Measure What Matters 伝説のベンチャー投資家がGoogleに教えた成功手法 OKR

OKR導入に向けて要点を理解するために手にした一冊。充実した内容であり、数四半期かけて自社にあったOKRをつくるためにも、常に手元に置いておきたい一冊。

OKR

OKRとは「会社内のあらゆる組織が、同じ重要な課題に全力で取り組むようにするための経営管理手法である」
  目標(O) とは「何を」達成すべきかである。それ以上でもそれ以下でもない。当然ながら、重要で、具体的で、行動を促し、(理想を言えば)人々を鼓舞するようなものだ。目標をきちんと立てて展開すれば、曖昧な思考、そして曖昧な業務執行を防ぐワクチンとなる。
主要な結果(KR) とは、目標を「どのように」達成しつつあるかをモニタリングする基準だ。有効なKRは具体的で時間軸がはっきりしており、意欲的であると同時に現実的だ。何より重要なこととして、測定可能で検証可能でなければならない。1KRの要求事項は「満たしているか」「満たしていないか」がはっきりしている。グレーゾーンや疑問の余地はない。指定された期限が来たら(通常は四半期)、KRが達成されたか否かを判断する。目標が1年あるいはそれ以上にわたって延長されるような長期的なものであれば、その進捗に合わせてKRも見直していく。KRがすべて達成されれば、目標は必ず達成されているはずだ。

もちろんOKRは万能ではない。優れた判断力、強力なリーダーシップ、クリエイティブな職場環境といったものの代わりにはならない。ただこうした基礎条件がそろっていれば、OKRはあなたを頂点へと導いてくれる。

威力①:優先事項にフォーカスし、コミットする
威力②:アラインメントと連携がチームワークを生む
トップから現場までのアラインメントによって、すべてのコントリビューター(組織に貢献する従業員) が組織の成功と結びつき、仕事にやりがいが生まれる。ボトムアップのOKRは、従業員の責任感を高め、仕事へのエンゲージメント(積極的関与) とイノベーションを起こす
威力③:進捗をトラッキングし、責任を明確にする
主要な目標の到達が危ぶまれる事態になれば、立て直すためのアクションの作成、あるいは必要に応じて目標を修正・変更をする
威力④:驚異的成果に向けてストレッチする
OKRは不可能に挑戦し、傑出した成果を出すことを促すシステムだ。限界に挑戦させ、失敗を許容することで、誰もが持つ創造力と野心を最大限にする
CFR:対話(Conversation)、フィードバック(Feedback)、承認(Recognition)の頭文字を取ったもの。OKRと組合わせることで、リーダー、コントリビューター、組織は新たな次元に向かえる

目標

目標は「処方薬並みに強力なクスリであり、慎重な服用と厳しい管理が必要だ」と警鐘を鳴らした論文が話題になった。「目標は、視野を狭め、非倫理的行動やリスクテイクを助長し、協力意識やモチベーションを損なうなど、組織的問題を引き起こす可能性がある」。目標設定の弊害は、あらゆる効用を凌駕することもある。少なくとも著者らはそう主張した。

この論文はかなりの共感を呼び、今でも頻繁に引用されている。この警告が完全に誤っているというつもりはない。どんな経営管理システムにも言えることだが、OKRも使い方によってはプラスにもマイナスにもなる。本書の目的は、みなさんがそれを上手に使えるようお手伝いすることだ。ただ誤解しないでいただきたい。仕事において高いパフォーマンスを目指す者には、目標は絶対に必要である

第1に「困難な目標」のほうが、楽な目標よりパフォーマンスを高めるのに有効である。第2に、 具体性のある 困難な目標のほうが、曖昧な文言で書かれた目標より「アウトプットの水準が高くなる」

状況変化に対応しつつ、目標や締め切りの安易な変更は認めない。フィードバックを促し、大小にかかわらず成果を称える。何より重要なこととして、それはわれわれの限界を広げる。一見手の届かないものに向けて懸命に努力するよう背中を押してくれる。

