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人を呪わば・・・

僕は安月給でマンションやアパートを一人で借りることができないから、一軒家を何人かで借りて住むシェアハウスで生活をしています。まあ、お風呂や台所が共同なので個人のプライバシーには制限はありますが、他の入居者とのコミュニケーションが面倒な時もあれば楽しいこともあります。このシェアハウスは男性専用なのでお風呂の時などは気を遣わずに済みますが、僕はお酒が飲めないので他の入居者とお酒を飲み交わしてワイワイガヤガヤやるのは苦手です。
同じ趣味を持つ人もいないし、残業も多く仕事が終わって帰ってきたときは、へとへとで途中のコンビニやほか弁で買って帰ったものを食べて風呂に入って寝るという生活がずっと続いていました。大学を出てからもう3年以上この状態が続いていていい加減に嫌になっていましたが、他に仕事が出来るわけでもないので結局はそのまま続けていくしかないんだと思います。
僕がいるシェアハウスは6人ぐらいが住んでいますが、メンバーに彼女が出来て出て行くので、一年に一人くらいはメンバーチェンジがあります。そんなときはいつも、「あぁ~、羨ましいなあ、僕には彼女なんてできるはずがないなあ。」と思って羨ましがってしました。
僕は土日の休みの日には山や海の綺麗な景色を眺め写真を撮るのが唯一の楽しみで、毎週のように電車に乗って出かけていました。
秋が深くなり紅葉が綺麗になった頃、何時ものようにミラーレス一眼カメラを持って山の紅葉を眺めに行った時、「あのう、すいませんがあの紅葉をバックに私たちの写真を撮っていただけませんか?」と僕より少し年上と思われる女性二人組から声を掛けられました。「ああ、いいですよ。」 「じゃあ、このスマホでお願いします。」 「はいはい。」
僕は縦や横で何枚か相手のスマホでいろんな構図で写真を撮ってあげ、「僕のカメラでもお二人をモデルに取らせていただけますか?」 「まあ、嬉しい、もっと綺麗な人がたくさんいるのに私達でいいんですか?」 「あ、いや、声を掛けていただいたので・・・。記念に。」 「じゃあ、お願いします。」 僕は二人をモデルに紅葉をバックに何枚か写真を撮らせてもらい、「ありがとうございました、厚かましいことを言ってしまってすいません。いい写真が撮れました。」 
「どれどれ、どんな感じ?」と二人は僕のカメラの液晶を覗き込むようにしたので、僕は首から下げていたカメラの液晶を見せ、今撮ったばかりの写真をスライドしていきました。
「ふ~ん、綺麗に撮れている、素敵。こうしてみると私たちもまんざらではないね。」と二人で楽しそうに見ていました。「ね、このデータを帰ってから編集するときに送ってくれないかしら。」 「え!そうですか?じゃあ、送りますけど、連絡先が・・・。」 「スマホを出して。ラインのIDを交換しておきましょう。」 「はあ、じゃあQRコードを出しますね。」彼女はそれをスマホで読み取り、「じゃあ、とりあえず確認するね。」と「初めまして、美穂です。」 「よろしく、知子です。」とメールを送ってきました。
「これでいいわね、ここにさっきの写真データを送ってきてくれる?」 「はい、今日家に帰ってからデータを整理するときに送るようにします。」 「あなた一人?」 「はあ、僕いつも一人です。」 「じゃあ、せっかく知り合ったんだから今日は私達と一緒に紅葉を楽しみましょうよ。ね、三人の方が楽しいわよ。ねえ、知子。」 「そうそう、私達も男性が一緒の方が楽しいし。」夕方まで二人と紅葉の中の自然を楽しんだ後、「ねえ、君、家はどこ?」 「はあ、〇〇ですけど。」 「丁度良かった、ねえ、車運転できるよね。」 「はあ、毎日仕事で運転してます。」 「そう、よかった、これからさ夕食を一緒にしない?私達ビールが飲みたいからさ帰りの運転してよ。」 「え~!僕、運転手ですか?」 「そ、せっかく綺麗な景色を楽しんだ後だからさ、私達一杯飲みたいのよ。」 「は、はあ、でも僕帰りの電車の切符も買ってあるんですけど。」 「そんなの払い戻ししてもらえばいいじゃん。」 「は、はあ。」
結局、その日は夕食をおごってくれることで運転手にさせられてしまい、彼女たちが住むマンションまで車を運転して駐車場に止めて別れました。

