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アイルランド「意思決定への子ども・若者参加に関する国家枠組み」概要(1)

 アイルランドが2015年に策定した「意思決定への子ども・若者参加に関する国家戦略(2015~2020年)」について、以前のnoteの投稿(2021年1月1日)で取り上げました(なお、同戦略の成果を踏まえた次期政策文書についての意見募集が2022年12月1日~2023年1月23日にかけて実施され、現在検討が進められているところです)。

 子ども参加に関わるアイルランドの取り組みについては、内閣官房こども家庭庁設立準備室「こども政策決定過程におけるこどもの意見反映プロセスの在り方に関する検討委員会」の第3回会合(2022年12月16日)に提出された資料(資料2-1「諸外国の取組の収集 調査対象国の取組」株式会社NTTデータ経営研究所、PDF)でも包括的に取り上げられており、参考になります。

「諸外国の取組の収集 調査対象国の取組」株式会社NTTデータ経営研究所より

 その後、アイルランド政府は2021年4月に「意思決定への子ども・若者参加に関する国家枠組み」National Framework for Children and Young People's Participation in Decision-Making)を発表しました。

★ Minister O'Gorman launches the National Framework for Children and Young People's Participation in Decision-Making
https://www.gov.ie/en/press-release/06361-minister-ogorman-launches-the-national-framework-for-children-and-young-peoples-participation-in-decision-making/

 この「枠組み」は、子ども・若者の声に耳を傾け、意思決定における発言権を与える実践を向上させることについて、政府機関その他の組織を支援するためのものです。国連・子どもの権利条約および障害者権利条約に裏づけられたもので、関連の意思決定に携わる人々への指針やチェックリストを提供しています。「枠組み」の発表とあわせ、関係組織の能力構築のための補助金(Capacity Building Grant)を創設したことも発表されました。

 昨年(2022年)10月5日~7日にかけてアイルランドのダブリンで開催された第10回 Child in the City 世界会議でも、開会式でスピーチしたロドリック・オゴーマン大臣(子ども・平等・障害・統合・若者担当)が
「アイルランドは意思決定への子ども参加に関する世界のリーダーです。最初の〔2015年の〕国家戦略以降も取り組みを強化してきました」
 と胸を張っていましたが、確かに先進的な取り組みを進めていると言えます。同会議では、初日午前中の分科会(Parallel Session)でも子ども・平等・障害・統合・若者省の担当者から「枠組み」の紹介がありました。

 以下、「枠組み」の概要を簡単に紹介します。

「枠組み」のビジョンは「目的のある参加」(Participation With Purpose)です(p.6)。これには、「組織の目的」「意思決定に子ども・若者の関与を得ることの目的」という2つの側面があります。前者については、(1)日常的な活動や実践について、または(2)組織の目的・役割にとって中心的重要性を有するプロジェクト、プログラム、サービスまたは方針の策定について、子ども・若者に発言権を保障するということが主な目的となります。後者については、子ども・若者の意見が結果に影響を与えたり変化のきっかけとなったりすることが目指されなければなりません。

「枠組み」ではさらに、「参加とは何か」および「何が参加ではないか」についても説明されています(pp.6-7)。「参加とは何か」に関する説明は次のとおりです。

 意思決定への子ども・若者参加は次のように定義されます――「相互の尊重を基礎とする子ども・大人間の情報共有と対話を含む継続的プロセスであって、子どもたちが、自分たちと大人の意見がどのように考慮されてそのようなプロセスの結果を形作るかを理解できるもの」。このことが実践的に意味するのは、子ども・若者が、日常的な空間および状況(乳幼児期の学習・ケアの現場、病院、クラブなど)での意思決定にも、戦略的発展(政策、プログラム、サービス、立法、調査研究など)にも参画するべきだということです。
 意思決定への子ども参加を促進することは、権利の保有者としての子どもたちの地位を認め、子どもたちは「何者かになりつつある存在」(beings in becoming)ではなく「今日の市民」だと確認することです。国連・子どもの権利委員会は、乳幼児期に関する一般的意見〔注/一般的意見7号(2005年)、パラ17〕で、子どもには発達しつつ能力があり、成長・成熟するにつれて自分に影響を与える決定に参加できること、大人には子どもの意見表明を可能にし、促進するうえで重要な役割があることを指摘しました。
 子ども・若者には自分自身の生活に関する専門性がありますが、それは子ども・若者だけではありません。大人にも子ども・若者の生活に関して相当の専門性があります。ただ、大人は、子どもがどのような気持ちでいるか、何を考えているか、あるいはどのようなことを好むかについて常にわかっているわけではありません。ですから、意思決定を行なう立場にある大人が子ども・若者の声に耳を傾け、その意見を正当に重視することが重要なのです。

