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ラジオドラマ「壊れたパンジー」

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【登場人物】
 菊田一夫(78)ゴミ屋敷の住人
 落合実(23)看護師
 竹内美知子(48)菊田の娘
 清水順(53)包括支援センターの職員
 川崎恵美子(42)看護師長
 里中賢(30)理学療法士
 和田敏夫(70)病院総務

   SE 椅子の壊される音

菊田「ごめんな。すぐ連れてってやるからな」

   SE 救急車の音

恵美子「救急車到着です」

落合(M)「看護師長のその一言で、救急担当の外科医と看護師が二人立ち上がった。俺も慌てて立ち上がり、足早に部屋を出て行った三人を追う。病院の入り口で救急車の後ろドアが開き、中年の男に手を引かれ、その老人は自分の足で救急車から降りてきた」

菊田「すんません。お世話になります」

落合(M)「老人はそう言うと、深々と頭を下げた。雪の降る、クリスマスの夜だった」

恵美子「落合くん、早く!」
落合「はい!すみません!」

落合(M)「俺は落合実。大学を卒業後、この井上総合病院で働き始めて、初めての冬を迎えている」

恵美子「失礼します。菊田さん、お加減いかがですか?」
菊田「なんともねぇよ」

落合(M)「この老人は菊田一夫。昨日入院してきた老人だ。聞いた話によると、特に悪い所はないらしい。なのに何故、入院する事になったのだろう…」

恵美子「菊田さん全然来てくれないんだもの。寂しかったわぁ」
菊田「こんな所しょっちゅう来てたまるか」
恵美子「そりゃそうねぇ」
菊田「おめぇさんは一回り大きくなったんじゃねぇの?」
恵美子「(大袈裟に)仕事のストレスがねぇ」
菊田「おめぇさんの方が気をつけろよ」
恵美子「はいはい。じゃあ血圧測らせてくださいね」
菊田「いいよ、俺は」
恵美子「そういうわけにはいきません」
菊田「いいってば」
恵美子「美知子さんに頼まれているんです」
菊田「じゃあ尚更いいよ」
恵美子「駄目です」
菊田「しつこいなぁ!」
恵美子「敬子さんにも頼まれているんです」
菊田「敬子に?」
恵美子「ええ、そうです」
菊田「じゃあ、しょうがねぇな」

落合(M)「菊田さんはそう言うと、しぶしぶ腕を出した」

恵美子「さ、落合くん」
落合「俺ですか?」
恵美子「当たり前でしょう?」
菊田「なんだ?おめぇ」
恵美子「うちの新人です。かわいがってくださいね」
落合「どうも」
菊田「名前は?」
落合「落合実です」
菊田「そうかい。じゃあさっそくしてくんな」
落合「はぁ…」

落合(M)「腕帯をつけるために菊田さんの腕を掴むと、菊田さんの態度の大きさに対して、あまりに細いことに気がついた」

菊田「なんだおめぇ。もっとしっかり巻けよ」
落合「いやだって…」
菊田「だってじゃねえ!」
恵美子「新人なんだから、大目に見てくださいよ」
菊田「しっかり巻かないと測れねぇだろ!」
恵美子「ちょっと、測る前に血圧上げないでくださいよ」
菊田「こいつが上げさせてるんだろうがよ」
落合「俺のせい?」

落合(M)「俺はなんとか菊田さんに腕帯を巻くと、血圧計のスタートボタンを押した」

落合「はい。おしまいです」
菊田「おう。ご苦労さん」
恵美子「じゃあまたあとで来ますから、何かあったらナースコールしてくださいね」

落合(M)「菊田さんの病室を出ると、次の病室へ向かう」

落合「師長」
恵美子「なぁに?」
落合「菊田さんと知り合いなんですか?」
恵美子「ああ、まあね」
落合「どういったお知り合いで?」
恵美子「奥さんが亡くなったの、ここなのよ」
落合「え?」
恵美子「末期がんでね、どうしようもなくて。毎日毎日お見舞いに来て、大好きだったのね、奥さんのことが」
落合「はぁ…そうだったんですか」
恵美子「どうしているかと思ってたけど、まさかね」
落合「あの人、何処も悪くないんですよね?」
恵美子「強いて言うなら腰痛」
落合「なのに、どうして入院することに?」
恵美子「それは、後でね」

