見出し画像

アイルランド「意思決定への子ども・若者参加に関する国家枠組み」概要(2)

 前回の投稿〈アイルランド「意思決定への子ども・若者参加に関する国家枠組み」概要(1)〉の続きです。

「枠組み」では、「参加とは何か」および「何が参加ではないか」について説明したあとに、子ども・若者参加の具体的な進め方に関する指針が示されています(p.7以下)。構成は次のとおりです(「:」以下は平野による補足)。

● 意思決定に子ども・若者の関与を得る方法:最初にやるべきこと(何に焦点を当てるかなど)
● 組織内のさまざまなレベルで子ども・若者の関与を得ることに関するガイダンス:就学前施設、学校、ユースサービス、スポーツ、創造的・芸術的プログラム、政府機関および子ども・若者にサービスを提供する病院その他の機関などで考えられる子ども・若者参加の例
● 意思決定への子ども・若者参加のための常設機構(子ども・若者評議会、生徒評議会など):後述
● プロジェクトベースの子ども・若者アドバイザリーグループ
● 声を聴かれることがほとんどない子ども・若者が意思決定に関与することをどのように確保するか
● 子ども・若者の意見をフォローアップし、フィードバックする方法
:後述
● 子ども・若者に現実的な姿勢で向き合う

 以上のうち、常設機構(p.9)とフォローアップ/フィードバック(pp.10-11)の項を訳出しておきます。

意思決定への子ども・若者参加のための常設機構(子ども・若者評議会、生徒評議会など)
 意思決定における発言権を子ども・若者に与えるための常設機構(子ども・若者評議会、有識者委員会〔reference panel〕、生徒評議会、若者委員会など)を設ける組織・機関が増えています。このような機構は非常に効果的なものになり得ますし、子ども議会、子ども評議会、子どもクラブ、会議その他の機構における意思決定への子ども・若者の関与に対する肯定的影響を裏づけるエビデンスも相当存在します。
 ただし、常設機構については検討すべき重要な要素が少なくありません。
・常設機構を設置する前に、あるいはそれと並行して、子ども・若者があなたの組織と関わるために用いている日常的な方法や空間について検討し、子ども・若者の声を意思決定に包摂するためのアプローチとしくみを開発する。
・常設機構はけっして、意思決定に参加する子ども・若者の権利を組織として確保する唯一の方法とされるべきではない。意思決定において子ども・若者の声に耳を傾け、その関与を得るためには多様なアプローチを活用することがきわめて重要であり、その際、意見を聴かれることがほとんどない子ども・若者にとくに焦点を当てることも求められる。
・意思決定に子ども・若者の関与を得るうえで、常設機構が常にもっとも有効なやり方であるとは限らない。意思決定に子ども・若者の関与を得るためのアプローチがその目的に合致しているようにするため、ガイダンスを求めるべきである。

 最後の点については、前回の投稿で紹介した「ランディ・モデル」との関連で、参加の形態について(1)協議型(consultative)、(2)協働型(collaborative)および(3)子ども主導型(child-led)という3つの類型が提示され、目的に応じていずれの参加形態も適切なものとなりうることが指摘されています(p.16)。これについては、地方レベルの子ども・若者評議会について調査したユニセフの報告書でも強調されていますので、〈地方レベルの「子ども・若者評議会」はどうあるべきか――11か国の事例を踏まえて(ユニセフ)〉の後半を参照してください。

