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国連特別報告者が「エンターテインメント産業における子どもの性的虐待・搾取」に関する情報を募集(~10月4日)

 Facebookでとりいそぎお知らせしておきましたが、子どもの売買、性的搾取および性的虐待に関する国連特別報告者が、「エンターテインメント産業における子どもの性的虐待・搾取」に関する情報の募集を開始しました(8月18日確認)。
 来年(2024年)3月の国連人権理事会第55会期に向けて提出するテーマ別報告書の参考とすることが目的で、提出期限は2023年10月4日です。ジャニーズ事務所で行なわれていた性加害問題に関するヒューマンライツ・ナウの声明(2023年7月18日付)も脚注7で参照されており、今回のテーマが選ばれた背景のひとつにこの問題があった可能性もあります。
 以下、募集要領の本文の全訳を掲載します(送付先や語数制限などについては募集要領ページの一番下に掲載されています)。
 なお、これも4月にFacebookで触れておきましたが、同特別報告者の名称は、「子どもの売買、児童買春および児童ポルノに関する特別報告者」(1990年)→「子どもの売買および性的搾取(児童買春、児童ポルノおよびその他の子どもの性的虐待表現物を含む)に関する特別報告者」(2017年)→「子どもの売買、性的搾取および性的虐待に関する特別報告者」(2023年4月)と変遷していますので、付記しておきます。

【追記】(2024年3月2日)特別報告者による報告書(A/HRC/55/55)が公表されています。/(3月22日)この報告書に関して特別報告者が国連人権理事会で行なった発言の一部をnoteで紹介しました。

情報の呼びかけ:エンターテインメント産業における子どもの性的虐待・搾取に関する研究

発表者:子どもの売買および性的搾取に関する特別報告者
期限:2023年10月4日


趣旨:子どもの売買、性的搾取および性的虐待に関する国連特別報告者の報告書の参考とすること。人権理事会決議52/26にしたがい、人権理事会第55会期に提出される次回のテーマ別報告書のプレゼンテーションは2024年3月に行なわれる。

背景と目的

 エンターテインメント産業における子どもの性的虐待・搾取はさまざまな場面および文脈において蔓延しており、業界に存在する脆弱性とパワーダイナミクス次第でリスクが増大する[1]。エンターテインメント部門の子ども・青少年は通常、地方もしくはコミュニティにおけるエンターテインメント事業で、観光・おもてなし企業で、コマーシャルのためのキャスティングで、オーディションで、映画・音楽部門で、ソーシャルメディアで、あるいはグラマー系・スポーツ系雑誌を通じて、この産業に関与している。

 エンターテインメント部門が非公式で規制のない領域に及び、経済的誘因の影響を受けやすい子どもが契約書もないまま労働力として利用されることもあり、そこには虐待・搾取のリスクが多数存在する[2]。このような形で影響を受ける子どもとしてはとくに歌手、俳優、ショー出演者、ダンサーおよびアスリートなどが挙げられ[3]、デジタル空間では、チャット、ゲーム、視覚的描写、画像およびグラフィックにおける子どもの直接のまたはバーチャルな表象も、収益を生むエンターテインメント産業の一部となっている[4]。

 加害者は、物理的に存在することによってかデジタルプラットフォームを通じてかにかかわらず、脆弱性につけこんで子どもを不適切な状況に追いこみ、あるいは機会と引き換えに子どもに性的行為を要求したり、長時間働かせたり、危険にさらさせたりしている。このような業界内の子どもたちの多くは、通常、家族または保護者といっしょに暮らしていない可能性がある[5]。公的・私的な場面で行なわれる、非倫理的慣行または権力・権威の濫用に由来する子どもの性的搾取・虐待の事件は世界的に報告されてきた[6]。業界関係者を相手どった一連の訴訟で、懸念の対象としての子どもの性的搾取・虐待に関するさまざまな事件が世界的に明るみに出ている[7]。被害者およびサバイバーの訴えが、沈黙をもって迎えられたり、否認されたり、調査されなかったり、強要や脅迫の対象とされたり、被害回復措置を利用できない状況に置かれたりする場合も多い[8]。

 国連・子どもの権利条約(CRC)は、あらゆる形態の搾取から保護される権利を子どもに付与しており、これには仕事に関連するリスクも含まれる[9]。現存するリスクとの闘いにおいて重要なのは、エンターテインメント産業への子どもの関与および業界または事業者の行為が、適用される国際法上の枠組みと合致するようにすることである。これらのことは、就業に関する最低年齢要件、労働時間制限、義務教育および労働条件指針の分野で関連性を有しており、業界における子どもの安全とウェルビーイングのために、そのすべてが実施されなければならない。エンターテインメント産業における技術的な急拡大、前進および革新も、新たに浮上する課題への対処がエンターテインメント産業に関与する子どもの保護のためになされるようにするためのニーズを評価する際に、考慮する必要がある。