落合(M)「その日の午後、菊田さんの治療方針の話し合いがもたれた。主治医、俺たち看護師、理学療法士、ソーシャルワーカー、包括支援センターの職員などが勢揃いした。集まった面々を見て、菊田さんが何か大きな問題を抱えていることを予感させた」

水野「入院期間は、三月下旬までということでよろしいでしょうか?」

落合(M)「この人は水野順。菊田さんを担当している包括支援センターの職員だ。包括支援センターというのは、まあ、何というか、困っている高齢者を助けてくれる所だ」

落合「そんなに長く…ですか?」
水野「あの家で冬を越えるのは無理ですから」
落合「あの家、とは?」
恵美子「すみません、新人なもので」
水野「いえ。菊田さんの家は、所謂ゴミ屋敷というヤツでね」
落合「ゴミ屋敷?」
水野「我々から見ると、ゴミとしか思えないようなものが山積みになっていて、衛生的にもよくないし、ストーブなどをつけようものなら、火事の危険がある」
落合「じゃあ、入院している間に片付けるんですか?」
水野「いや、それはできない」
落合「どうして?」
水野「我々から見るとゴミでも、菊田さんから見ると大切なものだ。それを勝手に捨てたとあっては、信頼関係が崩れてしまう」
落合「信頼関係?」
水野「菊田さんのような人は、周りから孤立しているからなかなか人を信用してくれない。実際、僕が家に入れてもらえるまで半年かかったからね」
落合「半年!?」
水野「娘さんは菊田さんと言い争いになって、もう二年以上家に上げてもらえていないそうだ」
落合「でもゴミ屋敷も人間関係も自業自得じゃないですか。どうしてみなさんがここまでする必要があるんですか?」
水野「自業自得じゃないからだよ」
落合「そうですか?」
水野「菊田さんみたいになってしまうお年寄りは多い。歳を取って、昔は当たり前にできていたことができなくなって正常な判断ができなくなってしまったり、大切な人を亡くして生きる気力をなくしてしまったり」
恵美子「誰にでも起こりうる事なの。だから、助けが必要なのよ。菊田さんは、未来の私達かもしれないから」
水野「菊田さんの場合は、やはり奥様を亡くされたのがショックだったんでしょう」
恵美子「大好きでしたからね」
水野「近所の方も、奥様がいらした時は、気さくに挨拶もしてくれたって言っていましたしね…」
恵美子「とにかく暖かくなるまでここで過ごしてもらって、元気になってもらわないと」
水野「何かプランはあるんですか?」
恵美子「ええ。うちの新人を送り込もうかと」
落合「え?」

落合(M)「こうして俺は、無理矢理菊田さんの担当をさせられる事になった」

恵美子「菊田さん、お昼ご飯どうでしたか?」
菊田「美味くもまずくもねぇな」
恵美子「あはは、そうですか。ところでね、菊田さんにお願いがあるんですけど」
菊田「なんでい」
恵美子「落合君に、病院内を案内してくれませんか?」
菊田「は?」
落合「え?」
恵美子「落合君、まだ新人だから時々院内を迷子になってるんですよ。だけど私達忙しいから、じっくり教える時間もなくて」
落合「いやいやいや、え!?」
菊田「ったく相変わらずおめぇらはしょうがねぇな」
恵美子「ね?いいでしょ?」
菊田「丁度退屈してたし、まあやってやらねぇ事もねぇよ」
恵美子「だって。落合君、よかったね」
落合「いや、俺は別に」
恵美子「よかった、よね?」
落合「はい。ありがとうございます…」