MBOの起源

20世紀初頭の経営学の祖先とも言うべき人々は、いち早く生産高を系統的に測定し、どうすればそれを高められるかを分析した。そして最も効率的で収益性が高いのは、権威主義的組織であると主張した。テイラーはこう書いている。科学的経営とは「従業員にすべきことを正確に理解させ、それを最適かつ最も安価な方法で行わせることである」と。その結果誕生したのが「明快な階層組織である。そこには命令を下す者と、それを受けて、なんの疑問も持たずに実行する者しかいなかった」とグローブは指摘した。

ドラッカーが示そうとしていたのは「個人の強みと責任感を発揮させつつ、同時に全員のビジョンと努力の方向性を一致させ、チームワークを醸成し、個人の目標と全員の幸福を調和させるような経営の原則」である。ドラッカーは人間性に関する基本的真実を見抜いていた。「人に自らの進む道を選択させると、最後までやり遂げる可能性が高まる」と。1954年に出版された代表作『現代の経営』では、この原則を「目標と自己統制による管理」としてまとめた。これがアンディ・グローブの出発点となり、 今日われわれがOKRと呼ぶものの起源となった。1960年代には「目標による管理(MBO)」のプロセスは、すでに先見性のある多くの企業が取り入れていた。

だがやがてMBOの限界も明らかになった。多くの企業では、目標は本社が中央集権的に決め、それが組織の末端まで降りていくのに恐ろしく時間がかかった。頻繁に更新しないために停滞したり、タコツボ化という罠にはまることもあった。あるいは魂も意義も抜け落ちた「重要業績評価指標(KPI)」という数値目標に化けてしまうこともあった。致命的だったのは、ほとんどの企業がMBOを給与や賞与と連動させたことだ。リスクを取ることがマイナス評価につながるのなら、なぜわざわざリスクを取る必要があるだろう。1990年にはMBO熱もすっかり冷めていた。

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OKRの活用

通りかかった人が誰でも見られるようにした。自分の目標を書き出す職場、しかもCEOに至るまで他の人々の目標もすべて見られる職場など、初めてだった。そうすることで目標が定まり、意識が高まるのがわかった。それと同時に、気が楽になった。四半期の途中で誰かに突然新しいデータシートを作ってくれと言われたとき、憶することなく断れる気がした。OKRがその根拠となるからだ。それを見れば、誰の目にも私の優先事項は明白だった。

OKRは毎週の個人面談、隔週のスタッフ会議、月次と四半期ごとの部門会議の中心にあった。インテルが何万人もの従業員を管理し、シリコンや銅のチップに100万分の1メートルの精度で100万本の線を刻むという偉業を成し遂げる原動力となった。OKRはわれわれに何をすべきかを常に思い出させてくれた。具体的に何を達成できているのか、何を達成できていないのかをはっきりと示していた。

以下、アンディから直接、あるいはその愛弟子のジム・ラリーから学んだOKRの要諦である。

①絞り込む
「ひとにぎりの目標を厳選することで、何に『イエス』と言うべきか、何に『ノー』と言うべきかが明確に伝わる」とグローブは書いている。1サイクルあたりの目標を3~5個に限定すると、企業や組織や個人は最も重要なものを選ぶようになる。通常、個々の目標に連動する「主要な結果」は5個以下にする。

②目標はボトムアップで
組織や個人の意欲を引き出すには、上司と相談しながらOKRのほぼ半分を自分で決めさせるとよい。すべての目標をトップダウンで設定すると、意欲はそがれてしまう。

③押しつけない
OKRは優先事項を決定し、その進捗をどのように測るかを決めるための協力的な社会契約と言える。会社全体の目標についての議論がまとまっても、それに付随する「主要な結果」についてはまだ議論する必要がある。目標達成を最大限促すには、協力的な合意形成が不可欠だ。