子ども・若者の意見をフォローアップし、フィードバックする方法
 政策、戦略的計画、サービス、法律および調査研究の策定には何か月も、場合によっては何年もかかる場合があります。子ども・若者は成長して先に進んでいくので、この要素は、意思決定に子ども・若者の関与を得る際の課題となります。意思決定に携わる人々は、この点について正直になり、子ども・若者の意見に基づいて変化を生じさせるようなことが起きるのにはある程度の時間がかかる可能性があることを伝えておかなければなりません。一方、COVID-19のような予期しない変化が生じたことによって非常に速いペースで意思決定を行なわなければならないこともあり、これも課題となります。このような状況では、子ども・若者を排除せず、意思決定プロセスの一環としてオンラインでやりとりする方法を見つけることが大切です。
 最終決定に至るまでの過程で子ども・若者の意見がどう扱われているかを注視しておくことが非常に重要です。意思決定に携わる人々には、権利の保有者(子ども・若者)に対し、その意見がどのように正当に重視されたかを明らかにする義務があります。このような義務を遵守するため、政府省庁、国家機関および関連組織として、子ども・若者から表明された意見が方針、実務および実施グループにどのように含まれたかのモニタリングと報告を行ない、かつプロセス全体を通じて子ども・若者にフィードバックがなされるようにする担当者を任命することが推奨されます。
 ランディは、子ども・若者との協議または集団的意思決定プロセスに関して、4つの"F"からなるフィードバックのプロセスを低減しています。
・全面的(Full):子ども・若者の意見のうちどれが受け入れられたか、どれが受け入れられなかったか、これらの決定の理由は何かの概要を述べた包括的なフィードバックを提供する。このフィードバックでは、子ども・若者の意見を誰が実施するのか、次は何が起きるのかについても触れておくことが求められる。
・子どもにやさしい(Friendly):意思決定に携わる人々が子ども・若者に対して行なうフィードバックや反応は、子ども・若者が理解できる形式および言葉遣いでなければならない。子ども・若者に対しては、協議や調査でわかったことや、子ども・若者の意見がどのように正当に重視されたかについて伝える必要がある。
・速やか(Fast):子ども・若者はすぐに成長し、いま関わっている物事から離れて次に進んでいくので、意思決定に携わる人々は、彼ら・彼女らの貢献を認知し、最初の段階でどのような進展があったかの概要を示し、次のステップに関する情報を提供するフィードバックをできるだけ速やかに提供しなければならない。これはすべての主要な段階および発展について当てはまる。
・フォローアップ(Followed-up):意思決定に携わる人々は、政策立案・意思決定プロセス全体を通じ、子ども・若者に対して継続的なフィードバックおよび情報提供を行なわなければならない。

「枠組み」では、大人による不当な影響を受けることなく自分自身の意見を表明する機会を子ども・若者に提供することの重要性も強調されています(p.14)。そのために配慮すべきこととして挙げられている内容も紹介しておきます。

● 大人が決めた論点について答えるように求めてばかりではなく、子ども・若者が持つ、枠にはまらない自由な考え(blue-sky thinking)を話すように求める。
● 子ども・若者の考えに影響を及ぼす可能性がある他の関係者の意見や情報は与えないようにする。
● 子ども・若者自身の経験と理解から出発する、ストレングス(強み)を基盤とするアプローチを用いる。
● 子ども・若者の関与を得ながら、年齢にふさわしく、魅力的で、障害のある子ども・若者にとってアクセシブルな手法を開発する。子ども・若者が、対面でもオンラインでも、自分を表現する方法を選べるようにする。
● 協議の際の質問は自由回答式にしたり、容易に理解できる調査を実施したりする。協議の際の質問は、子ども・若者のアドバイザリーグループで考えたり、事前に子ども・若者を対象として試行したりすることが理想である。
● 子ども・若者の意見を求める過程で、その意見に大人による解釈を重ねないようにする。
● 子ども・若者の意見の記録または報告は、大人による解釈を避けるようなやり方で行なう。

「枠組み」ではこのほか、ランディ・モデルを踏まえた一連のチェックリスト(計画用/評価用/日常空間用)や、子ども・若者からフィードバックを得るための書式なども用意されています(p.17以下;こちらのページから個別にダウンロードすることもできます)。たとえば、教室、病院、保育所、スポーツクラブなどの日常空間で活用することを目的としたチェックリストは次のようなものです(有料エリアで設問を訳出しておきます)。たとえば校則見直しへの子ども参加のあり方について考える際にも参考になるでしょう。

「枠組み」の資料2(Appendix 2、p.28以下)では、ランディ・モデルを適用したグッドプラクティス(優れた実践)の例もいろいろと挙げられています。これについても、機会があればまた紹介したいと思います。

【資料:日常空間用のチェックリストに掲げられたチェック項目】

ここから先は

614字

¥ 500

noteやホームページでの翻訳は、ほぼすべてボランティアでやっています。有用だと感じていただけたら、お気持ちで結構ですのでサポートしていただけると、嬉しく思います。