落合(M)「そんなわけで、俺は菊田さんに院内を案内してもらう事になった。ここに就職して早八ヶ月。当然ながら、迷う事などもうない」

菊田「ここが、受付だ」
落合「ええ、それはさすがにわかります」
菊田「そんでこの先に進むと、整形外科だ」
落合「そうですね」
菊田「昔、仕事で怪我しちまった時に通った事がある」
落合「へぇ。菊田さんってお仕事何されてたんですか?」
菊田「大工だ」
落合「大工さんだったんですか。家とか作ってたんですか?」
菊田「ああ。俺ん所は、一軒家を作ることが多かったな。後は、近所の坊主が小学校上がった時に、机を作ってやったりしたな」
落合「机作れるんですか。すごいっすね」
菊田「そんくらい朝飯前よ」
落合「他には何作ったんですか?」
菊田「母ちゃんに椅子を作ったな」
落合「お母さんの?」
菊田「ああ、母ちゃんってのは俺の女房の事よ」
落合「なるほど。奥さんの椅子ですか。どんな椅子だったんですか?」
菊田「具合悪くした時にな、庭を眺めるのに座るのが欲しいって言われたな。ゆらゆら揺れるヤツだ」
落合「ロッキングチェアですか。愛がありますね」
菊田「よせやい」
落合「今もおうちにあるんですか?」
菊田「いや」
落合「捨てちゃったんですか?」
菊田「壊した」
落合「え?」
菊田「そんな事よりもよ、あっちがリハビリ室だ」
落合「あ、はい」

落合(M)「菊田さんが進み始めると、丁度リハビリ室からあいつが出て来た」

里中「あれ、菊田さんこんにちは」
菊田「誰でい、お前さんは」
里中「嫌だなぁ。理学療法士の里中です」
菊田「里中?」
里中「五年くらい前かな?菊田さんの奥さんが捻挫された時にリハビリを担当した者です」
菊田「ああ!母ちゃんがハンサムだって言ってた先生か!」
里中「どうも」

落合(M)「そう。こいつは顔のお陰で女性から人気があり、リハビリの予約が後を絶たず、院長からも気に入られている」

里中「お散歩ですか?」
菊田「こいつを案内してくれって師長に頼まれたんだ」
里中「落合君か。鍛えてやってくださいね」
菊田「おうよ」
里中「そうだ。菊田さんにお願いがあるんです」
菊田「なんでぃ」
里中「最近勉強したばかりの新しいリハビリ法のモニターを探しているんです」
菊田「モニター?」
里中「実際にやってみて、感想とかを言ってもらう人です。いきなり体が悪い人に試すのは怖いですからね」
菊田「それを俺が?」
里中「だって菊田さん元気でしょう?それに忖度のない意見を言ってくれそうだし」
菊田「そうだなぁ」
里中「お願いします。勉強させてください」
菊田「そう言われちゃしょうがねぇなぁ」
里中「ありがとうございます!じゃあさっそくスケジュール組みますね」
菊田「おう!任せときな!」