 この点については前述した Child in the City 世界会議でのプレゼンテーションのほうがわかりやすいので、それを紹介します。

意思決定への子ども・若者参加とは何か?
● 日常的状況や戦略的発展に関して行なわれる、自分に影響を与える決定についての発言権。
● 子ども・若者には主体性(agency)を発揮する力と権利があると考える。
● 子ども・若者には独自の視点があり、それは大人の視点と同じぐらい重要かつ貴重であることを知る。
● 子ども・若者は社会の未来であるだけでなく、いまを生きる存在であることを理解する。
● 公共政策は、生産的な大人としての子ども・若者の未来と同じぐらい子ども・若者の現在の生活にも焦点を当てれば、よりよいものになる。
● 子ども・若者の声に耳を傾けることは、子ども・若者の現在の生活を理解することの鍵である。

 さらに、「何が参加ではないか」については次のように説明されています。

 子ども・若者参加については多くの誤解があり、そのなかには意思決定への子ども・若者参加を制約する可能性のあるものもあります。
 確認のために記せば、次のようなことは意思決定への子ども・若者参加ではありません。
● 権限を子ども・若者に引き渡すこと。子ども・若者参加とは、子ども・若者が可能なかぎり全面的に関与するようなやり方で、大人が決定を行なうことです。
● 子ども・若者が自分の生活に関する唯一の専門家だと考えること――大人にも子ども・若者の生活に関する専門性があり、両方の専門性を組み合わせることこそ、よりよい決定が行なえるようになるのです。
● 子ども・若者が有害なことや安全ではないこと、あるいは自分の他の権利を侵害するようなことをやるのを認めること。意見を正当に重視される子ども・若者の権利と、危害から守られる子ども・若者の権利との間でバランスをとらなければならないこともあります。子ども・若者には、あらゆる場合に、自己の最善の利益が第一次的に考慮される形で決定を行なわれる権利があります。子ども・若者の最善の利益に関するすべての決定で、子どもの権利(意見を正当に重視される権利を含む)への影響が検討され、また子ども・若者の意見が考慮されるべきです。

 子ども・若者の意見を正当に重視するというのは、子どもが望むことをやる・実現するということを必ずしも/常に意味するわけではありません。子ども・若者の意見を正当に重視する効果的方法のひとつは、態度をはっきりさせるために役立つ情報を提供し、子ども・若者がどうしたいかを尊重・認知したうえで、もっとも安全・現実的な最善の決定について話し合うことです。実現が可能なこと・不可能なことや決定を行なわなければならない理由についてはっきりと説明することが大切です。

「枠組み」の基盤となっているのは、クイーンズ大学ベルファスト・子どもの権利センターのローラ・ランディ(Laura Lundy)教授が提唱し、ヨーロッパにおける子ども参加関連の政策文書等でしばしば参照されている「ランディ・モデル」です(p.15;noteでもこちらの記事こちらの記事で簡単に紹介してきました)。冒頭で紹介したNTTデータ経営研究所の報告書(PDF)でも解説されているので、抜粋しておきます。

「諸外国の取組の収集 調査対象国の取組」株式会社NTTデータ経営研究所より

 また、包括的原則(Overarching Principles)としては、国連・子どもの権利委員会が一般的意見12号(意見を聴かれる子どもの権利、2009年)で掲げ、子ども参加に関するスタンダードな基準となっている次の9つの要件が挙げられています(pp.12-13;詳しくは一般的意見12号〔日本語訳〕のパラ134を参照)。

(a) 透明かつ情報が豊かである
(b) 任意である
(c) 尊重される
(d) 子どもたちの生活に関連している
(e) 子どもにやさしい
(f) インクルーシブである
(g) 訓練による支援がある
(h) 安全であり、かつリスクに配慮している
(i) 説明責任が果たされる

 続きます

【追記】最後に触れたの9つの要件についてさらに詳しくは、セーブ・ザ・チルドレン『子ども参加のための9つの基本的要件:意味のある、倫理的な子どもの参加のために』PDF、日本語訳:公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン)参照。

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