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国連人権理事会、子どもの権利の主流化に関する決議で子ども参加のための体制づくりを各国に奨励

 前回の投稿で述べたように、国連人権理事会が4月5日に無投票で採択した「子どもの権利:子どもの権利の実現と包摂的な社会的保護」に関する決議(A/HRC/RES/55/29;現時点では決議案を参照)では、「包摂的な社会的保護」と並んで「子どもの権利の主流化」についても取り上げられています。

 これは、昨年(2023年)7月にとりまとめられた「子どもの権利の主流化」に関する国連事務総長ガイダンスノートを踏まえたものです。同ガイダンスノートの実施の調整はOHCHR(国連人権高等弁務官事務所)とユニセフ(国連児童基金)が中心となって進めていくことになっており、今回の国連人権理事会に、「国連の活動における子どもの権利基盤アプローチの強化」(Strengthening a child rights-based approach in the work of the United Nations)に関する国連人権高等弁務官の報告書(A/HRC/55/36、PDF)が提出されています。

 国連人権高等弁務官の報告書では、世界人権宣言採択75周年記念事業 Human Rights 75 の一環としてOHCHRが実施した子ども調査を含むこの間の取り組みを振り返り、ガイダンスノートを踏まえてOHCHRおよび国連人権機構が今後進めていくべき対応のあり方を提示しています。国連加盟国に対しても、表現は弱めながら次のような措置が奨励されていますので(パラ65)、訳出しておきます(太字は平野による)。

65.加盟国は次のことを検討してもよいかもしれない(may wish to consider)。
(a)国際人権法に基づいて全範囲の子どもの権利に関わる義務を実現し、促進しかつ尊重するため、国レベルで子どもの権利基盤アプローチを体系的に採用すること。
(b)地方、国、国際地域および国際社会の議論の場で意見を聴かれる子どもの権利を促進する目的で、子どもの安全を正当に尊重しながら、子ども参加のための構造化された子どもにやさしい方式(modalities)を確立するための措置をとること。
(c)国連システム全体を通じた子どもの権利の主流化におけるOHCHRの主動的役割を想起するとともに、次の点に関わるOHCHRのテーマ別能力を高めるための財政支援の強化に対するコミットメントを再確認すること。
 (i)国際人権法にのっとった全範囲の子どもの権利について、要請に応じ、加盟国その他の関係者に助言および能力構築活動を提供すること。
 (ii)ユニセフと協力しながら、子どもの権利の主流化に関する国連事務総長ガイダンスノートの実施を調整し、かつその実施における進展を恒常的にモニタリングすること。

 この報告書も踏まえた決議(案)では、「子どもの権利の主流化」(Child rights mainstreaming)という見出しのもと、とくに子ども参加を強調しながら、子どもの権利の主流化に関する国連事務総長ガイダンスノートに次のように言及しました(パラ17)。

「17.自己の人権の享受に影響を及ぼすすべての意思決定プロセスへの子どもたちの積極的かつ意味のある関与(取り残されるおそれがもっとも高い子どもたちの関与を必然的にともなうもの)なども通じ、子どもの権利の視点を統合することの必要性を強調するとともに、子どもの権利の主流化の達成にとっての必要性に応じて、関連する国連の行動および国連の議論の場において子どもたちの倫理的な、意味のあるかつ安全な参加を確保することについての、国連システム全体および国連諸機関(国連人権高等弁務官事務所ならびに人権に関する調査および説明責任確保のための機構を含む)に対する明確な機会を掲げている子どもの権利の主流化に関する国連事務総長ガイダンスノートに、評価の意とともに留意する」

 さらに、各国に対し、「地方、国、国際地域および国際社会の議論の場で意見を聴かれる子どもの権利を促進する目的で、子ども参加のための構造化された子どもにやさしい方式を確立するための措置をとる」よう奨励する(パラ18)とともに、国連人権高等弁務官の報告書のパラ65(c)の内容をほぼそのまま踏襲してOHCHRへの財政支援の強化を促しています(パラ19)。同報告書のパラ65(a)に書かれていた内容(国レベルで子どもの権利基盤アプローチを体系的に採用すること)以外は、同弁務官の提言が採用された形です。

 なお日本の場合、早くも国連・子どもの権利委員会による第2回審査(2004年)の際に、立法、政策立案および広報・研修との関係で子どもの権利基盤アプローチの採用を勧告されていたことに注意が必要です(第2回総括所見パラ11、12aおよび20)。こども大綱(2023年12月22日閣議決定)で「こどもや若者に関わる全ての施策において、こども・若者の視点や権利を主流化し、権利を基盤とした施策を推進する」方針が打ち出されたこと(p.10)により、20年前の勧告を実行に移していける可能性がようやく出てきました。

 決議(案)ではさらに、国連事務総長、国連人権高等弁務官、国連人権理事会の特別手続その他の人権機構、すべての人権条約機関などに対し、国連事務総長ガイダンスノートの実施を含む取り組みをさらに継続・強化していくことが要請されています(パラ20~26)。

 なお、国連人権理事会で毎年3月に開催される子どもの権利に関する全日討議のテーマは、2025年が「乳幼児期の発達」(パラ25)、2026年が「子どもの権利と武力紛争における子どもの人権侵害」(パラ26)と決定されました。討議に向けて子ども参加のための支援を行なうことも要請されています。

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