水面下 vol.5
彼女が初めて実家に来た時、僕の母は「少し変わった子ね」と言った。
「そうかな」
「悪い意味じゃないわよ。なんかこう、少し独特ね」
「少し独特」だと「独特」ではないのではないか、なんて僕は思ってしまったのだけれど、そんなことを言うと母が不機嫌になるので、辞めて置く。
「まあ、ゆっくり喋る子ではある」
「そうよ。あなただってだいぶ、ゆっくり喋るようになったじゃない」
「そうかな」
「一緒にいると気が付かないものね」
「いつもカタカナばっかり使うって怒られる」
「それはあなたの語彙が足りないのよ」
「国語は苦手なんだ」
「そうね。国語は頑張っても3だったわね」
そうやってすぐに昔話を持ち出すんだから、と言おうとしたけれど、これも母を不機嫌にさせるので辞めて置く。
「夕飯は食べて帰るの」
「いや、いい。少ししたら友達のところに寄ってそのまま帰る」
「そう。じゃあ、洗濯物だけ取り込んでおいてちょうだい」
「はあい」と僕は返事をした。
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