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スコットランド(英国)政府、「子どもの人権アプローチ」に関するガイダンスを発表

スコットランド:子どもの権利に関する幼い子ども向けの絵本〉の末尾に書いておきましたが、2021年3月にいったん可決されながらも英国政府の異議申立てを最高裁が認めたことにより修正を余儀なくされていた国連・子どもの権利条約(編入)(スコットランド)法案は、昨年(2023年)12月7日、修正版の法案がスコットランド議会により可決されました。今回は英国政府による異議申立てもなく、英国国王の裁可を経て1月16日に成立しています。大部分の規定は半年後の7月16日に施行される予定です。成立した法律を踏まえた日本語訳の修正は、時間のあるときにやっておきます。

 一方、スコットランド政府は1月8日、「子どもの人権アプローチ」に関する新たなガイダンスTaking a children's human rights approach: guidance)を発表しました。

 ガイダンスの構成は次のとおりです。

1.はじめに
2.国連・子どもの権利条約の紹介
3.国連・子どもの権利条約(編入)(スコットランド)法案の紹介
4.子どもの人権アプローチ
5.その他の規則および義務との関連
付属文書A.
(ケーススタディ)
付属文書B.(イージーリード版資料作成の手引;以前紹介したEU欧州委員会のガイドを踏まえたもの)
付属文書C.(関連リンク集)

 ガイダンスのいう子どもの人権アプローチは、ウェールズ子どもコミッショナーが2017年に提唱した「子どもの権利アプローチ」モデルを踏まえたものです(ウェールズにおける同アプローチの展開についてはこちらの投稿に掲載した一連のリンクを参照)。次の5つの原則が掲げられています。

1.子どもの権利を根づかせる:子ども・若者に影響を与えるサービスの計画および実施の中核に子どもの人権を位置づける。
2.平等と差別禁止:すべての子ども・若者が自分の人生や才能を最大限活かすための平等な機会を持てるようにする。
3.子どものエンパワーメント:自己の権利を活用し、自分の生活に影響を与える組織・個人に説明責任を果たさせるための知識および自信を子どもに与える。
4.参加:子どもの声に耳を傾け、その意見を真剣に受けとめる。
5.説明責任:組織および個人は、子どもの人生・生活に影響を与える決定および行動について、説明責任を果たすべきである。

 各原則に関する記載内容を簡単に紹介しておきます。興味深い内容が多いので、機会を見て個別に取り上げるかもしれません。

1.子どもの権利を根づかせる

 ここではまず「子どもの権利・ウェルビーイング影響評価」(Child Rights and Wellbeing Impact Assessment: CRWIA)について取り上げられています。国連・子どもの権利条約(編入)(スコットランド)法の成立にともない、今後、これまでは「推奨」の対象に留まっていたCRWIAの実施がスコットランドの各大臣の「義務」となります(17条)。CRWIAについてのガイダンスは2021年11月に作成されています。

 子どもの権利影響評価については、ウェールズ政府によるマニュアル(2021年11月)、スコットランド子ども・若者コミッショナーによるガイド(2022年10月)、オーストラリア連邦人権委員会の報告書とツール(2023年10月)なども参照してください。

 この原則との関連で詳細に言及されているもうひとつのテーマは、「子どもの権利予算」(Child rights budgeting)です。「子どもの権利実現のための公共予算編成(第4条)」に関する国連・子どもの権利委員会の一般的意見19号(2016年)も参照しつつ、子どもの権利の視点に立った予算編成・執行のあり方を具体的に提示しています。そのうちもう少し詳しく紹介したいと思いますが、とりあえず〈スコットランドの民間団体、子どもの権利を踏まえた予算プロセスのあり方に関する報告書を発表〉を参照。

2.平等と差別禁止

 ここでは、平等と差別禁止に関わる公的機関の義務についてはすでに定められている基準に簡単に触れるに留め、「包摂的なコミュニケーション」(inclusive communication)――障壁となる可能性がある要素(年齢および成熟度、言語または障害など)を考慮に入れた、誰もが理解できるやり方で情報を共有すること――について詳しく述べています。包摂的なコミュニケーションの原則は次の6つです。

1)コミュニケーション上のアクセシビリティと物理的アクセシビリティは同じぐらい重要である。
2)すべてのコミュニティまたはグループに、さまざまなコミュニケーション支援のニーズを有する人々が含まれているはずである。
3)コミュニケーションは、他者を理解し、自分を表現する双方向のプロセスである。
4)サービスの提供方法について柔軟さを保つこと。
5)さまざまなコミュニケーション支援のニーズを有する子どもの効果的参加。
6)努力を続けること。

3.子どものエンパワーメント

 ここでは子どもの権利に関する意識啓発の重要性およびあり方が詳しく述べられています。スコットランド政府は今年、全国的な意識啓発キャンペーンを展開する予定とのことです。

 本文ではとくに触れられていませんが、子どものエンパワーメントに関する上記の説明で、子どもによる権利行使とともに「自分の生活に影響を与える組織・個人に説明責任を果たさせる(hold organisations and individuals that affect their lives to account)ための知識および自信を子どもに与える」ことにも言及されているのは、興味深い点です。

4.参加

 この原則に関する説明は、スコットランド政府が2020年3月に発表した「意思決定:子ども・若者の参加」についてのガイダンスと共通する点が多いので、そちらをご参照ください。昨年3月に発表された「乳幼児の声:ベストプラクティス・ガイドラインと乳幼児への誓い」も紹介されています。今回のガイダンスでは取り上げられていないものの、教育現場における子ども参加のためのガイダンス(2018年)もあわせてご参照ください。

5.説明責任

 ここでは、▽意思決定に関する子ども・若者へのフィードバック(アイルランド「意思決定への子ども・若者参加に関する国家枠組み」で示されている“4つのF”モデルが参照されています)、▽子どもにやさしい苦情申立て手続▽子どもの権利報告書(たとえばこちらの記事を参照)、▽子どもの権利擁護(アドボカシー)について取り上げられています。

 子どもにやさしい苦情申立て手続については、スコットランド公共サービスオンブズマン(SPSO)による手続モデルが今年4月に発表される予定のようなので、あらためて確認し、必要に応じて内容を紹介したいと思います。とりあえず、〈子どものための相談(苦情申立て)サービスはどうあるべきか:アイルランド子どもオンブズマン事務所の指針〉〈国内人権機関は子どもの相談(苦情申立て)にどのように対応すべきか:ユニセフのツールキット〉など参照。

 今回のガイダンスの内容は、子どもの権利の視点を十分に踏まえながら日本で「こども大綱」を実施していくうえでも参考になるでしょう。

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