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資料:国・地方レベルの公的意思決定プロセスへの子ども参加のあり方に関する欧州評議会のガイド

 現在、こども家庭庁が「こども・若者の意見の政策反映に向けたガイドライン(案)~こども・若者の声を聴く取組のはじめ方~」に関するパブリックコメントを実施中です(3月6日(水)午後5時まで)。Facebookではとりいそぎ次のようにコメントしておきました。

 ざっと見た感じでは、大事なポイントはおおむね網羅されており、なかなかよくできているという印象です。関係者のみなさん、お疲れ様でした。これまでにnoteなどで紹介してきたさまざまな資料も振り返りながら、じっくり検討してみたいと思います。

 とりあえず追加したほうがよいと考えているのは、とくに地方議会に対する請願・陳情など、子ども自身が主体的に意見を提出することのできる既存のしくみを子どもたちに積極的に周知していくための取り組みへの言及です。国会や議会でも、子ども・若者の意見を十分に踏まえた議論が行なわれるようにしていく必要があります(国連・子どもの権利委員会とIPU=列国議会同盟=の共同声明〔2022年11月〕も参照)。

 また、〈施策に反映するために出てきた意見を「翻訳」する(本質的なニーズをくみ取る)こと〉の必要性が指摘されている点(pp.6 & 7)も、少々気になりました。言わんとするところはわからないでもないのですが、大人による恣意的な解釈が横行しないよう、表現や説明に工夫が必要だと感じます。少なくとも「翻訳」という言葉はやめたほうがよい気がします。

 この点については、検討の過程でも参照していただいたと思いますが、アイルランド「意思決定への子ども・若者参加に関する国家枠組み」でも、
・子ども・若者の意見を求める過程で、その意見に大人による解釈を重ねないようにする。
・子ども・若者の意見の記録または報告は、大人による解釈を避けるようなやり方で行なう。
 といった注意喚起が行なわれています。

 提出期限までにあらためて検討して意見を送りたいと思いますが、この機会に、そのうち取り上げようと思っていた欧州評議会の資料を紹介しておきます。以前の投稿〈ヨーロッパ:子ども参加推進のためのオンライン・プラットフォーム〉で紹介した Child Participation for Europe (CP4E) に掲載されているものです。

★ Let's decide together!: Guide to meaningful and effective engagement of children in decision-making processes
https://rm.coe.int/let-s-decide-together-guide-to-meaningful-and-effective-engagement-of-/1680abb33e

「いっしょに決めよう!:意思決定プロセスへの子どもの意味のある効果的な関与の手引」と題するこのガイド(2023年6月)は、国・地方レベルの公的意思決定プロセスへの子ども参加のあり方について解説したものです。次の6章から構成されています。

第1章:国・地方の公的機関における意思決定プロセスへの、意味のある、包摂的で安全な子ども参加の前提
 -支援的な政策と法的枠組み
 -関連する研修・職能開発の機会
 -子ども人口の多様性に関する認識
 -専用の財源
 -支援的なセーフガーディング(安全確保)の枠組み
第2章:子どもが意思決定に関与し得る分野・問題・活動
第3章:意思決定プロセスに子どもの関与を得るための計画活動
第4章:意思決定プロセスに子どもの関与を得るための実施活動
第5章:フィードバックの提供および意思決定プロセスへの子ども参加の評価
第6章:意思決定プロセスへの子ども参加におけるセーフガーディング

 巻末には付録として自己評価のためのチェックリストも掲載されています。

 このガイドで指摘されている重要な内容の多くは「こども・若者の意見の政策反映に向けたガイドライン(案)」でも踏まえられていますので、とりたてて詳しく説明すべき点もないのですが、フィードバックのあり方については、アイルランドの「意思決定への子ども・若者参加に関する国家枠組み」でも採用されている“4つのF”――全面的(Full)/子どもにやさしい(Friendly)/速やか(Fast)/フォローアップ(Followed-up)――の考え方に加えて次のような留意点が詳しく述べられていますので(pp.25-26;太字は原文ママ)、参考になるかもしれません。大人から子どもへのフィードバックだけではなく、子どもたちからのフィードバックにも触れられている点は大切だと思います(これは子ども参加の評価とも関連します)。