落合(M)「菊田さんの病院内での生活は大体整った。午前中は俺と院内を散策。昼食の後はリハビリ室で里中のモニター。入院患者とは思えない充実の内容だ」

落合「今日も寒いっすね」
菊田「馬鹿言ってんじゃねぇ。若いのにこんくらいで根を上げるんじぇねぇよ」
落合「寒いもんは寒いですよ」

落合(M)「その日も俺は、菊田さんと院内を散策していた」

落合「そう言えば今日は大晦日ですけど、菊田さんはお正月どうされるんですか?」
菊田「どうされるもこうもねぇだろ」
落合「人によっては家族が会いにきたりするじゃないですか。菊田さんは?」
菊田「さあな」
落合「ええ?折角のお正月なのに」
菊田「そういうお前はどうなんだよ。ちゃんと実家に帰るのか?」
落合「帰らないっすよ。仕事がありますから」
菊田「そうなのか?」
落合「だって俺がいなかったら菊田さん、誰と散策するんですか?」
菊田「そん時は師長とデートでもするさ」
落合「あ、悪いんだ~浮気だ~」
菊田「うるさいな」
落合「どうせ実家に帰ってもやる事ないですしね」
菊田「やる事はあるじゃねぇか」
落合「何ですか?」
菊田「顔を見せる事だよ」
落合「顔?」
菊田「親ってヤツは、子供の顔見るだけでほっとするもんさ」
落合「そういうもんすかね?」
菊田「母ちゃんが生きてた頃は、娘も旦那と孫連れて来たもんだ」
落合「へぇ、お孫さん来ないんですか?」
菊田「来ねぇよ」
落合「来てって言ってみたらどうですか?」
菊田「そんな恥ずかしい事言える訳ねぇだろ」
落合「ふぅん。そんなもんですかね」
菊田「そうだよ」
落合「菊田さんはおせち食べてたんですか?」
菊田「当たり前じゃねぇか。母ちゃんのおせちは日本一よ。特に栗きんとんがな」
落合「いいなぁ。うちの母さんは料理下手だったからなぁ」
菊田「おせちはなかったのか?」
落合「スーパーで買ってきた寄せ集めですね」
菊田「そうか。じゃあ今度母ちゃんの栗きんとんを…」
落合「え?」
菊田「あ、いや。母ちゃんはもういないんだったな」
落合「そうですねぇ…」

落合(M)「年が明けて、菊田さんのケア方針の会議が行われた」

水野「菊田さん、お元気そうですね」
恵美子「ええ、もっとコミュニケーションを嫌がるかと思っていましたけど、思えば元々は気さくな方ですもんね」
水野「リハビリはどうですか?」
里中「やはりあちこち痛いみたいですね。関節の可動域などもだいぶ狭くなっていますし。でも痛かったり違和感があったりすると細かく教えてくださるので助かってます」
落合「モニターだったんじゃないんですか?」
里中「そんなわけないだろう」
恵美子「落合君、信じてたの?」
里中「お前、いいヤツだな」
恵美子「落合君との散歩も効いてますね。院内の地図を思い出したり、会話したりするのに脳をフル回転させてますから」
落合「そういう事だったんですか!?」
里中「お前…いいヤツだな」
落合「馬鹿って言いたいんですか?」
水野「まあまあ。みなさんのおかげで、ここまでは順調です。問題はこの後ですね」
恵美子「正直、私達にできる事はこれ以上は」
水野「そうですよね」
恵美子「娘さんと連絡は取っているんですよね?」
水野「勿論です。娘さんは菊田さんの事を心配しているんですけど、菊田さんが頑なに連絡を拒否されていて…」
落合「でもこの前は親は子供の顔を見るとほっとするって言ってましたよ」
水野「本当ですか?」
落合「ええ。でも恥ずかしいから来てとは言えないとも言ってましたけど…」
水野「それは大事な証言ですよ」
恵美子「娘さんに一回来てもらうっていうのはどうですか?」
水野「それをやってみた事があるんですけど、やはり口論になってしまいまして…」
落合「ええ…?」
恵美子「家の片付けの件も、進んでいないんですよね?」
水野「はい。このまま体調がよくなっても、あの家に戻ったらまた元通りになってしまう可能性が高いですから、何とかしないと」
恵美子「問題と向き合える位の体力と気力を、どうにかつけてもらいましょう」
水野「皆さん、これからもよろしくお願いします」

落合(M)「散らかった部屋を片付けるという事が、どれだけ億劫な事であるかは、俺も想像がつく。俺だってお世辞にも部屋が綺麗とは言えない。ましてや、目の前にある物が、要る物なのか要らない物なのかわからないまま何年も積み重なってしまったら、そりゃあ片付ける気力なんて湧かないだろう」

菊田「おい、新人。行くぞ」

落合(M)「ナースステーションで雑用をしていたら、菊田さんに外から声を掛けられた」

落合「あれ?もうそんな時間ですか?」
菊田「おう。今日は和田さんに花壇の世話を頼まれてんだ。お前も行くぞ」
恵美子「菊田さんはすっかりこの病院の便利屋さんですね」
菊田「全くどいつもこいつも世話が焼けるぜ」
恵美子「頼りにしてますよ」

