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【感想】ドラマ「風よあらしよ」を観て

 地元の偉人にして、婦人解放運動家である伊藤野枝を描いた小説を実写化したドラマ。
 僕は伊藤野枝が好きで、生の松原や長垂の海(作中にも登場していた海)を眺める度に、「彼女はどういう気持ちでこの海を眺めていたのだろう」と想いを馳せるほど。
 しかし地元での名望は毀誉褒貶が激しい。令和の世になっては彼女のことを悪く言う者はいないが、地元の古老が彼女に対する批判の凄さを語ってくれたのをよく覚えている。

 さてドラマとしてであるが、全3回のラスト30分までは伊藤野枝にも大杉栄にも全く感情移入出来なかった。如何せん、思想は立派であるが行動が伴っていないのだ。実験的自由恋愛については日蔭茶屋事件で考えを改めるわけだが、どんなに大層な思想を語っても、誰かを泣かせる恋愛をしていては、芯に響いて来ない。

大杉栄・魔子・伊藤野枝

 野枝については辻潤との結婚には同情の余地こそあれど、子を捨てた事には変わりなく、(強姦同然の鬼畜所業をしてなお手に入れた)本妻の堀保子がいるというのに、大杉栄を奪ってしまうのだから、これも始末が悪い。

 端的に言えば、伊藤野枝も大杉栄も激し過ぎるのだ。ぶっ飛んでて、常識という駕籠の中に囚われた小生では全く理解できない。「どっちもクズ!」という品性の欠片もない感想が口を突きそうになる。

ラストの服装はこれか?

 しかし、おおよそだがラスト30分以降に二人が覚醒する。弱者に寄り添った主張をし、混乱に乗じた革命を諫め、私財を投じて困窮した民を助ける。これが史実かどうかわからないが、ここからが「野枝!大杉!頑張れ!」と感情移入が始まるのだが……。

 そこに現れるのが、この男。

甘粕正彦

 ONちゃんこと、音尾くんが憎たらしい甘粕を演じております。
 暫しの押し問答があった挙句、終幕を迎えるわけですが、ラストのカットが何とも切ない。

 それは長垂と思われる海で、野枝の遺児・魔子と大杉に心酔する村木源次郎と会話をするわけですが、そこで二人はずっと遊ぼうと約束するわけです。そして、村木の何かを決意した視線で終わる。

村木源次郎

 村木の人生を知っている人ならば、その意味をお察しだろうが、僕には魔子が可哀想で可哀想でなりませんでした。
※野枝と大杉の死を知った和田久太郎の表情も、村木と同様のものがある。

和田久太郎

 以上が、このドラマの感想でございますが、端的に言うなら「ラスト30分まで見続けた者だけが得られる感傷がある」ですね。

 追伸、野枝は28歳で亡くなるまで7人の子供を産んでおります。今なら望まぬ妊娠、多産DVとして問題になりそうだが、これも野枝が望んだことなのかな。 

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