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【第68回】内閣府の事業継続計画(BCP)の調査結果公表

質問 地区防災計画の隣接分野である「事業継続計画」(BCP)に関する調査結果が公表されたんですか。

概要

 ①企業の事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)
 ②事業継続ガイドラインに盛り込まれた地域との共生と貢献
 ③内閣府の「企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」の結果

解説

①企業の事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)

 地区防災計画の隣接分野に、企業の事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)の分野があります。
 このBCPとは、災害時に企業の重要業務が中断しないように、また、事業活動が中断した場合でも目標復旧時間内に重要な機能を再開させるための計画です。これは、企業の業務が中断することに伴って、顧客が競合する他社に流れ、企業のマーケットシェアが低下したり、企業の社会的な評価が低下したりすること等から企業を守るための経営戦略に当たります。
 BCPの内容は、企業におけるバックアップシステムの整備、バックアップオフィスの確保、安否確認の迅速化、要員の確保、生産設備の代替等の対策があげられます。
 なお、BCPとは、単なる事業継続のための計画書の意味ではありません。BCPという用語は、企業のマネジメント全般を含むニュアンスで用いられており、マネジメントを強調する場合には、BCM(Business Continuity Management)という言い方をする場合もあります。

②事業継続ガイドラインに盛り込まれた地域との共生と貢献

 2000年代頃から、民間と市場の力を活かした防災戦略として、BCP 策定の重要性が注目されたことを受けて、内閣府では、企業によるBCP策定を促進するため、「事業継続ガイドライン」を2005年8月に策定しました。
 ガイドラインは、これまでに3回改定されています。例えば、2013年8月の2回目のガイドライン改定では、企業・組織の平常時からの事業継続マネジメント(BCM)の普及促進、東日本大震災等の災害教訓、国際動向等を反映する形で改定が行われました。また、2021年4月の3回目のガイドライン改定では、令和元年(2019年)台風第19号等の水害・土砂災害等の教訓を踏まえ、災害時の従業員等の外出抑制策等が記載されたBCPの策定が進むように改定されました。
 BCPは、本来企業がマーケットで生き残るための戦略という位置付けになりますので、企業の自助としての要素が強調される場合も多いのですが、ガイドラインには、企業と地域(コミュニティ)との関係についても言及があり、共助としての要素も見られます。
 具体的には、企業が緊急対応を行い、復旧を行っていくためには、地域社会(コミュニティ)との共生が不可欠であり、平常時からの地域社会への積極的な貢献が重要であるとされています。

 実際に共助的な要素を重視している会社のBCPの場合は、コミュニティの地区防災計画との関連性が深くなります。例えば、以前紹介した大塚製薬工場の企業とコミュニティが連携した地区防災計画づくりの取組では、企業のBCPとも連携した地区防災計画づくりが実施されていました。

 以下、2013年の改定でガイドラインに盛り込まれた「地域との共生と貢献」という項目を抜粋して紹介します。

【ガイドライン21~22頁「4.3 地域との共生と貢献」(抄)】 
 緊急時における企業・組織の対応として、自社の事業継続の観点からも、地域との連携が必要である。重要な顧客や従業員の多くは地域の人々である場合も多く、また、復旧には、資材や機械の搬入や工事の騒音・振動など、周辺地域の理解・協力を得なければ実施できない事柄も多いためである。
 したがって、まず、地元地域社会を大切にする意識を持ち、地域との共生に配慮することが重要である。地域社会に迷惑をかけないため、平常時から、火災・延焼の防止、薬液噴出・漏洩防止などの安全対策を実施し、災害発生時には、これらの問題の発生有無、建造物が敷地外に倒壊する危険性の有無などを確認することが必要である。危険がその周辺に及ぶ可能性のある場合、住民に対して、危険周知や避難要請、行政当局への連絡など、連携した対応をとるべきである。さらに、各企業・組織が自己の利益のみを優先し、交通渋滞の発生、物資の買占めなど、地域の復旧を妨げる事態につながることは避けるべきである。
 また、企業・組織は、地域を構成する一員として、地域への積極的な貢献が望まれる。地元の地方公共団体との協定をはじめ、平常時から地域の様々な主体との密な連携が推奨される。さらに、被災後において、企業・組織が応急対応要員以外の従業員に当面の自宅待機を要請すると、自宅周辺の人命救助、災害時要援護者の支援などに貢献する機会を作ることにもなり、都市中心部の場合には、混雑要因の緩和にもつながる。

③内閣府の「企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」の結果

 企業のBCPの策定状況をはじめ企業の事業継続への取組状況等を把握するため、内閣府が2007年度から隔年で実施している調査に「企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」があります。
 この調査は、郵送調査(web回答含む。)で実施されています。そして、令和3年度(2021年度)の調査が2022年1~2月に実施され、その結果が、2022年5月18日に公表されました。この調査は、サンプル数が6,062(回収数1839・回収率30.5%)であり、「大企業」を資本金10億円以上かつ常用雇用者数50人超等とし、「中堅企業」を資本金10億円未満かつ常用雇用者数50人超等として分析されています。
 BCPを「策定済み」と回答した企業の割合は、⼤企業70.8%で、中堅企業40.2%です。2年前の令和元年度調査では、大企業68.4%、中堅企業34.4%でしたので、それぞれ2.4ポイント、5.8ポイント増加していることが判明しました。ただ、「策定済み」及び「策定中」と回答した企業の割合をあわせると、大企業85.1%、中堅企業51.9%で、大企業の場合は、前回とほぼ同じですが、中堅企業は、前回を下回っています。これまで政府では2020年までに大企業でのBCP策定率をほぼ100%にすることを目標としていた(ただし、2021年に達成期限が2025年度に変更されました。)ことから、さらなる取組の強化が期待されます。特に中堅企業の取組の強化が必要になっています。
 ところで、同調査の結果によると、企業がBCPを策定したきっかけは、「リスクマネジメントの一環として」(大企業37.8%)、「企業の社会的責任の観点から」(大企業15.6%)、「過去の災害・事故の経験」(大企業15.5%)が上位にあがっています。また、BCPの記載項目としては、「従業員の安全確保」(大企業96.5%)、「災害対応チーム創設」(大企業87.8%)、「水、食料等の備蓄」(84.4%)が上位にあがっています。さらに、BCPの策定や推進に当たっての問題点や課題としては、「部署間連携が難しい」(大企業45.6%)、「策定する人手を確保できない」(大企業31.6%)、「BCPに対する現場の意識が低い」(大企業30.1%)が上位にあがっています。なお、BCPの策定状況を業種別にみると、「金融・保険業」の策定率が最も高く(81.6%)、災害時にBCPが役立った(とても役に立った+少しは役に立ったと思う)と回答している企業の割合は、約5割になります。

文献
・内閣府,2022,「企業の事業継続及び防災に関する実態調査結果」(令和4年3月).
・内閣府, 2022, 「2022年版防災白書」.
・内閣府,2021, 「事業継続ガイドライン-あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-」(令和3年4月).
・林秀弥・金思穎・西澤雅道,2018,『防災の法と社会 熊本地震とその後』信山社「第6章 地域コミュニティと企業等の多様な主体との連携」.

・丸谷浩明・指田朝久,2006,『中央防災会議「事業継続ガイドライン」の解説とQ&A―防災から始める企業の事業継続計画(BCP)』日科技連出版社.

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