④常に柔軟な姿勢で
事業環境が変化し、現在の目標が現実的ではない、あるいは妥当性を失ったと思われるときには、サイクルの途中でも「主要な結果」を修正したり、場合によっては捨ててもいい。

⑤失敗を恐れない
「全員がすぐには手の届かないような目標に向かって努力するとき、アウトプットは伸びる傾向がある。自分自身と部下に最大限のパフォーマンスを求めるのであれば、そのような目標設定はきわめて重要である」とグローブは書いている。事業目標のなかには絶対に達成しなければならないものもあるが、野心的OKRは、困難で達成できない可能性もあるものにすべきだ。「ストレッチ目標」には、組織を新たな高みへと引き上げる力がある。

⑥手段であって、武器ではない
「OKRという仕組みは、個人の仕事のペースを管理するためのものだ。自分自身のパフォーマンスを測るために、社員にストップウォッチを握らせるようなものである。勤務評定の根拠となるような正式文書ではない」とグローブは書いている。リスクテイクを促し、力の出し惜しみを防ぐには、OKRとボーナスは切り離すほうがいい。

⑦辛抱づよく、決然と
どんなプロセスにも試行錯誤はつきものだ。グローブがiOPECの講義で語っていたように、OKRの導入後「インテルは何度も躓いた。その基本的目的が何なのか、十分理解していなかったからだ。時間の経過とともに、少しずつうまくできるようになってきた」。システムが軌道に乗るまでには、4~5四半期のサイクルを繰り返す必要があるかもしれない。目標設定のための筋肉を十分身につけるには、さらに多くの時間がかかるだろう。

優先順位にフォーカスし、コミットする

「これからの3カ月(あるいは半年、一年)で一番重要なことは何か?」

目標を絞り込むのは常に難しい。しかしその価値はある。ベテラン経営者なら誰もが知っていることだが、「全部やりきれる」個人や会社など存在しない。重要なことを本当にきちんとやりきるためには、常に1つのことだけにフォーカスしなければならないと私は思う。だからその重要なことが何なのか、間違えてはいけないのだ。OKRを厳選することで、計画どおり、期限どおりに遂行すべき、ひとにぎりのきわめて重要な項目が浮かびあがる。

・組織に適したOKRのサイクルを設定する。四半期OKR(短期的目標)と年間OKR(長期的戦略と結びついたもの)を並行して使うダブルトラック方式を推奨する。時間軸を明確にすると、フォーカスや熱意が強まる。締め切りほど強力な推進力はない。
・実施するうえでの問題点を解決し、またリーダーのコミットメントを強めるため、OKRは段階的に、まずは経営上層部から導入する。OKRが順調にまわりはじめてから、個々のコントリビューターを招き入れるようにする。
・すべての個人が各サイクルで最も重要なことを選ぶように目を光らせる「OKRの番人」を任命する。
・1サイクルあたり3~5個の全体目標(絶対に達成すべきこと)にコミットする。OKRが多すぎると、人々の努力が希薄化して散漫になる。OKRに振り向ける能力を増やすため、しないことを決め、それに応じて業務を廃止、延期、縮小する。
・OKRを選ぶ際には、圧倒的なパフォーマンス向上に最も効果的なものを探す。
・組織のミッション・ステートメント、戦略、あるいは経営陣が選んだ大きなテーマのなかから、最上位のOKRの素材を探してくる。
・特定部門の目標の重要性を明確にし、他部門からも支援を得たいなら、それを全社のOKRに昇格させる。
・1つの目標に対し、最大でも5つの、測定可能で曖昧さのない、期限が明確に区切られた「主要な結果」を決める。それは目標をどのように達成するかを示すものだ。すべての「主要な結果」を完了すれば、目標が達成されるはずだ。
・「主要な結果」はどれも、達成困難なものでなければならない。確実に達成できると思えるのであれば、おそらく十分高いレベルに設定されていない。
・バランスと品質管理のため、質的な「主要な結果」と量的な「主要な結果」を組み合わせる。例えばフォードの失敗事例を出すと「具体的かつ困難な目標(市場への投入速度、燃費、コスト)は、明記されなかった別の重要な特性(安全性、倫理的行動、企業評価)を犠牲にして達成された」ということが起こることがあるからだ。
・特に注目すべき「主要な結果」がある場合は、それを1~2サイクルのあいだ目標に昇格させる。
・OKRが成功するうえで最も重要な要素は、組織のリーダーがそれを信じ、率先して行動し、支持することである。
・設定したOKRを共有するときには、必ず「なぜ」とセットで伝える。

