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月がひんやりする帰り道を歩きながら、マナミはいつか自分の身体がこの世を離れていく姿をありありと思い浮かべることができた。身体がなくなれば、いま自分を自分だと思っているマナミの意識も消える。高崎くんと別れたあとののどにひっかかったままの石ころも、あゆみちゃんとカフェでねばって3時間ドリンク一杯で過ごした笑い声も、メガネまで脂ぎっているような面接官の微笑みも、ぜんぶ消える。

この先どうなるんだろうというワクワクも不安も、あのときやっぱり高校を辞めればよかったという後悔も、窓から飛び出したくなるくらいの幸せも、ぐっしょり濡れたシーツのように重いマナミの自意識も、全てぜんぶ消え失せる。

そう思うと足が月へ向かって伸びていくような気がした。何をしたって、結局は全て消えてしまうのだから。それは諦めじゃなくて、希望だった。だからやっぱり歩くしかないのだ。月はマナミをずっと待っててくれているのだから。

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