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森喜朗・オリパラ組織委会長の性差別発言に国連・女性差別撤廃委員会が関心/欧州諸国大使館も暗黙の抗議

 東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長による性差別発言が国内外で厳しく批判されています(オリンピック関連の文書を具体的に示した批判として、たとえば日本スポーツとジェンダー学会執行部「森喜朗・公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長の発言に関する緊急声明」など参照)。

 国連・女性差別撤廃委員会(CEDAW)も関心を示していることが明らかになりました。

★東京新聞:森氏発言に海外の女性差別撤廃委から照会 撤廃委員の秋月・亜大教授に
https://www.tokyo-np.co.jp/article/84302

 東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長による女性蔑視とも取れる発言について、国連女性差別撤廃委員会が関心を示していることが5日、撤廃委委員を務める亜細亜大の秋月弘子教授への取材で分かった。秋月氏が国外の撤廃委委員から、森氏の発言について照会を受けた。秋月さんは「撤廃委は、日本に根深いジェンダー差別が残っていると考えるだろう」と指摘した。(柚木まり)
◆日本の女性取り巻く実態尋ねられる
 秋月さんによると、他国の女性委員から5日に連絡があり、海外でも数多く報道されている森氏の発言を含め、日本の女性を取り巻く実態を尋ねてきた。
 日本政府は、来年にも撤廃委に女子差別撤廃条約の履行状況について審査を受ける見通し。秋月さんに問い合わせてきたのは日本を審査予定の委員。秋月氏は今回の照会があったことを、外務省にも通知した。(後略)

 CEDAWによる次回の日本の報告書審査は「簡略報告手続」(simplified reporting procedure)で行なわれます。
・締約国による定期報告書の提出 ⇒ 委員会による事前質問事項(List of Issues)の作成・送付 ⇒ 政府による文書回答の提出 ⇒ 本審査
 という通常の手順を踏むのではなく、まず委員会が事前質問事項(List of Issues Prior to Reporting: LoIPR)を作成し、それに対する文書回答をもって定期報告書に代えるというやり方です。

 CEDAWは2020年3月に日本に対するLoIPRを採択し、政府に送付しています。文書回答(第9回定期報告書)の提出期限は今年(2021年)3月9日です。「家父長制的態度および深く根差したステレオタイプと闘うためにとられた措置」(パラ8)や「締約国において意思決定に女性が参加することの重要性および女性のエンパワーメントを図る必要性に関する意識を高めるためのキャンペーンその他の努力」(パラ14)についても質問されており、日本政府としても今回の森発言を踏まえた回答を求められるでしょう。

 日本がこれまでCEDAWに提出してきた報告書およびCEDAWによる総括所見(最終見解)などの資料は、内閣府男女共同参画局のサイトに掲載されています(なお、前掲記事中に「日本を審査予定の委員」とありますが、これは日本の報告書審査を主として担当する委員のことで、審査そのものは委員会全体で行なわれます)。

 一方、欧州諸国の在日大使館や一部国連機関も、森発言べの抗議であることを明示はしていませんが、 #DontBeSilent などのハッシュタグをつけたツイートを続々と行なっています。

1)ハフポスト日本版:各国大使館が男女平等で連帯ムーブメント「誰かが一線を越えたら、声をあげよう」
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_601de8ddc5b6c56a89a0fb0e

2)毎日新聞:森氏発言に「沈黙しないで」 欧州大使館などツイッターで手を挙げ抗議の反応
https://mainichi.jp/articles/20210206/k00/00m/030/087000c

3)現代ビジネス:世界が呆れる…森喜朗「女性蔑視発言」に、各国大使館が「抗議の男女平等ツイート」を始めた…!
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/79995

 以前Facebookで紹介しましたが、日本もオブザーバー国として参加している欧州評議会の閣僚委員会は、2019年3月27日、「セクシズムの防止およびこれとの闘い」に関する勧告CM/Rec(2019)1(Recommendation CM/Rec(2019)1 of the Committee of Ministers to member States on preventing and combating sexism)を採択しました(PDF)。

 勧告の付属文書「セクシズムの防止およびこれとの闘いに関するガイドライン:実施措置」は、「セクシズム」を次のように定義し、▽インターネット/ソーシャルメディア、▽メディア・広告・通信サービス、▽職場、▽公共部門、▽司法部門、▽教育施設、▽文化・スポーツ、▽私的領域といったさまざまな分野でとられるべき措置を詳細に列挙しています。

 ある人または人の集団がその性別ゆえに劣っているという考え方に基づき、ネット上かネット以外の領域かを問わず公的または私的な領域で行なわれるあらゆる行動、行為、表現、口頭もしくは文書による発言、慣行または振舞いであって、以下のいずれかを目的としまたは以下のいずれかの効果を有するもの:
  i. ある人または人の集団の固有の尊厳または権利を侵害すること。
  ii. ある人または人の集団に身体的、性的、心理的または社会経済的危害または苦痛をもたらすこと。
  iii. 威嚇的な、敵対的な、品位を傷つける、屈辱的なまたは侮辱的な環境を生み出すこと。
  iv. ある人または人の集団による自律および人権の完全な実現を妨げる障壁となること。
  v. ジェンダーに基づくステレオタイプを維持しかつ強化すること。

 森発言に対して厳しい対処をするのはもちろんのこと、女性差別撤廃条約およびCEDAWの一般的勧告に加えてこのような文書も参考にしながら、対策を強化していく必要があるでしょう。

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