アラインメントと連携がチームワークを生む

・社員に彼らの目標がどのようにリーダーのビジョンや会社の最優先事項と結びついているかを示し、インセンティブを与える。現場からCEOまでの目標が公開された透明性の高い環境は、優れた経営を実現する近道となる。
・全社員ミーティングの場で、なぜ組織にとってOKRが重要かを説明する。それを自分でも聞き飽きたと思うくらい繰り返す。
・OKRの運用において、トップが設定した最上位目標を段階的に下ろしていく形をとるとき、「主要な結果」については最前線のコントリビューターと意見交換をする。イノベーションは会社の中心より、端っこで起こりやすい。
・ボトムアップのOKRの割合を健全な水準に保つ。おおよそ半分が望ましい。目標を自ら選ぶと、それを達成するのに何が必要か強く意識するようになる。目標を「どのように」達成するかを他人に決められると、目標を達成しようという意欲は低下する。
・OKRを水平的に共有することでチーム同士を結び付け、部門ごとの縦割りを崩す。部門横断的な組織運営は迅速かつ一貫性のある意思決定を可能にし、競争優位を確立する土台となる。
・部門を超えた相互依存関係を可視化する。
・OKRを改定あるいは廃止するときは、必ずすべての利害関係者に知らせる。
・透明性は協力の出発点となる。社員Aが四半期目標の達成に苦労しているとする。Aが進捗状況を公開していれば、助けを必要としていることに周囲が気づく。すると意見を出したり、サポートを申し出たりするはずだ。

上意下達についてはほどほどに実践すれば、組織にまとまりを持たせる効果がある。すべての目標が上意下達で決まってしまうと、プロセス全体が機械的な塗り絵のような作業になり、次の4つの弊害が生じるリスクがある。

①機敏性の欠如(伝達に時間がかかる)
②柔軟性の欠如
③コントリビューターが軽んじられる
④組織の連携が一面的になる(部門ごとの部分最適になることがある)

一方、差し迫った経営課題があり、とにかく「それを解決すること」が最優先されるときには、あえて上意下達的になる。一方、業績が好調なとき、そして組織がやや臆病で硬直的になったときには、手綱を緩めるのが正しいかもしれない。リーダーが会社と従業員のニーズの変化に敏感であれば、トップダウン目標とボトムアップ目標の比率はたいてい半々になる。それが適切な状態だと私は考える。

進捗をトラッキングし、責任を明確にする

・責任を明確にする文化を醸成するために、継続的な評価の更新と、正直と客観的な採点を制度化する。それをトップから始める。リーダーが自ら誤りを率直に認めれば、コントリビューターも健全なリスクをとりやすくなる。
・外的報酬より、成果を示すオープンで具体的な指標によってコントリビューターの意欲を高める。
・OKRをタイムリーで妥当なものにするため、番人を任命し、定期的な確認と進捗報告を徹底させる。頻繁な状況確認によって、チームも個人も機敏に軌道修正したり、早く失敗できるようになる。
・高いパフォーマンスを維持するため、コントリビューターとマネジャーの週1回のOKR個人面談と、月1回の部門会議を開くことを奨励する。
・状況変化に応じて、たとえサイクルの途中でもOKRの見直し、追加、削除は行って構わない。ときには「正しい」「主要な結果」が、目標を設定した数週間後、あるいは数カ月後に初めて見えてくることもある。すでに妥当性を失った、あるいは達成不可能となった目標に頑なにしがみつくのは非生産的である。
・サイクルが終わったら、OKRの評点と主観的な自己評価の結果をもとに、パフォーマンスを評価する。「目標はすべて達成したか。そうだとすれば成功要因は何か。」「達成しなかった場合、どのような障害があったのか。」「完全に達成できた目標を書き直すとしたら、どこを変えるか。」「次のOKRサイクルへの取り組み方を変えるような学びはあったか。」を振り返る。
・目標の採点方法として最も単純明快なのは、関連する「主要な結果」の達成率の平均をとることだ。グーグルは0から1.0の尺度を使っている。
0.7-1.0=青(完了)、0.4-0.6=黄(進捗はあったが、完了できなかった)、0.0-0.3=赤(実のある進捗はなかった)
・OKRに常に適宜適切な状態にしておくため、自動化されたクラウドベースの専用PFに投資する。OKRに最適なのは、公開型、コラボレーション型のリアルタイムな目標設定システムである。

