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【読書】菜の花の沖

日露友好、箱館開港の大功労者、高田屋嘉兵衛の物語り。嘉兵衛さんもすごいが、その魅力を浮上させた司馬遼太郎さんにも脱帽する。高田屋嘉兵衛を小説にしたのは、どうやら司馬遼太郎だけのようだ。(Wikipediaの情報では) 歴史などに詳しい方たちは、知る人ぞ知るという人物なのかもしれないが、私は本書を読んではじめて知った。

きっかけは、仕事でお世話になったある会社の社長さんに、会社創業の経緯を伺っていたら、高田屋嘉兵衛を尊敬し、彼の生き方に習って事業を運営しているのだと、話してくれたからだ。

その社長さんが、腰も低くく、とても立派な人に思えたので、その方が尊敬する人とは、どういう人物だったのだろうかと、興味が湧いたからだ。

そもそも、地理・歴史に疎い私が、歴史や時代小説を自ら欲して読むことは滅多にない。それなのに、この本は全部で6巻もある。ところが私は、へんな性分で、読み始めた本を途中で辞めることが出来ないのだ。たとえ面白くないと途中で思って斜め読みになろうとも、手に取ったからには、最後まで終わらせないと気が済まない。

私は本屋に行って本を手に取り、パラパラめくりながら、しばらく悩んだ。
「途中で投げ出したって、いいよね」
私は自分にそう言い聞かせ、まずは1巻だけを買うことにした。

ところが、これが何と面白いことか。私は、司馬さんの描く高田屋嘉兵衛という男に、どんどん魅せられ、引き込まれてしまった。そういえば、同じ経験をしたことが過去にもあった。あれも確か、司馬さんの時代小説だった。
司馬遼太郎の、その人物描写の繊細さ、読者を共感させることの巧さには、常に感服させられる。

そういうわけで、私はその日の翌日、すぐに残りの5巻を買いに行くハメになってしまった。

高田屋嘉兵衛の魅力は何かと言えば、そのド根性が、まず挙げられる。
これは、主人公に仕立てられる人物には、よくある性質でもある。嘉兵衛は、淡路島の、その閉鎖的な小さな村で、たとえ村八分になろうとも、好きな女子(おなご)を決して手放さなかった。自分の魂が求めることに、彼は本当に忠実で、誠実なのだ。しかし嘉兵衛は、欲深くわがままで、傲慢な奴、というのとは全然違う。

下積みの頃には、人一倍忠実に働き、義理堅く、そして自分が沖船頭、そして廻船業者として力をつけていけば、土地の人々を助け、蝦夷地・函館の開港に貢献するという、奉仕することに生涯を捧げた、男のなかの男、なのである。高田屋嘉兵衛という人は、魂が、透明なくらい純朴な人だったのだろう。

そして、1811年に起こったゴローニン事件に巻き込まれ、当時こじれかかっていた日露交渉を、解決に導いたという経緯もまた、興味深い。それも結局、彼の純朴さが、功を奏したという気がする。

どんな本でも、読んで清々しい人物というのは本当に気分が良い。こんな人が、日本のどこかに居たんだと知るだけで、世知辛い世の中に埋もれそうになる中、心に灯がついたような気がする。

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最後までお読みくださりありがとうございます。

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