレ…。

ここまででだいたい1~3巻の内容だが、この後も勢い任せのDJを先輩に「面白い人間と面白いラジオは違う」「歩く放送事故(※ミナレ)に大多数の一般人の共感は得られない」とたしなめられて悩んだ挙句ぶっ飛んだ結論(なおミナレ理論的には順当な結論である)に至ったりともうなんていうかわかりみを通り越して『沙村広明、私の知り合い…?』のオンパレードだ

ちなみに『波よ聞いてくれ』を勧めてくれた友人に以前ゴールデンカムイを勧めた際、「二瓶鉄造ってキャラめちゃくちゃ言語センスが君っぽい」と言われた。感動した。なぜなら二瓶の思考ってだいぶ私からすると『わかりみに溢れる~~~~~!!!!!』と感じるキャラだったからだ。(二瓶は要所要所で「勃起!」と言っているが、下ネタではない。いやだいぶ下ネタも言うキャラなんだけども。まあ要は己を奮い立たせる掛け声的なやつだ)二瓶は『狩り』に明確な美学を持った凄腕のマタギで、山で死ぬために脱獄までしている。その美学を完遂するためであれば一切の悔いを残さず笑って死ねるキャラクターなのだ。私が二瓶になれるかどうかは別として、破滅型ワナビーの私としては最高にたまらんキャラなのである。

この二瓶と先述のミナレに共通するものは、思考回路と言語野が直列つなぎになっているところだ。

二人ともとことん完結したマイ宇宙に生きていて、基本的に自分にしか興味がなく、『ついてこれない奴は別についてこんでもいいぞ!』というやつらだ。二瓶はそれが限界まで研ぎ澄まされた結果彼岸に全力ダッシュしていったが、ミナレは日露戦争後のマタギとして生きてるわけではないのでもうちょっと地に足ついていて(多分踵は地についてない)、かつ女性なので二瓶よりもさらに共感度とシンクロ率がヤバい。今後の展開が楽しみである。多分ここまで自分と重ね合わせられるキャラはそうそうない。どうしてこんな生々しいキャラが書けるんだ。すごいな沙村広明。やはり天才なのでは…?


多分、今後私はこの漫画をずっと『ミナレー!がんばぇ~~!!』とひとり応援上映しながら読むことになるだろう。ミナレの覇道の行く末はどうなるんだろうか。いまから帰結が楽しみだ。

もしこの感想文というよりもわかりみ表明文に興味を示してくれたなら、だまされたと思って試し読みをしてみてほしい。ついでに刺さった人は、DMMブックスで初回購入限定でアホみたいな割引をしてるので全巻購入してみてほしい。私は血迷って限界冊数100冊まで購入しました。ありがとうDMMブックス!

試し読みはこちらから。


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