落合(M)「菊田さんについて外へ出ると、物置の前に総務の和田さんがいた。和田さんは五年前に定年を迎えたが、再雇用されて、パートタイムで院内の雑務を行っている」

和田「菊田さん、すまないね」
菊田「いやいや、いいって事よ」

落合(M)「和田さんと菊田さんが並ぶと、公園で爺さんと爺さんが井戸端会議をしているようにしか見えない」

和田「落合くんも来てくれたのかい」
落合「仕事なんで」
和田「いい子だねぇ」
落合「やめてくださいよ」
和田「じゃあ頼んだよ。じょうろは物置のここに戻しておいてね」

落合(M)「和田さんはそういうと、菊田さんにじょうろを渡し、去って行った。菊田さんは花壇の近くの水道で、じょうろに水を入れ始めた」

落合「いやあ、寒いっすね」
菊田「こんなもん寒いに入らねぇよ」
落合「菊田さんは強いからなぁ」
菊田「よっこいしょ」

落合(M)「菊田さんは水がめいいっぱい入ったじょうろを持ち上げたが、足下がフラフラしている」

落合「ちょっと、気をつけてくださいよ」
菊田「年寄り扱いするんじゃねぇ」
落合「いや、年寄りでしょ」
菊田「おめぇ、言ってくれるじゃねぇか。小僧のくせに」
落合「誰が小僧ですか!」
水野「菊田さん、こんにちは!」
菊田「こいつは水野さん。どうも」
水野「こんなに寒いのに水やりですか」
菊田「ああ、頼まれたからな」
水野「落合さんも大変ですね」
落合「本当ですよ」
菊田「おめぇはまだ何もしてねぇだろ」
水野「はは、仲がいいんですね」
落合「何処かですか?」
菊田「おめぇはもうちょっと俺に感謝してもいいだろう。毎日こんなに面倒みてやってんだから」
落合「ええ…」
菊田「ったく最近の若いもんはよぉ」
水野「菊田さんも大変ですね」
菊田「本当だよ」
水野「はは、本当の親子みたいだ」
落合「やめてくださいよ」

落合(M)「菊田さんは水野さんの事はお構いなしで、花壇に水をやり始めた」

水野「菊田さんのおうちにも、鉢植えがたくさんありますよね」
落合「そうなんですか?」
菊田「母ちゃんが好きだったんだ」
落合「へえ。何が植えてあったんですか?ヒヤシンスとか?」
菊田「さあな」
水野「落合君は花詳しいの?」
落合「全然。学校で育てた事があるだけです」
菊田「男ってヤツは駄目だな」
落合「菊田さんちの花は今、誰が水上げてるんですか?」
菊田「花なんてもう咲いてねぇよ」
落合「そうなんですか?」
水野「今は娘さんが…」
菊田「は?」
水野「あ、いや」
菊田「水野さん、あんたまさか、美知子を家に上げたのか?」
水野「まさかまさか」
菊田「美知子は家に近づけさせないって約束だったろうが!」
水野「いや、僕は、その!」
菊田「嘘ついてたのか!水野!」

落合(M)「中腰で水をやっていた菊田さんが、じょうろを投げ捨てて立ち上がった。俺が呆然としていると、菊田さんは、静かにうずくまり、そのまま倒れた」

水野「誰か!誰か来て下さい!」
恵美子「どうしましたか!?」

落合(M)「音が遠くで鳴っているような気がした。自分の心臓の音が大きく聞こえた」

恵美子「落合君、何があったの!?」
落合「えっと…その…」

落合(M)「言葉が上手く出てこない。目の前に患者がいるのに、自分のするべき事がわからない」

恵美子「しっかりしろ!落合!」

落合(M)「あっという間にストレッチャーが到着し、菊田さんは運ばれて行った」

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