 国際的レベルでは、エンターテインメント産業における性的虐待・搾取からの子どもの保護について定めたさまざまな法的文書、指針および優れた実践が存在する。

 国際労働機関(ILO)第182号条約では、子どもの性的搾取を含む最悪の形態の児童労働が扱われており、あらゆる形態の搾取(児童労働の文脈で生じうる性的搾取を含む)から子どもを保護するための重要な指針が示されている。子どもの権利条約(CRC)は、子どもの権利の概要を明らかにするとともに、生活のあらゆる分野における子どもの保護のための最低基準を掲げている。CRC第34条では、ポルノ的な実演および表現物への関与を含む性的搾取・虐待からの保護について、とくに扱われている[10]。子どもの売買、児童買春および児童ポルノに関する子どもの権利条約の選択議定書は、これらの犯罪を防止しかつこれらの犯罪と闘うための措置をとることを締約国に義務づけており、エンターテインメント産業における子どもの搾取の事案についても関連性を有する。

 子どもの権利委員会は、報告書審査において、とくにエンターテインメント施設における子どもの性的搾取の規模および広がりに関する懸念を強調してきた。このような子どもには、遠隔地の村出身の女子や不利な社会経済的背景を有する女子で、エンターテインメント施設で働き、児童セックスツーリズムの被害を受けやすい子どもも含まれる[11]。委員会は、とくに、子どもの性的搾取の防止について、観光業界、メディア企業および広告企業、エンターテインメント業界ならびに公衆一般と連携して意識啓発キャンペーンを実施すること[12]や、インフォーマル部門、危険な労働現場およびエンターテインメント施設で働く子どもの保護などを目的として。現行法の執行ならびに防止を目的とする行政措置、社会政策およびプログラムを強化し、かつ労働監察官を増員すること[13]を勧告してきた。

 国レベルでは、政府は、この業界を規制しかつこの業界で働く人々を保護する法律が整備されていること、および、これらの法律が国際基準にのっとって実施されることを確保しなければならない。

 このような法的枠組みに基づき、締約国は十分な措置をとることを義務づけられているものの、エンターテインメント産業における子どもの性的搾取・虐待の現象との闘いに向けた努力を阻害する課題も多い。これには業界における性的虐待の広がりおよび実演に従事する子どもの権利に関する知識が限られており、そのため性的虐待・搾取の事件の発見、通報および防止が困難になっていることも含まれる。エンターテインメント産業における性的虐待事件の捜査も、業界の複雑さ、有力者の影響力、ダークウェブにおける子どもの性的虐待表現物の使用、訴え出ることに対する被害者のためらいを理由として、課題の多いものになりうる。エンターテインメント産業における性的虐待の被害者は、虐待者に対して声をあげれば脅迫、脅しまたは報復に直面するかもしれない。同時に、一部の法域では、性的虐待の申告に関する時効のために、事件発生から何年も経って自分の経験を明らかにする場合もある被害者にとって正義が妨げられる可能性もある。加えて、エンターテインメント産業は国境を越えて活動していることが多く、事件が異なる国々で起きた場合には捜査の調整と法律の執行が困難になりうる。

 この問題に十分に対処・対応する目的で、この問題に関する意識啓発のためにもっとできることがあるし、国、エンターテインメント産業、市民社会、親または保護者を含むすべての関係者に、エンターテインメント産業において子どもたちのために安全な環境を創出・維持するためにもっとできることがあるはずである。

目的

 特別報告者が来たる報告書において目指すのは、(i)実演に従事する子どもがエンターテインメント産業内でさらされる性的搾取・虐待のリスクについて探求すること、(ii)この問題に対処する際の課題を特定すること、(iii)エンターテインメント産業における性的虐待から子どもの安全を確保するために必要な介入領域の分析を行なうこと、(iv)この問題の防止およびこの問題への対応に関する措置や優れた実践を明らかにすること、そして(v)この問題に関する意識を高め、かつ勧告を行なうことである。

 報告書作成の参考とするため、特別報告者は、各国、国内人権機関、市民社会組織、国連機関、学界、国際・地域機関、事業者、個人に対し、次の点に関する情報提供を呼びかける。

求められる主要な設問およびインプット

1.エンターテインメント産業における子どもの性的虐待・搾取はどのような形で表れているか? 業界内で報告された事案のうち、通報された事件および判決が言い渡された事件の例を共有されたい。

2.子どもの脆弱性から派生する権力の不均衡によって、子どもはどのようにエンターテインメント産業における性的搾取・虐待のリスクにさらされているか?
  1.このことは、非公式な場面と、契約が履行される公式な場面ではどのように該当するか?
  2.この点に関わる状況的な(contextual)課題にはどのようなものがあり、リスクを緩和するためにどのような戦略がとれるか?

3.エンターテインメント産業における性的搾取・虐待から子どもを保護することに関わって課題となる具体的課題は何か?

