日本若者協議会、「学校内民主主義」の制度化に向けた提言を発表――学校で子どもの権利を守るための法改正を
★日本若者協議会:文部科学省に「学校内民主主義」の制度化に向けた提言を提出しました
https://youthconference.jp/archives/7537/
1月22日、日本若者協議会が文部科学省に「『学校内民主主義』の制度化に向けた提言」を提出しました。東京新聞〈「ブラック校則」見直しは子どもや保護者も一緒に 「校内民主主義」の制度化を市民団体が提言〉(1月22日配信)などでも報じられています。
「提言」の構成は次のとおりです。
私も検討会議のメンバーとして提言の作成に関わったので、補足の意味でいくつかコメントしておきます。
教育関係の法律に子どもの権利(子どもの権利条約の4つの原則を含む)の明記を
1.a(法令における子どもの権利の明記)では次のことを提言しています。
〈教育基本法/学校教育法/地方教育行政の組織及び運営に関する法律(地教行法)などの学校教育に関わる法令を改正し、日本国憲法や子どもの権利条約に掲げられている子どもの権利を学校現場でも尊重され〔尊重し〕なければならない旨、明記すること。特に、条約の4つの一般原則(差別の禁止/子どもの最善の利益/生命・生存・発達/子どもの意見の尊重)を学校運営における基本理念として明示的に位置づけること。〉
昨年の投稿〈ノルウェー新教育法、児童生徒の最善の利益/参加権に加えて「学校民主主義」の推進なども規定〉で紹介したように、ノルウェーでは、昨年(2023年)6月に成立した新たな教育法で次のような規定を設けました。
日本でも、こども基本法で確認され、改訂「生徒指導提要」でその重要性が強調されている子どもの権利条約の4つの一般原則を教育法令に明記することについては、異論はないはずです。子どもの意見表明権(表明した意見を正当に重視される権利も含む)および参加権についても、「望ましい」実践としての位置づけに留めるのではなく、きちんと権利として保障することが必要です(この点につき、「学習者の参加は良質な教育の核です。あらゆる教育経験の一環として、自分に影響を与える事柄についての発言権を持つことは若者の権利です」と明言するスコットランド教育省のガイダンスも参照)。
なお、1.c(生徒会以外の意見表明の仕組みの整備)は私が要望して入れてもらったものです。生徒会のようなフォーマルなしくみも重要ですが、それだけではさまざまな子どもの声を十分にすくい上げることはできません。提言では「生徒組合(Student Union)」が例示されていますが、たとえば「目安箱」のように個人で意見を表明できる手続も考えられます。
子どもに対する有害な言動の禁止と「懲戒権」規定の見直しを
〈2.校則および生徒指導について〉では、(a)校則における子どもの権利の尊重、(b)校則改正手続きの見直しに加えて、(c)懲戒のあり方や(d)内申書・評価のあり方の見直しも提言しています。(c)や(d)は、それ自体が子どもの権利に関わる問題であるとともに、児童生徒による意見表明・参加にも重大な影響を及ぼすためです。
とくに強調しておきたいのは、2.c(児童生徒に対する身体的・精神的暴力の禁止および懲戒のあり方の見直し)に関する次の提言です。
〈体罰だけではなく、教職員による虐待相当の行為その他児童生徒の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動を明示的に禁止するとともに、このような言動に関する通告・報告義務について規定すること。あわせて、校長・教員の懲戒権に関する規定を抜本的に見直し、適正手続きについても規定すること(学校教育法第11条及び同施行規則第26条の改正)。〉
前段については、私もかねてから唱えてきたことです(たとえば安全な生徒指導を考える会の院内集会「子どもを自殺・不適切指導から守ろう!」に寄せたメッセージや〈保育所・幼稚園等における「不適切な保育」――台湾での法改正の動向と日本の課題〉など参照)。児童生徒を暴力から守る意思さえあれば、法改正に支障はないはずです(ただし、通告先を教育委員会に限定すると問題の解決が妨げられるおそれもありますので、市町村・都道府県の首長部局を含めることなども検討する必要はあると思います)。
後段に掲げている「懲戒権」規定の見直しについては、私は当初そこまでの問題意識は持っていなかったのですが、2022年12月の法改正により民法の懲戒権規定(822条)が削除され、それにあわせて児童福祉法および児童虐待防止法からも「懲戒」という言葉が削除されたことを考えれば(こちらのPDF参照)、学校教育法11条の「校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない」という規定も全面的に改正すべきではないかというもっともな提起があり、次のような条文案を起案しました。
「校長及び教員は、児童生徒及び教職員の安全及び心身の健康並びに児童生徒の発達及び学習を保障するため、文部科学大臣の定めるところにより、必要な範囲内で児童生徒に対して措置をとることができる。その際、当該児童生徒の人格及び尊厳を尊重するとともに、適正手続き(当該児童生徒の意見表明権及び意見表明に際して第三者による支援を得る権利を含む)を遵守するものとする。」
この点についても、児童福祉分野ですでに導入されてきた考え方および取り組みを学校教育現場にも適用するというだけの話ですので、法改正に支障はないでしょう。なお、条文案の第2文で「意見表明に際して第三者による支援を得る権利」にも触れておきましたが、個人的には、子どもアドボケイト(意見表明支援員)や弁護士に限らず、保護者、他の教職員、友人など子ども本人が信頼できる人による支援を想定しています。
子どもの権利の視点を踏まえた校則のあり方については、親と子と教職員の教育相談室『教育相談室だより』第120号(2023年6月)に寄せた拙稿〈子どもの権利を守るための校則へ〉(PDF)などもご参照ください。
〈3.学校内民主主義を強化するためのその他の施策について〉では、学校現場で子どもの権利を保護・促進していくために必要なその他の施策が提言されています。日本若者協議会代表理事の室橋祐貴さんが記者会見で述べたように(教育新聞〈「学校内民主主義」の推進に向けた法整備を提言 日本若者協議会〉1月22日配信)、今回の提言は「子どもの基本的な権利を守るという最低ラインを法律で保障しようという提案」ですので、文部科学省には、こども家庭庁とも連携しながらしっかり取り組んでいってもらいたいと思います。
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