驚異的成果に向けてストレッチする

・サイクルが始まる時点で、コミットOKRと野心的OKRをはっきりと区別する。コミットOKRは100%必達であり、野心的OKRは打率5割くらいを目指す。ただ打率5割でいいからと言って、「失敗しても仕方ない」「100億の売上目標に対して50億でいいと考える」人はいない。
・個人が悪い評価を恐れず、のびのびと失敗できる環境を創る。
・問題解決を促し、社員を素晴らしい成果に駆り立てるために、たとえ四半期目標の一部が未完に終わるリスクがあっても野心的目標を設定する。ただ、OKRがどう見ても非現実的なものにならないように、目標を高くしすぎるのも避ける。成功できないことがわかりきっていると、社員の士気は下がる。
・生産性の飛躍的向上やイノベーションを実現するため、グーグルの「10倍主義」「ムーンショット文化」を見習い、漸進的OKRは飛躍的OKRに差し替えよう。それが産業の破壊的変化やジャンルの再活性化につながる。
・組織の文化に合致するストレッチOKRを考案する。会社にとって最適な「ストレッチ」の度合いは、事業上のニーズに応じて時間と共に変化する可能性がある。
・チームがストレッチOKRを達成できなかった場合、それがまだ妥当性を失っていなければ次のサイクルでも継続するか検討する。

継続的パフォーマンス管理

・小さな問題が大きな問題に発展する前に解決するため、そして苦戦しているコントリビューターに適宜必要な支援を与えるため、年次パフォーマンス管理から継続的パフォーマンス管理に移行する。
・未来志向のOKRと過去を振り返る年次勤怠評定を切り離すことで、野心的目標設定を促す。目標達成をボーナスと結びつけると、力の出し惜しみやリスク回避行動につながる。
・社員の相対評価や順位付けのための徒労な時間をなくし、透明性の高い、強みに主眼を置く多面的な評価に基づくパフォーマンス管理を導入する。数字だけを見ず、コントリビューターのチームプレー、コミュニケーション能力、野心的に目標設定しているかを評価する。
・金銭的インセンティブに頼らず、有意義な仕事や成長の機会を与えて内的モチベーションを引き出す。
・パフォーマンスの向上を促すため、体系的目標設定と併せて継続的CFRを実施する。透明性の高いOKRによって、具体的かつ有益なコーチングが可能になる。継続的CFRは日々の業務の質を高め、真の協業を促す。
・パフィーマンスを高めるためのマネジャーとコントリビューターの面談では、コントリビューターに議題を決めさせる。マネジャーの務めは学習とコーチングである。
・個人面談の要諦は、部下のためのミーティングであるということ。議題や雰囲気を決めるのは部下であり、上司は耳を傾け、コーチングする立場で出席する。
・パフォーマンス、フィードバックは組織図にとらわれず、双方向性があるのが望ましい。適宜様々な方向から集まるようにする。
・特定の業務や組織全体の士気を測るため、組織の「パルス」をとるリアルタイムの意識調査を活用する。
・部門横断的OKRと組合わせて、ピア・トゥ・ピア・フィードバックを実施し、チームや部門間のつながりを強化する。
・社員のエンゲージメントとパフォーマンスを高めるため、互いに優れた働きを認める仕組みを創る。効果を最大限引き出すため、承認は頻繁に、具体的に、目立つ形で行い、最上位OKRとの関係性を明示する。

