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顧客の価値形成プロセス No.1 「文脈視点による価値共創経営」を読んで

 最近、「文脈視点による価値共創経営: 事後創発的ダイナミックプロセスモデルの構築に向けて」という論文を読んだ。2012年に執筆されたものだが、興味深い内容だった。勉強になると同時に、論文に接したことで疑問も生まれた。今回は、2つのテーマに分けながら、論文の紹介と、自分が抱いた感想・疑問を書いていきたい。

※Jstageで論文が公開されているので、気になる人は下記リンクからお読みいただきたい。


テーマ1: 価値共創における企業プロセスと顧客プロセスの関係

 「顧客との価値共創」は、少なくとも2021年現在においては、人口に膾炙した言葉だ。だが、実際の「プロセス」がどのようになるのかは、未だに見解が分かれているのではないだろうか(筆者が勉強不足なだけかもしれないが)。

 この論文では、「企業の価値創造プロセスの各段階で、顧客との共創が発生する(並行モデル)」のでも、「企業プロセスの結果と、顧客プロセスの結果が組み合わさることで、共創が発生する(集束モデル)」のでもなく、「企業プロセスと顧客プロセスを独立のプロセスとして捉え、両者が交叉するところで価値共創が行われる(交叉モデル)」としている。

 確かに、本来、顧客のプロセスは、企業側の都合とは関係なく存在しているものであるし、企業との価値共創は「終点」でだけ行われるものではない。となれば、「交叉モデル」が最もしっくりくる、というのは確かに納得のいく話ではある。

 一方で、「では、どのような交叉のパターンが存在するのか?」「交叉が成立する条件とは何か?」といった点に関しては、疑問が残る(9年前の論文であるので、何らかの形で研究が進展しているのだろうか)。また、並行モデルにしても、「顧客プロセスを起点に、企業が各段階での共創を試みる」という形であれば、十分に成立しうるのではないか、という点も疑問である。

テーマ2: 価値の事後創発性

 これまでは、企業側も顧客側も、事前に「価値共創によって得られるベネフィットと、価値共創に携わることのコストを事前に計算・計画したうえで、共創のプロセスに携わる」とされてきた、と、この論文では主張している。それに対して、本論文は、「企業側も顧客側も、価値共創を始める当初の段階では必ずしも合理性や事前計画性は高くない。むしろ、価値共創を進めていく過程において、企業側も顧客側も事前には想定しなかった価値を創造することに発展する場合が多い」とし、コマツのKOMTRAXや、公文式を例として挙げている。

 例えば公文式において、顧客は、当初は「学校の成績を上げる」ことを目標としてサービスの利用を開始することが多いが、学習を進める過程を通じて、「学習習慣がつく」や「自立心が芽生える」という価値を、事後的に実感するそうだ。

 本論文が示すように、「価値共創を進めていく過程において、事前には想定しなかった価値が想像される」という事象には、一定の納得感がある。だが、いくつかの疑問も残る。

 まず、本論文は「事前計画よりも事後創発が多い」と主張するが、定量的に示したデータがあるのかは疑問である。また、事前計画的な価値と事後創発的な価値は、どちらか一方のみが存在するわけではないのではないだろうか。事前に計画された価値を共創しつつ、その過程で、事後創発的な価値が付随する、というのが実態であるように感じた。そうだとすれば、以前として、「事前計画的な価値」は重要になるだろう。それを顧客が知覚できなければ、そもそもプロセスに参加せず、事後創発的な価値も生まれないからだ。

 さらには、業界やサービスの内容によって、「事前計画的な価値」と「事後創発的な価値」の比重は変わるのではないだろうか?事後創発的な価値を重視するからといって、事前計画的な価値を軽視していいことにはならないだろう。むろん逆もしかりだ。

 マーケティングに従事する者は、「事前計画的な価値」と「事後創発的な価値」を峻別したうえで、両者の顧客プロセスを理解する必要がある、ということなのかな、と感じた。

 今後も「顧客の価値形成プロセス」をテーマに、論文・書籍等を通じた学習は継続していきたい。何か良い論文や本があれば、連絡していただけると幸いだ。

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