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第十回塔短歌会賞受賞作「ネジCとネジE」(近江 瞬さん)を読んで

 昨年、新人賞を受賞された近江さんが今年は短歌会賞を受賞された。
 今年に入って第一歌集「飛び散れ、水たち」を上梓され、本当に大活躍の歌人である。

 今年もまた作品を読ませていただいたので、感想を書こうと思う。

 近江さんの歌は、昨年も思ったが、本当にするすると頭に入ってくる。
 今回の連作は、家具販売店の日常というか一店員の物語、ショートストーリーを読んでいるようなそんな気分であった。

 タイトルにもあるネジの話は、最初の一首に出てくる。
 ここでかなりがつんとやられる。

  ネジCが別の説明書の中でネジEとして使われている

 自分で組み立てる家具を組み立てたことがある方はわかると思うが、同じネジなのにこの家具ではC、この家具ではEなど、家具によって呼び名が違うことがある。
 使わているのは同じネジ。それでも出来上がるのは違う家具。
 ネジ=社員とすれば、どの会社であっても社員は1つの部品に過ぎない・・・という暗喩もあるのだろうか。
 一読した時は、「あるある!!!」と思ってさらっと通り過ぎたのだが、連作をすべて読んだらこの一首が冒頭にあることにものすごく意味があることがわかる。

  「値引きして」とせがまれたあと「安いからだめなんだ」という電話を受ける

 読み進めたときに最初に「くすっ」となったのがこの一首。
 なんと矛盾した世界なんだろう、と。
 人の価値観の違いをこの一首でずばっと思い知らされた。
 と、ここあたりで主体が「お客様相談室」に関わっていることがなんとなくわかってくる。

  年度末の配送は混み合っていて子ではなく親が起こりはじめる

 これも、今の世の中を映し出しているなと思った。
 進学、就職、結婚など人生の岐路で家を離れることは多い。実際私も息子2人を送り出し、1人は昨年帰ってきた。
 引っ越しの段取りは全部私がやった(過保護ですみません)。
 何かあったらきっと私もこの「親」になってしまうのかもしれない。それでも私は違う!と心の中で叫んだ(笑)。

  どこまでを社員でいよう送別会終わりの駅で手を振りながら

 終盤のこの一首。主体は、社員である顔をどこで終わらせるのかを考えている、そんな情景だ。
 誰もが会社での自分、家での自分の境目がある。きっと、一人暮らしではない場合は、家にいてもその時の「顔」がある。
 一体どれが自分なのだろう。そんなことを思わずにはいられない。

 三十首連作のうちの四首を引かせていただいたが、三十どれにもひとつひとつの景がはっきりとあり、私が言うのもおこがましいが、本当に完成度の高い作品である。

 読み終えたあと、主体がどうか別のところで活躍してほしいと願うのと同時に、この連作の中で出てきた片岡さんにもエールを送りたい!と思った。きっとそれは、近江さんを応援するその思いにも同調していく。
 一首ずつすべてに感想を述べたいところであるが、ネタバレ(?)になるのでこのあたりでやめておくが、まだ第一歌集を手に入れてない(ごめんなさい)ので、これはぜひとも手に入れて読まねば!と思った。

 やっぱ近江さんすごい(語彙力)。

 遠く及ばないけど、何気ない日常にあるちょっとしたドラマ。こういう歌を私も詠みたい。

短歌のこと、息子のこと、思ったこと・・・。 読書感想文がなによりも苦手だったのに、文章を書くことがちょっとだけ好きになりました。 IgA腎症持ちです。