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欧州評議会の専門家グループ、女性に対するオンラインの暴力についての一般的勧告を採択

 本日11月25日は「女性に対する暴力撤廃の国際デー」(International Day for the Elimination of Violence against Women)です。

 女性に対する暴力の問題を正面から取り上げた地域文書として、欧州評議会の女性に対する暴力およびドメスティックバイオレンスの防止およびこれとの闘いに関する条約イスタンブール条約、2011年)があります。

 同条約の実施状況を監督している「女性に対する暴力とドメスティックバイオレンスに反対する行動に関する欧州評議会専門家グループ」(GREVIO)は、このほど「女性に対する暴力のデジタルな側面についての一般的勧告1号」をとりまとめました(2021年10月20日採択/11月24日発表)。

★ Council of Europe - New Council of Europe recommendation tackles the "digital dimension" of violence against women and girls
https://www.coe.int/en/web/portal/-/new-council-of-europe-recommendation-tackles-the-digital-dimension-of-violence-against-women-and-girls
(さらに詳しくはこちらのリリースを参照)

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 同勧告は、オンラインで行なわれる女性・女児に対する暴力として、とくに次のものを取り上げています。

1.オンラインのセクシュアルハラスメント(イスタンブール条約40条)
 a)裸のもしくは性的な画像・ビデオを同意なくシェアすること、またはシェアすると脅すこと:いわゆる「リベンジポルノ」を含む。
 b)性的含意のある(intimate)画像・ビデオを同意なく撮影・製造・取得すること:「スカート内盗撮」、「クリープショット」(胸・性器周辺・臀部のような性的部位を焦点を当てた盗撮)、「フェイクポルノ」などを含む。
 c)搾取、威迫または脅迫:強制的なセクスティング(性的なメッセージや画像等の送信)、性的強要、レイプの脅迫、性的な/ジェンダー化された晒し行為、なりすまし行為、アウティングなどを含む。
 d)性的ないじめ:被害者の性的行動とされるものに関するゴシップや噂を流すこと、被害者の投稿や写真に性的コメントをつけること、被害者になりすまして性的コンテンツのシェアや他人に対するセクシュアルハラスメントを行なうこと、アウティングやボディシェイミング(身体的特徴をからかうこと)を行なうことなどを含む。
 e)サイバーフラッシング:マッチングアプリ、メッセージ送信アプリ、AirdropやBluetoothなどのテクノロジーを用いて性的画像を送りつけること。
2.オンラインの/テクノロジーによって助長されるストーカー行為(イスタンブール条約34条)
3.心理的暴力(イスタンブール条約33条)のデジタルな側面

 そのうえで、▽防止、▽保護、▽訴追および▽政策調整の4分野にわたって具体的勧告が行なわれています。これには次のような措置が含まれます(前掲プレスリリース〔詳細版〕より)。

-女性に対する暴力のデジタルな側面にしたがって関連の法律を見直すこと。
-とくに男性・男児の間でジェンダーステレオタイプやジェンダー差別を根絶するための取り組みを行なうこと。
-あらゆる段階の教育へのデジタルリテラシー教育およびオンラインセーフティ教育の包摂を促進すること。
-法的手続や支援サービスに関する情報を作成・普及すること。
-支援サービスやカウンセリングにすべての被害者がアクセスできるようにすること。
-専門家および電話によるヘルプラインに訓練と資源を提供すること。
-インターネット仲介事業者に対し、コンテンツモデレーション(不適切なコンテンツの監視および対応)のためのインセンティブを提供すること。
-法執行機関が効果的な捜査・訴追のために必要な手段と知識を備えられるようにすること。
-刑事司法機関による事案発生状況報告書の刊行を確保すること。
-インターネット仲介事業者に対し、デジタルな暴力行為が処罰されない状況に終止符を打つための責任の共有と行動を奨励すること。
-国家的な戦略・行動計画に、女性に対する暴力のデジタルな側面を含めること。
-デジタルな側面における女性に対する暴力についてのデータ収集システムを確立すること。
-自殺およびジェンダーに基づく殺人についてのデータに、オンラインハラスメント関連の情報が含まれるようにすること。

 欧州評議会人権コミッショナーも、11月24日に行なったスピーチで今回の勧告の採択を歓迎しました。

★ Council of Europe Commissioner for Human Rights - Combating violence against women in a digital age utilising the Istanbul Convention: GREVIO General Recommendation No.1 on the Digital Dimension of Violence against Women
https://www.coe.int/en/web/commissioner/-/combating-violence-against-women-in-a-digital-age-utilising-the-istanbul-convention-grevio-general-recommendation-no-1-on-the-digital-dimension-of-vio

 同コミッショナーが言及しているこれまでの関連の取り組みのうち、性的搾取および性的虐待からの子どもの保護に関する条約(ランサローテ条約、2007年)はすでに訳出済みです。また、「セクシズムの防止およびこれとの闘い」に関する欧州評議会閣僚委員会勧告CM/Rec(2019)1(2019年3月27日)についてはこちらの記事の後半で概要を紹介しておきました。

 ネット空間における女性・女児に対する暴力は日本でも問題になっており、イスタンブール条約および今回の一般的勧告1号は今後の対策を考えるうえで参考になるはずです。また、日本もイスタンブール条約に加入することは可能なので、検討することが求められます(国連・女性差別撤廃委員会の元委員長を務めた林陽子弁護士の見解を紹介したFacebookへの投稿〔2019年2月22日〕も参照)。9月11日の記事〈G7内務省会合が女性・女児に対する暴力や子どもの性的搾取・虐待の防止に対するコミットメントを再確認〉で紹介したように、日本は、オンラインにおけるものも含む女性・女児に対する暴力への取り組みを強化していくというコミットメントを国際的に再確認しています。

 英国の「悪意のコミュニケーション法」(Malicious Communications Act 1988, c. 27)やニュージーランドの「有害デジタル通信法」(Harmful Digital Communications Act of 2015)、フィリピンの「女性およびその子どもに対する暴力禁止法」(Republic Act (RA) No. 9262、2004年)の適用拡大の動きについて、Facebookへの2020年5月24日付の投稿も参照(コメント欄で関連資料も紹介しています)。

【追記】(12月8日)オンラインで行なわれる女性・女児に対する暴力とイスタンブール条約およびブダペスト条約(サイバー犯罪条約、2001年)との関連性に関する新しい研究報告書(PDF)が刊行されたので、紹介しておきます。

-Council of Europe: How two key Council of Europe conventions can tackle online violence against women
https://www.coe.int/en/web/portal/-/how-two-key-council-of-europe-conventions-can-tackle-online-violence-against-wom-1


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