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美容室ジプシー、青い鳥を見つける

ずっと美容室が苦手だった。
オシャレなお兄さんやお姉さんたちが、キラキラとしたお店で
テキパキと仕事をしている場所。
なんだか眩しすぎて、行くたびに気後れする場所。
でも美容室はそういうもんだと思って、
駅前のオシャレな雰囲気の美容室を見つけては通い、
また見つけては通っていた。
長いこと行きつけのお店を見つけられない、美容室ジプシーだった。

そもそもこんな癖の強い髪で、希望の髪型にしてもらおうと思うこと自体がおこがましいのかもしれないと思っていた。

そう、私の髪は癖が強い。
梅雨の時期なんか、髪の毛一本一本が独立する。
それはもう見事に、それぞれの髪の毛が自分の向きたい方を向いている。
前世はきっとメデューサだったに違いないっていうレベル。
そんな独立心旺盛な髪の毛のせいで、
あこがれのゆるふわパーマにしてもらいたかった時も
映画「クルエラ」のエマ・ストーンの最終形態みたいな姿になった。
そして、「1週間もすればゆるめになりますよ。」
という美容師さんの言うことを信じて1週間待っても、いっこうにゆるめにならない。2、3か月ほどクルエラ期は続いた。

美容室を変えては、こんな悲劇を繰り返し、年々ひどくなる髪へのコンプレックスに疲れきった頃だった。
自分の住んでいる町で理想の美容室に出会った。

それは今まで私が出会ったどの美容室とも違った。
丁寧なカウンセリング。
回転の速さを追求していないことがよくわかる、穏やかな時間。
緊張どころか、ついリラックスしてしまう、そんな美容室だった。
そしてその美容室は難なく私の癖毛という猛獣を見事に手懐けてしまった。
私は生まれて初めて、理想の髪型になることができたのだ。

私はあまりの嬉しさにこれまでの髪の悩みや苦労について熱弁し、それが解消されたお礼を伝えた。
大変でしたね、とは言わず、その人はこう言った。

「確かに癖はありますが、そこまで気にするレベルじゃないですよ。今はその頃と違って、カラーもパーマも進化していて自然な雰囲気になりますからね。色々楽しんでください。」

かっこよかった。
私の悲しみを浄化させつつも、他の美容室を貶めない見事な対応。
美しい、眩しすぎる。
あっという間に虜になった私は、見た目も中身もその美容室に見合う人間になろうと心に決めた。

あれから10年くらいは経つだろうか。
その後もどんどん進化を遂げて、見た目も中身も美しくなっていく美容室に、私は今も通い続けている。


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