見出し画像

はちみつみたいにとろとろしたあの午後の2時をわたしは愛した。太陽は高くその位置を保っていて、その太陽が沈むまでわたしたちは特にすることもなかった。人もバスも飛行機も行き交う場所なのにそのとろとろした午後の2時の中では急いでるものなんてありはしないのだ。

満たされたお腹にとろとろしたキャラメルタルトを放り込む。フォークからこぼれた欠片がスタイベックの朝食のページに落ちた。さっと本を縦にしてその欠片を落とすと、いかにも眠そうな蜜蜂がのっそりとその欠片のまわりをぐるぐると飛び回った。もう一口タルトをフォークで切ると、また欠片が皿から飛び出し二匹目の蜜蜂がやってきた。

とろんとした眠りはまぶたのすぐ上まで来ていて、わたしのまつげをくすぐりながらそっと内側に潜り込んできた。わたしがこんなにもあの午後の2時を愛したのは、何かが起こるかもしれない恐怖がその地面のすぐ下を流れているのを知っていたから。私の背後にあるゴミ箱が爆発するかもしれないし、斜め右前に座ってる人が突然銃を乱射するかもしれないし、今通り過ぎたスーツ姿の女性のスーツケースの中身なんて誰にもわからない。

でも、今はいいでしょう。そのとろとろとした午後の2時の中を漂っていても。私はタルトの染みがついたページをぱたんと閉じて、そっと目を瞑った。

サポートありがとうございます。みなさまからの好き、サポート、コメントやシェアが書き続ける励みになっています。