静岡県裾野市の認可保育園で起きた保育士による園児虐待事件などを受け、厚生労働省は12月7日付で事務連絡「保育所等における虐待等に関する対応について」(PDF)を発出しました。
そこでは、児童福祉施設の設備及び運営に関する基準第9条の2において「児童福祉施設の職員は、入所中の児童に対し、〔児童福祉〕法第33条の10各号に掲げる〔虐待〕行為その他当該児童の心身に有害な影響を与える行為をしてはならない」と規定されていることなどを確認したうえで、保育所等における虐待の発生防止の徹底、虐待が疑われる事案が発生した場合の適切な対応などがあらためて促されています(なお、文部科学省も12月8日付で事務連絡「幼稚園及び特別支援学校幼稚部における不適切な保育に関する対応について」〔PDF〕を発出しました)。
就学前施設における子どもの不適切な取り扱いは台湾でも問題になっており、今年に入り、このような行為への対応を強化するための法改正が行なわれました。改正の概要についてはFacebookの投稿(2022年3月11日)で紹介していますので、採録しておきます。
以上の改正案はいずれも立法院で可決され、6月29日に公布されています。それぞれ英語版も作成されていますので、条文の具体的規定内容はそちらをご参照ください。
-幼兒教育及照顧法(中文/英語版):とくに第30条ならびに第23条以下(停職・解雇等)および第50条以下(罰則)
-教保服務人員條例(中文/英語版):とくに第33条ならびに第13条(停職・解雇等)および第40条以下(罰則)
台湾ではさらに、性犯罪等で有罪判決を受けた教職員への対応を厳格化する「教育人員任用條例」(中文/英語版)の一部改正案も、7月21日に閣議決定されました。これについてもFacebookへの投稿(2022年7月23日)を採録しておきます。なお、こちらはまだ立法院で可決されていないようです。
日本では、▽2008年12月の児童福祉法改正で導入された「被措置児童等虐待の防止等」に関する一連の規定(第7節・第33条の10~17;通告義務、通告した施設職員等の保護を含む)の適用対象から保育所を除外したこと、▽学校教育法にはいまだにこのような規定が設けられていないこと*など、何か起きるたびに場当たり的な法改正を重ねてきている点に、根本的な問題があるように思われます。
今後、子どもに対する暴力関連の法令を整理統合することの検討も含め、子どもが生活したり学んだり遊んだりする施設等で起きる、あらゆる形態の身体的・精神的・心理的・性的暴力に対して統合的に対応するための方策を整備していくことが求められます。
緊急に対応すべき課題としては、保育園を考える親の会「保育施設における不適切保育の防止に関する緊急要望」も参照。そこでは次の8項目が要望されています。
(1)関係者の啓発を行ってください
(2)内部告発や保護者の訴えを受ける窓口を設置してください
(3)自治体・事業者・施設長の責務を明確化してください
(4)調査・事後検証の手順を示してください
(5)保護者には正確な事実を伝えてください
(6)子どもの心の状態を確認し、必要なサポートを提供してください
(7)保育士資格剥奪と再取得の禁止措置を定めてください
(8)保育士に適格で意欲的な人材が集まるよう制度を改善してください
関連して、現在「学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン(案)」に関するパブリックコメントが実施されています。子どもに対する暴言・暴力などについてもある程度言及されていますが、十分なものではありませんので、とりいそぎ「子どもの権利」と「子どもに対する身体的・精神的・性的暴力」の観点から次のような意見を提出しておきました(Facebookでは紹介済み)。12月16日(金)が意見の提出期限ですので、参考にしていただければと思います。
最後に付言しておきますが、今回、当該認可園の園長が職員に口止めを図っていたなどとして裾野市長による刑事告発(犯人隠避容疑)が行なわれたことにも注目しています。島沢優子著『スポーツ毒親――暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』(文藝春秋・2022年)でも報告されていますが、スポーツクラブで暴力事件が起きたときなど、保護者が加害者を守ろうとしておたがいに口止めを図ろうとする例もあります。状況によってはこのような行為に犯人隠避罪などが適用される可能性もあることを周知していけば、こういうことも少なくなるかもしれません。