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水面下 vol.2

彼女はとにかくゆっくりと喋る。彼女の世界と僕の世界のテンポはどことなくずれていて、つまりボタンを一つかけ間違えた世界に互いに住んでいる。

僕が焦っていて言葉を端折ったり、怒っていて言葉を乱暴に扱ったり、悲しんでいて言葉を失ったりしたとき、彼女はとても丁寧に、僕が落とした言葉を一つ一つ拾う。

そして埃をそっとふきとり、彼女の柔らかい手の盆に乗せて渡してくれるのだ。



「おはよう」と彼女が言った。

「おはよう」と僕は言う。

「今日はごはんの日、パンの日」

「今日はパンの日。クロワッサンの気分」

「でも、雨だよ」

「そう」と彼女は窓を見る。

「じゃあ、私が行ってくるわ」

「今から」

「うん、雨の日は、嫌いじゃないの」

「知ってるよ」

「鍵は開けておいてね」

彼女がクロワッサンを買いに行っている間、僕は洗濯機を回した。いつも洗濯をしたいと思う日には、雨が降る。僕は洗濯の神様に嫌われているのかもしれない。

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