年一回しかないパフォーマンス管理に代わる今日的手法が継続的パフォーマンス管理である。それを実践する手段がCFRであり、以下の頭文字を取っている。

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対話(Conversation):パフォーマンス向上を目的に、マネジャーとコントリビューターのあいだで行われる真摯で深みのある意見交換。
フィードバック(Feedback):プロセスを評価し、将来の改善につなげるための、同僚との双方向あるいはネットワーク型のコミュニケーション。
承認(Recognition):大小さまざまな貢献に対して、しかるべき個人に感謝を伝える。

CFRは本当に重要なことを測定する文化を、組織の隅々まで浸透させるシステムだ。そこにはアンディ・グローブの革新的手法の魅力と威力が詰まっている。いわばOKRに血を通わせる手段である。

年次パフォーマンス管理を廃止するにあたり、マネジャーと従業員の面談の頻度を高める。以下のようなテーマで面談を行う。

1つめは、従業員がマネジャーと業務の状況について話し合うために、月1回実施する1対1の面談だ。
2つめは、OKRに対する進捗を評価するための四半期レビューだ。ミーティングの場で『今四半期に達成しようとしていた目標は何か』『達成できたことは何か』『達成できなかったことは何か』『その理由は何か』『何を変えればよいか』を話し合う。
3つめは、半年に1回開く、キャリア開発のための対話だ。従業員はそれまで何をしてきたか、今はどういう状況にあり、今後はどうなりたいのか、といった自らのキャリアの展望を議論する。そして新たな進路を、管理職や組織がどのように支援できるかを話し合う。
4つめは、継続的かつ自発的な振り返りだ。私たちの身の回りには、常に正の強化(好ましい行動を褒め、同じ行動を助長すること) やフィードバックがあふれているが、自発的にそれを求めようとする人は少ない。たとえばあなたがチームの前でプレゼンをしたとしよう。終わった後、誰かが近づいてきて『良かったよ』と言ってくれても、たいていの人は『ありがとう』で済ませてしまう。そこをもう少し、突っ込んでほしい。『ありがとう。良かった点を1つ挙げてもらえるかな?』と。そうすればリアルタイムに具体的なフィードバックをもらえる。

2つめに上げた、四半期レビューでは、リーダーは主に5つの問いを投げかける。

・今、何に取り組んでいるのか?
・状況はどうか。OKRの進捗は?
・業務の妨げとなっていることはあるか?
・もっと成果をあげるために、私ができることはあるか?
・あなたのキャリア目標を達成するためには、どのように成長する必要がある

OKRのメリットを最大限に引き出すには、そのプロセスのなかにフィードバックを組み込んでおかなければならない。自分の仕事ぶりがどの程度かがわからなければ、改善できるわけがない。

フィードバックが大きな恩恵をもたらすには、具体的でなければならない。

ネガティブなフィードバック 「君、先週は会議を始めるのが遅れたじゃないか。しかもまとまりがなかった」
ポジティブなフィードバック 「君のプレゼンは最高だったよ。冒頭のエピソードで聞き手の注意をしっかりつかんだ。次のアクションを決めて会議を締めくくったのが特に良かった」

継続的承認は、エンゲージメントを高める強力なツールだ。「甘っちょろく思えるかもしれないが、『ありがとう』と口に出して言うのはチームのエンゲージメントを高める最高の手段だ。すべての社員が応分のスポットライトを浴びることが望ましい

