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本のにおい、本の手ざわり
「カバーはおかけしますか?」と聞かれてもふだんはだいたい断っているのだが、たまにふと気が向いて「お願いします」と答えている。
新しい本にかけられた、真新しい紙のブックカバーはまだごわごわしていて、なかなか本にもページをめくる指にも馴染まない。
それが、ページを一枚一枚めくるごとに、本を折り曲げるからなのか、指の油なのか、じめっとした空気を吸い込んだからなのか、ポテチとかクッキーのかけらがこぼれたからなのか、徐々に指と本のあいだにフィットしてくる。私はその微妙な変化がたまらなく好きで、なんだろう、知らなかった本が自分のものになっていく、みたいな。愛着が湧いてくるのだ。
あのなんともいえない、それでいて嗅ぐと胸の奥がきゅ、となるような本のにおいを吸い込むのも好きだし、しみひとつない本のページの端っこを、おそるおそる折り曲げるのも好きだ。ああ私はきっと、文字を読む行為ももちろん好きだけれど、こうして物理的に本を経験することも大好きなのだなと思う。
ネットや電子書籍でたくさんの本や文章が読めるけれど、大半の本がデジタルに移行しても、私は紙というかたちで本を楽しむんだろうなと思う。今でも、レコードを好む人たちがいるように。
書籍のデジタル化は私はそんなに嘆いていなくて、というのも、物質的な本を好きな人はきっとどの時代にも残るはずだから、少数の、高くて希少だけれでも、でもだからこそとてもすてきなデザインとフォントと装丁の本が出てくるんだろうなと思う。そのときこそ、本の価値はもしかしたら再び上がるのかもしれない。大きくてきれいで、でもあまりに重くてテーブルの上に置いてしか読めない本が“本”だった時代のように。
それでは、また。
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