彼女たちとの付き合いはそれが始まりで、不思議な関係のまま半年をすぎたころ、社食で昼ご飯を食べている時スマホが震えたのでポケットから出して画面を見てみると、知子さんからラインが入っていました。「すぐに電話して!」と。僕は社食を飛び出して、すぐに電話をしました。
「美穂が!美穂が大変なのすぐに来て!○○中央病院!」僕は訳が分からないまま昼から休暇を取り、病院に急行しました。病院の受付に行くと知子さんが待っていて、「美穂が刺された!今重体なの!手術中なの!」 「ど、どうしたんですか?」 「ストーカーにやられたの!同じ会社の同僚の佐々木信弥ってやつに。刺した後会社の車で逃げて行ってしまって!」 「え~!で、美穂さんの容態は?」 「重体!意識が戻らないの!いま手術が終わってICUで眠っている。私、怖くて、一緒にいてくれる?」 「は、はい、一緒にいます。」
僕と知子さんはICUのガラス越しに美穂さんのベッドを見てから廊下のベンチに腰かけていました。知子さんは震えながら僕の肩にもたれ掛かり、「ごめんね、伸介君、こんな時君しか頼りになる人がいなくて。」 「いえ、僕で役に立つことは何でも言ってください。」 「うん、ありがとう。私達保育園の時からの幼馴染で、中学、高校、大学とずっと一緒にいたのよ。会社も同じところに就職して同じマンションで一緒に生活していたの。あなたには言うけど、私達恋人同士なの。」 「そ、そうだったんですね。だから僕のことも男としては見てくれなかったんだ。」 「ごめんね、君は私達が君を男として見ていなくても私たちを嫌がらずに付き合ってくれていたから・・・。」 「いえ、いいんです。僕も生まれてから今まで女性と付き合ったことがなかったので・・・。」 「嘘!ご、ごめん。でも美穂がこれからどうなってしまうのか、私不安で不安で・・・。伸介君、一緒にいてくれる?」 「もちろんです、僕も友達ですから。」
廊下のベンチで座ったまま夜中になってしまい、二人で体を寄せ合ってウトウトと眠ってしまいました。
その時僕の頭をトントンと誰かがつついたのでふと目を開けて前を見上げると、そこには花魁の格好をした凄く綺麗な女性が宙に浮いた状態で僕を見てニコッとして、「よ、起きたか?私天使、よろしく。」 「は?天使?嘘でしょう?そんな恰好をした天使なんているわけないでしょう。」 「いやだねえ、他人の言うことを信用しなさいよ。白いドレスとか背中の羽とか頭のリングとかもう古いんだよ。ま、いいや、そんなこと、はいこれ、エクスチェンジ・ノート。このノートに長生きしてほしい人の名前と早く死んでほしい人の名前を書いて念じると寿命が入れ替わるの。いる?いらない?」 「いります!書きます、下さい。」 「よし、じゃあ、このページの上に長生きしてほしい人の名前、下側に早く死んでほしい人の名前を書いて、そして顔を思い浮かべながら念じるの。いい?」 「はい、福山美穂、それと佐々木信弥。よし、これお願いします。」 「うん、預かったわ。でも一つ、君の寿命が一年縮まるからね。我慢してね。」 「美穂さんが助かるなら僕の命一年ぐらいいいです。」 「そう、じゃあ、明日の朝、目が覚めるころには結果が出るから。じゃあね、バイバイ。」

目が覚めると僕の左肩にもたれかかる様にして知子さんが眠っていました。僕は「変な夢を見たなあ。あの天使って言ってた女性ってなんなの?はあ、美穂さん、頑張って!」と思っていました。「う、う~ん、ごめん、寝ちゃった。伸介君、お腹空かない?」 「はあ、ちょっと空きましたね。」 「隣がコンビニだったでしょう?何か買ってくるわ、待っていて。」 「はい、ここで待っています。」知子さっがコンビニに買い物に行ってしばらくして、急に看護師さんやお医者さんの動きがあわただしくなり、「福山さんの付き添いの方ですか?」 「はい、そうです。」 「今しがた、気が付かれました。血圧も心拍も安定しています、もう大丈夫でしょう。安心してください。」 「え~!ほ、本当ですか!」僕は飛び上がりガラス越しにベッドの方を見ました。すると看護師さんやお医者さんに取り囲まれた美穂さんがこちらを見て何かを言うようなそぶりが見えました。「よかった~」と思った時に知子さんがコンビニの袋を持って帰って来ました。
「知子さん、美穂さん、気が付きました。もう大丈夫だそうです。」 「え!よ、よかった。」とコンビニの袋を落としてガラス越しにベッドを見て泣き始め、僕に抱き着いてきました。ベンチに座ってコーヒーを飲みパンをかじりながら、「よかった、本当に良かった。」と僕と知子さんはホッとしていると、警察の制服を着た人が、「あのう、福山さんの付き添いの方ですよね。」 「は、はい、私、同僚の加山知子です。」 「え~と、ですね、犯人は死んでしまいました。」 「は?どういうことです?」 「いえ、車で逃げる途中で高速道路でタイヤがパンクして路肩のガードレールにに激突して自損事故で死んでしまいました。車に福山さんを刺した包丁とかもありまして間違いないと思います。とりあえずご報告だけ。」と帰って行きました。
「はあ?あの男、死んじゃったの。」 「そ、そうですか。」僕はあの夢が「正夢だったのか。」と思いましたが口には出さず黙っていました。

それから3か月、美穂さんは退院して元気になりリハビリをしながら、テレワークで仕事に復帰しています。僕はあの時のことが縁でシェアハウスから引っ越しをして、二人のマンションで同居しています。美穂さんが入院中に知子さんと関係を持つようになり、美穂さんが退院後美穂さんとも関係が出来、今は二人の女性と事実婚状態になってしまいました。まあ、僕の寿命の一年を美穂さんのために使ったことが僕の未来をこういう風に変えてしまったんでしょうね。
それにしても、あの犯人はまさか自分が死んでしまうとは思ってもいなかったんでしょうね。昔からよく言われるように、「人を呪わば穴二つ。」自分の墓穴も掘っておかないと・・・。

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