● フィードバックの提供プロセスを学びのプロセスととらえ、次のことを考慮する。
-子どもたちが評価するフィードバックは、自分たちが何をうまくやれたのか、何をどうすればさらに改善できたかをはっきりと示してくれるものである。
-多すぎるフィードバックはだめ!
-フィードバックは常に、子どもたちの参加に関する肯定的な所見から始め、続けて(必要であれば)提案または改善点を述べ、最後にあらためて肯定的な所見を述べるようにするべきである。
-子どもたちは、自分たちのことをよく知っている大人、あるいは自分たちとともに活動した大人からのフィードバックを評価している。
-大人は、意思決定プロセスで子どもたちと交流する重要な方法のひとつとしてフィードバックをとらえるべきであり、フィードバックを行なう際には十分に準備を整えておくべきである。子どもたちには、何を改善できるかだけではなく、なぜ若干の変更を加えることが大切で、どのようにすれば改善できるかについても告げる必要がある。一例として、次のようなフィードバックを想像してみてもよいだろう。「みんなの前であんなふうにプレゼンテーションして、スピーチのあいだずっとアイコンタクトできていたのは、本当によかったと思う。次は、参加しているみんなに聞こえるように、もっと大きな声で話すようにしてみよう。あなたが言うことはとても貴重なことだからね。大きな声で話すには、背筋をぴんと伸ばすといいかもしれないよ」。いずれにせよ、「だけど」とは口にしないようにすること。「だけど」と言ってしまうと、子ども参加について、そして行なわれた決定についてその前に話したすべての肯定的側面が、子どもたちの心のなかで打ち消されてしまう可能性がある。
-フィードバック後のフォローアップを行なう時期について、大人と子どもで合意しておくとともに、子どもたちがフィードバックについて検討するうえでさらに支援が必要かどうか、確認するべきである。

● フィードバックには、プロジェクトの成果と、子どもたちの意見がどのように活用されたかについての情報が含まれているべきである。子どもたちの提言や改革案を公的機関が取り上げなかった場合、〔子ども参加の取り組みを行なった〕組織は、信頼構築に役立てるため、また効果的参加の現実がどのようなものかを十全に理解する一助とするため、隠し立てをすることなく、どうなったかを子どもたちに知らせることが求められる。

● フィードバックのための一貫したセッションを発展させることにより、意見表明および参加に対する子どもたちの動機づけを高めることができる

● 参加がどのように進められたか、自分たちの意見がどのように考慮されたか、全般的プロセスをどのように感じたかについてフィードバックを行なうよう、子どもたちを奨励・支援する。対面での会話でこのようなフィードバックを行なうことに子どもたちが居心地の悪さを感じるなら、匿名で行なえる手段(たとえばSurveyMonkey、Googleフォーム、Microsoftフォーム、匿名メールなど)を提供してもよい。

● 子どもたちに対する/子どもたちから出されたフィードバックをフォローアップすること! このことは、新たなスキルや能力を伸ばすことに関して子どもたちを支援するための資源を、提案されたような形で(トレーニングやメンタリングを提供することなど)配分することを意味する場合もあれば、大人に対し、より多くの情報や、子ども参加支援のスキルを高めるための活動(外部研修、同様の実践をしている人々の交流、内部研修およびコーチングなど)を提供することを意味する場合もあろう。

 ガイドの作成に協力した子どもたちがどのようなフィードバックを望んでいたかについても箇条書きで記されていますので(p.26)、それも紹介しておきます。

  • 個別的(Individual)なもの

  • できるだけ客観的なもの

  • 子どもの年齢、経験、能力に会ったもの

  • 子どもたちにどのような長所(strengths)があったか、子どもたちがどのようにうまくやれたかに焦点を当てたもの

  • 短いもの

  • 子どもたちの参加のおかげで肯定的な成果が出たら、そのことについて子どもたちが振り返られるよう、成果が出ると同時に与えられるもの

  • 理想的には匿名のもの(とくに、引っ込み思案で過敏な子どもの場合)

  • 現実の成果に言及するもの

  • 形式的ではない、フレンドリーで楽しいやり方で行なわれるもの

 最後に、このガイドでは「意思決定プロセスへの」子ども参加という表現が用いられている点にも注意しておきたいと思います。こども家庭庁が「こども・若者の意見の政策反映」に焦点を当てるのは、こども基本法11条の規定(「国及び地方公共団体は、こども施策を策定し、実施し、及び評価するに当たっては、当該こども施策の対象となるこども又はこどもを養育する者その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講ずるものとする」)に照らしても自然なことではありますが、より幅広い「意思決定プロセスへの」参加という視点を持つことも重要だと感じます。

noteやホームページでの翻訳は、ほぼすべてボランティアでやっています。有用だと感じていただけたら、お気持ちで結構ですのでサポートしていただけると、嬉しく思います。