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アイルランド政府、意思決定への子ども・若者参加に関する新たな行動計画を発表

 アイルランド政府(子ども・平等・障害・統合・若者省=DCEDIY)は、4月12日、「意思決定への子ども・若者参加行動計画(2024~2028年)」Participation of Children and Young People in Decision-making Action Plan 2024-2028)を発表しました。2015年に発表された「意思決定への子ども・若者参加に関する国家戦略(2015~2020年)」(以下「国家戦略」)を引き継ぐものです。

★ Minister O'Gorman publishes the Participation of Children and Young People in Decision-making: Action Plan 2024-2028
https://www.gov.ie/en/press-release/d6997-minister-ogorman-publishes-the-participation-of-children-and-young-people-in-decision-making-action-plan-2024-2028/

 この行動計画の主たる目的は、「国家戦略」から変更されていません。すなわち、子ども・若者(行動計画では24歳未満の若者も対象とされています)が、(a)地域コミュニティで行なわれる決定、(b)乳幼児教育、学校およびより幅広い公式・非公式の教育制度で行なわれる決定、(c)自分の健康およびウェルビーイングに影響を与える決定(子ども・若者に提供される保健・社会サービスについての決定を含む)、(d)裁判所および法制度で行なわれる決定において、発言権を持てるようにすることです(p.14)。

「国家戦略」ではさらに、以上の目的を達成するための追加的目的が3つ挙げられていましたが、これも若干表現を変えたのみで引き継がれています(ibid)。

  • 政府の意思決定ならびに政策、立法および調査研究の発展に子ども・若者の声を組みこむ(embed)。

  • 子ども・若者の参加を擁護・推進する効果的リーダシップを促進する。

  • 子ども・若者とともに/のために活動する専門家の教育・訓練を発展させる。

 これらの目的に通底する4つの基本原則も、ほぼ変わっていません(ibid)。

  • 子ども・若者には自分たちの生活に影響を与える決定に参加する権利があることを認める。

  • 「子ども優先:子どもの保護および福祉に関する国家指針」(2017年)にしたがって子ども・若者の保護および福祉を確保する。

  • めったに声を聴かれることのない脆弱な状況に置かれた子ども・若者が意思決定に参加することを、そのためのしくみを設置・改善することによって確保する。

  • 参加の取り組みを、しっかりしたデータ収集、モニタリングおよび評価によって下支えする。

 以上の目的と原則を踏まえたうえで、今回の行動計画では、これまで行なってきた取り組みをさらに拡大・発展しようとしています。さらなる取り組みが必要な領域として例示されているのは、たとえば次のような分野です(p.10;太字は引用者=平野)。

  • 参加型イベントに関与した子ども・若者の規模、関与の態様および年齢層についてデータを収集する。

  • 子ども・若者との協議が行なわれた際のフィードバックの循環を完結させる。「意思決定への子ども・若者参加に関する国家枠組み」(2021年)で述べられているように、子ども・若者に対しては、その意見がどこでどのように活用されたか、また子ども・若者の意見が最終決定に影響を与えたのであればその影響がどのようなものであったかが説明されるべきである。

  • 政府資金による参加のための体制の到達範囲を広げ、通常は意見を聴かれていないまたは参加のためにエンパワーされていない子ども・若者の声を包摂する。

  • オンラインフォーラムを通じた意思決定に子ども・若者を安全に包摂するため、テクノロジーによってもたらされる機会を最大限に活用する。

  • 家庭における意思決定に子ども・若者の声を包摂することに関して、親を支援する。

  • 子ども・若者の声を聴き、それに基づいて行動することに関する国際的取り組みに貢献し、これを支援する。

  • あらゆる部門を通じて、かつ子ども・若者とともに/のために働くすべての実務家の間で、子ども・若者の生活に関連する問題について子ども・若者と効果的かつ安全に協議するための能力構築を図る。

