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子どもの売買・性的搾取・性的虐待に関する国連特別報告者、エンターテインメント産業における子どもの性的虐待・搾取について国連人権理事会で報告

 Facebookではとりいそぎ紹介しておいたのですが、子どもの売買・性的搾取・性的虐待に関する国連特別報告者が国連人権理事会に提出した「エンターテインメント産業における子どもの性的虐待・搾取」についての報告書(A/HRC/55/55)が、1月5日付で発表されています。3月5日には国連人権理事会(第55会期)で報告書のプレゼンテーションが行なわれました。

★ OHCHR - Sexual abuse and exploitation of children in the entertainment industry must stop immediately: UN expert
https://www.ohchr.org/en/press-releases/2024/03/sexual-abuse-and-exploitation-children-entertainment-industry-must-stop

 この報告書は、昨年(2023年)8月から10月にかけて実施された情報募集に応じて提出された意見書などを踏まえて作成されたものです。情報募集の設問の日本語訳はnoteで紹介済みですので、ご参照ください。提出された意見書はこちらのページの下のほうに Inputs Received として掲載されています。

 日本政府も特別報告者の呼びかけに応じて意見書を提出し、「こども・若者の性被害防止のための緊急対策パッケージ」(2023年7月26日)などの取り組みを報告しています(ただし現行法制・施策の一般的な紹介に留まっており、旧ジャニーズ事務所問題を含む具体的問題には言及していません)。日本政府の意見書は特別報告者による報告書でもいくつかの箇所で言及されており、とくに「緊急対策パッケージ」については、「雇用関係および教師-生徒関係をともなった子どもへの犯罪に関連する法執行を強化するとともに、文化芸術分野で活動する人々を対象として活動の適正な実施についての相談サービスを提供するための措置を盛りこんだもの」として取り上げられています(報告書パラ61)。

 OHCHR(国連人権高等弁務官事務所)の前掲プレスリリースに基づき、国連人権理事会におけるママ・ファティマ・シンハテ(Mama Fatima Singhateh)特別報告者の発言内容(一部)を紹介しておきます。

「エンターテインメント産業では、非倫理的なシステム、構造、実践または権力・権威の濫用から生じる子どもの性的虐待および搾取が広がっています」

「虐待事案の相当数は、蔓延するパワーダイナミクス、有害なジェンダー規範、報復やキャリア機会の喪失に対する恐怖を主たる理由として、通報されないままになっています。これらの要素は、俳優やパフォーマーの志望者を含む脆弱な状況に置かれた子どもを権威ある立場にある者が搾取する環境づくりに、しばしばつながっています」

「さまざまなエンターテインメント現場における人権侵害的な労働条件や子どもの性的虐待・搾取の描写は、一線を超える傾向にあるというだけではなく、子どもを客体化・道具化するものでもあります」

「被害者やサバイバーは、沈黙、否認、調査の拒否、強要、強迫、あるいは被害回復措置を利用できない状況に直面してきました」

「子どもに対する人権侵害的な環境を悪用・助長する者に対する、法的枠組みに基づいたゼロトレランス政策を厳格に実施するとともに、子どもにとって安全なビジネスモデルを確保するために事業主とのパートナーシップを確立すること、監督および説明責任確保のための手続を設けること、オンライン空間を対象とする技術的安全確保措置を実施すること、そして複数のステークホルダー間の連携を促進することは、同産業において子どもの健康、安全、プライバシーおよびウェルビーイングを確保する多くの方法の一部です」

 このような認識を踏まえ、特別報告者の報告書では、(1)法的枠組み、(2)知識の共有、意識啓発および能力構築、(3)司法およびサービスへのアクセス、(4)調査研究・協力の4分野について多岐にわたる勧告が行なわれています(パラ71;pp.17-20)。

 今回の報告書の内容はそのうち他の方も紹介するのではないかと思いますので詳細は省きますが、たとえば(1)法的枠組みとの関連では▽すべてのエンターテインメント事業者の義務的登録および子どもの安全確保のための業界団体の創設(1(e))、▽スタッフおよび顧客を対象とする行動規範の策定(1(f))なども促されており、業界としてもさらなる対応が必要となるでしょう。

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