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アイルランド「子ども・若者参加戦略」

 ウェールズ(英国)で2016年に策定された「全国子ども・若者参加基準」について、先日の投稿で紹介しました。

 アイルランドでも、2015年に「意思決定への子ども・若者参加に関する国家戦略(2015~2020年)」National Strategy on Children and Young People's Participation in Decision-Making 2015-2020)が策定されています。

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 昨日紹介した『人権擁護者である子どもの権利:実施ガイド』では、この戦略について次のように評価されています(p.24)。

アイルランド「国家子ども・若者参加戦略」
 子ども・若者参加に関する国家的戦略を策定した国または策定中である国は多い。アイルランドの戦略はもっとも包括的なもののひとつである。
 主要な特徴としては以下をあげることができる。
● 関連するすべての公的機関を対象として行動に関する合意が掲げられており、検証とモニタリングが毎年行なわれる。
● 地方・国家レベルで若者議会の制度が確立されている。
● 公的機関の研修を実施し、法律・政策に関する協議を行なう参加ハブ(participation hub)が設けられている。

 この戦略は、2014年に策定された「よりより成果、より明るい未来:子ども・若者のための国家政策枠組み(2014~2020年)」(Better Outcomes, Brighter Futures: The National Policy Framework for Children and Young People, 2014-2020)を踏まえたものです。この政策枠組みでは、次の図のとおり6つの変革目標と5つの成果(アウトカム)が掲げられていますが、3番目の変革目標に「子ども・若者の声に耳を傾け、その関与を得る」ことが掲げられています。

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 この戦略の主たる目標は以下のとおりです(p.3)。

1.子ども・若者が、地域コミュニティで行なわれる決定において発言権を持てるようになる。
2.子ども・若者が、乳幼児教育、学校およびより幅広い公式・非公式の教育制度において発言権を持てるようになる。
3.子ども・若者が、自分の健康およびウェルビーイングに影響を与える決定(子ども・若者に提供される保健・社会サービスについての決定を含む)において発言権を持てるようになる。
4.子ども・若者が、裁判所および法制度において発言権を持てるようになる。

 追加的目標として以下の3つが挙げられています(p.4)。

5.子ども・若者の参加を擁護・推進する効果的リーダシップを促進する。
6.子ども・若者とともにおよび子ども・若者のために活動する専門家の教育・訓練を発展させる。
7.政策立案、立法および調査研究において子ども・若者の参加を主流化する。

 これらのすべての目標に通底するのは、以下のような考え方です(p.4)。

● 子ども・若者には自分たちの生活に影響を与える決定に参加する権利があることを認める。
● 「子ども優先:子どもの保護および福祉に関する国家指針」(Children First: National Guidance for the Protection and Welfare of Children)にしたがって子ども・若者の保護および福祉を確保する。
● めったに声を聴かれることのない脆弱な状況に置かれた子ども・若者が意思決定に参加できるようにするためのしくみを改善・設置する。
● 子ども・若者参加の取り組みに関するデータ収集、モニタリングおよび評価を進める。

 このような目標を実現していくための制度的基盤として、子ども・若者問題省(DCYA)およびその関連機関(子ども・若者参加サポートチーム/子ども・若者参加ハブ/子ども・若者参加調査助言グループ)、子どもオンブズマン事務所、保健・教育等に関する査察機関ドーンナノーグ(若者議会)、コーラナノーグ(若者評議会)およびその全国機関、子ども・若者サービス委員会生徒評議会などが挙げられています。

 なお、コーラノーグ(Comhairle na nÓg)とは全国31か所に設置されている子ども・若者評議会で、ドーンナノーグ(Dáil na nÓg)はそこから選出された代表が2年ごとに集まって開催される全国子ども・若者議会のことです。若者を意味する na nÓg という言葉が用いられてはいますが、参加しているのは12~18歳の子ども・若者です。コーラナノーグの活動ぶりを紹介する動画(英語)がありますので、ご覧ください。

 この戦略には行動計画も掲げられており、子ども・若者問題省をはじめとする政府機関が、「よりより成果、より明るい未来」に掲げられたさまざまな目標に対するコミットメントを明らかにしています。

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 掲げられている目標は以下のとおりです。

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