  • 参加に関する養成教育・研修の位置づけを、子ども・若者とともにおよび子ども・若者のために働くすべての専門家を対象とする正式な養成教育・継続職能開発へと格上げする。

 具体的には、次の8つの行動領域に焦点を当てていくとしています(p.15;太字は引用者=平野)。

  1. 政府全体を通じて、意思決定ならびに政策、立法および調査研究の発展に子ども・若者の声を組みこむ。

  2. 子ども・若者の生活に関連するすべての部門全体を通じて、意思決定に子ども・若者を包摂するための能力構築を図る。

  3. コミュニティおよび家庭における意思決定への子ども・若者の包摂を促進する。

  4. 教育制度における意思決定に子ども・若者の声を組みこむ。

  5. 子ども・若者が受ける保健サービスおよび社会サービスでの意思決定に子ども・若者の声が包摂されることを確保する。

  6. 裁判所および裁判制度における意思決定で子ども・若者の声を包摂できるようにする。

  7. オンラインにおける意思決定への、子ども・若者の安全かつ公平な参加を支援する。

  8. 関与および参加のために追加的支援を必要とする者を含むすべての子ども・若者を対象とする、包摂的かつアクセシブルで安全な参加の体制を発展させる。

 各領域についてさらに詳細な行動項目・担当機関・時間枠などを掲げたチェックリストも、あわせて作成されています(p.38以下)。

 これらの分野における行動を通じ、▽自己に影響を与える決定において発言権を持つ子ども・若者の権利に関する認識が高まること、▽「すべての子ども・若者がその生活状況、民族、身体的能力または他のいずれかの考慮事項もしくはその子ども・若者が必要とするかもしれないものにかかわらず歓迎される」、参加のための常設のしくみがさらに発展していくこと、▽「意思決定プロセスに子ども・若者が包摂される状況を当たり前のものになっていく(normalise)ことなどの成果につなげようというのが、今回の行動方針の眼目です(pp.15-16)。2021年4月に発表された意思決定への子ども・若者参加に関する国家枠組みの全面的実施を促進することもについても触れられています。

 新たに導入される主要な取り組みとして挙げられているのは、たとえば次のようなものです(p.16;太字は引用者=平野)。

  • 参加の取り組みを、家庭、裁判所および養護の現場を含む一連の新たな分野へと拡大する。

  • 教育部門における参加プロセスを発展・向上させるため、教育省内に新たな「生徒参加課」(Student Participation Unit)を設置する。

  • 障害のある子ども・若者が関与する参加プロセスについてのガイダンスを制作・提供する。

  • 政策立案者、サービス提供者および子ども・若者とともに/のために働く専門家を対象として、子ども・若者とともに参加の取り組みを進めていけるようにするための研修モジュールを開発する。

 教育省に「生徒参加課」を新設するなどして教育現場における子ども参加の促進に力を入れていこうとしているのは興味深い点なので、別途取り上げようと思います(追記:取り上げました)。

 今回の行動計画が策定された経緯(第3章)、DCEDIYの資金援助により設けられている子ども・若者参加のための体制・しくみ(第4章)についても触れられていますが、これについては省略します。昨年(2023年11月)に発表された「若きアイルランド:子ども・若者のための国家政策枠組み(2023~2028年)」にも1章が割かれていますが(第5章)、これについては以前のnoteの投稿をご参照ください。

 DCEDIYのロドリック・オゴーマン大臣は、行動計画に寄せた序文で次のように述べています(p.6)。

「私たちは、自己に影響を与える事柄に関して意見を聴かれる子ども・若者の権利の実現に関して、新たな段階に入ろうとしています。包摂性が、この段階の鍵となる要素です。自分の生活に影響を及ぼす決定が行なわれる際に意見を聴かれかつ考慮される機会が、状況や能力にかかわりなく、すべての子どもに与えられなければなりません」

 今後のアイルランドの取り組みに、引き続き注目していきたいと思います。

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