4.実演に従事する子どもをエンターテインメント産業における搾取・性的虐待にさらす可能性のある法律上・手続上の障壁はどのようなもので、この問題に効果的に対処するためにどのような措置を実施しうるか?

5.未成年者を虐待・搾取から保護するうえで児童労働法にはどのような課題と関係があり、エンターテインメント産業における子どものウェルビーイングを守るためにこれらの法律の執行をどのように改善できるか?

6.エンターテインメント産業における子どもの性的虐待の被害者およびサバイバーにとって、通報のための適正なしくみを利用しにくくさせている要因はどのようなものか? 報復または業界からの影響を恐れることなく訴え出るよう被害者を励ますために、秘密が守られる安全な通報制度をどのように設置できるか?

7.エンターテインメント産業で実演に従事する子どもを性的搾取・性的虐待から保護するためにこれらの子どもを支援しつつ、事業者および営利企業を代表する個人が実施するべき具体的な安全確保措置はあるか?

8.加害者およびエンターテインメント産業における性的虐待を可能にしまたは隠蔽した者の責任をどのように問うことができるか? 潜在的犯罪者を思いとどまらせ、不処罰に終止符を打ち、通報と透明性の文化を涵養するためにどのような措置をとれるか?

9.エンターテインメント産業内で起きる可能性がある虐待の兆候を認識し、性的虐待事件を通報することに関して、業界の専門家、リスクにさらされている子ども、親・保護者およびコミュニティを教育する効果的方法には、どのようなものがあるか?

10.実演に従事する子どもとその家族を対象として、性的搾取・虐待から保護される権利についての意識啓発およびエンパワーメントをどのように図ることができるか? また、エンターテインメント産業内で悪影響を受けたときに、通報経路または司法へのアクセスに関してどのような支援を提供できるか?

11.エンターテインメント産業における子どもの性的虐待の被害者およびサバイバーに対し、その十分な回復および再統合を図るための資源および被害回復措置(リハビリテーションおよび包括的支援サービスを含む)をどのように提供できるか?

12.エンターテインメント産業における国境を越えた性的虐待問題にいっそう効果的に対処するために、法域間・法域同士の国際的な連携・協力をどのように強化できるか?


[1] The Opportunity Agenda, Sexual Violence, The #METOO movement and the narrative shift 参照。

[2] Freedom Fund, Commercial sexual exploitation of children in Nepal: Shifting Forms of Abuse, 2021 参照。

[3] Murshamshul, M. K., Udin, N. M., Ghadas, Z. A. A., & Mohd Shahril Nizam, M. R. (2018), Child Performers in the Entertainment Industry: An Analysis from the Employment Regulations Perspective, International Journal of Academic Research in Business and Social Sciences, 8(12), 1557 – 1568 参照。

[4] UNICEF, Discussion Paper Series: Children’s Rights and Business in a Digital World, Child Rights and online gaming: Opportunities and challenges for children and the industry, 2019 参照。

[5] 脚注2の参照文献。

[6] Project WHEN, Harassment in the media and entertainment industry 参照。Journal of Clinical Psychology, Justine J. Reel and Emily Crouch, #MeToo: Uncovering Sexual Harassment and Assault in Sport, 2019 も参照。

[7] Helping Survivors of Sexual Abuse and Assault, History of Hollywood Sexual Abuse 参照。Human Rights Now, Oral statement on sexual violence in the entertainment industry, July 2023 も参照。

[8] UCLA Women’s Law Journal, Breeland, Nikki R., 'All the Truth I Could Tell': A Discussion of Title VII's Potential Impact on Systemic Entertainment Industry Victimization (January 18, 2018), available at SSRN: https://ssrn.com/abstract=3106284 or http://dx.doi.org/10.2139/ssrn.3106284 参照。Louisette GEISS et al., Plaintiffs. v. The Weinstein Company Holdings LLC, et al., Defendants事件(2019年)も参照: https://casetext.com/case/geiss-v-weinstein-co

[9] Cambridge University Press, Manfred Liebel, Do children have a right to work? Working children’s movements in the struggle for social justice, 2012.

[10] 子どもの権利条約第34条参照。「締約国は、あらゆる形態の性的搾取および性的虐待から子どもを保護することを約束する。これらの目的のため、締約国は、とくに次のことを防止するためのあらゆる適当な国内、二国間および多数国間の措置をとる。(a)何らかの不法な性的行為に従事するよう子どもを勧誘または強制すること。(b)売春または他の不法な性的行為に子どもを搾取的に使用すること。(c)ポルノ的な実演または題材に子どもを搾取的に使用すること」

[11] CRC/C/OPSC/BTN/CO/1 (CRC-OP-SC 2017 )

[12] CRC/C/JPN/CO/4-5 (CRC 2019 )〔平野注/日本の第4回・第5回統合定期報告書に関する総括所見(2019年)、パラ15(c)〕

[13] CRC/C/OPSC/KHM/CO/1 (CRC-OP-SC 2015 )


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