ピア・トゥ・ピア承認を制度化する:従業員の成果を常に仲間である同僚が認めるようになると、感謝の文化が生まれる。ズーム・ピザで毎週金曜日に全社員が参加して開かれる「まとめ会議」では、最後にすばらしい成果をあげた人の名前をみんなが自由に、思いつくままに叫ぶ。
明確な基準を設ける:特別なプロジェクト、会社の目標の達成、会社の理念を体現する行為など、従業員の行動や成果を認める。「今月の従業員」を表彰する代わりに「今月の成果」を表彰する。
承認の事例を共有する:ニュースレターや会社のブログで、優れた成果の背景を説明し、承認の理由を明確にする。
承認の頻度を高め、手の届くものにする:ちょっとした成果も認める。期限に間に合わせるための懸命な努力、提案へのひと工夫など、マネジャーが当たり前と思いがちな小さなことをとりあげる。
承認を会社の目標や戦略と結びつける:カスタマーサービス、イノベーション、チームワーク、コスト削減など、組織の優先目標に沿うような努力をタイミングよく認める。

文化を変革する

OKRの導入で大切なことは、目標や測定可能なKRを上手に作成するだけではなく、文化的課題も解決しようと試みることだ。

・透明性がなぜ重要なのか。なぜすべての部門の人々に目標を知ってもらうことに意味があるのか。なぜ私たちが取り組んでいることは重要なのか。
・真の説明責任とは何か。(他者の失敗に対して)敬意を持って説明責任を求めることと、(自らの失敗に対して)謙虚に説明責任を果たすことの違いは何か。
・OKRはマネジャーが「他者を通じて業務を遂行する」のに、どのように役立つのか(これは急成長企業が規模を拡大していくうえで、きわめて重要な問題だ)。どうすれば自分たちの目標を他のチームにも優先項目として採用してもらい、達成を支援してもらえるのか。
・チームの仕事量をストレッチすべきタイミングはいつか。またペースを緩めるべきタイミングはいつか。目標を別のチームメンバーに移管する、目標をより明確に書き換える、あるいは廃止すべきタイミングはいつか。コントリビューターの信頼を勝ち取るには、タイミングがすべてだ。

こうした問いに答えるためのマニュアルは存在しない。答えは、チームやマネジャーと個人的絆があり、彼らに成功とはどのようなものかを示すことができ、勝利を宣言するタイミング(早すぎないほうがいい)を心得ているリーダー自身のなかにある。

OKRを作成する際の落とし穴 

落とし穴① コミットするOKRと野心的OKRを区別できない
コミットするOKRにすべき項目を、野心的OKRとすることで、未達の可能性が高まる。チームはまじめに取り組もうとせず、このOKRの達成にフォーカスするために他の優先項目を調整しようとしなくなる。
反対に、野心的OKRをコミットするOKRにしてしまうと、それを達成する方法を見いだせないチームが守りに入る懸念がある。また野心的OKRにフォーカスするために、コミットするOKRの人員が不足するなど、優先順位の逆転を招くこともある。

落とし穴② 通常業務をOKRとする
チームが自分たちにとって本当に必要なことや顧客にとって重要なことではなく、現在のやり方を一切変えずに達成できそうなことをOKRにすることも多い。

落とし穴③ 弱気な野心的OKR
野心的OKRは、現状を起点とするものが多い。つまり「今より少し人手が増えて、少し幸運に恵まれたら何ができるか」と考えるのだ。そうではなく、もっと好ましいやり方は「もし制約がほとんどなかったら、数年後、われわれ(あるいは顧客)の世界はどう変わっているだろうか」と考えるのだ。そもそも野心的OKRは、設定した時点でどうすれば達成できるかはわからないものだ。それが野心的と呼ばれるゆえんである。ただ目標を明確にし、明文化しなければ、絶対に達成することはない。

落とし穴④ 力の出し惜しみ
チームのコミットするOKRには、入手可能なリソースの大部分を割くべきだが、全部ではない。コミットするOKRと野心的OKRを合わせると、入手可能なものをやや上回るリソースが必要になるはずだ(そうでなければ、すべてコミットする目標ということになる)。
チームが人員や資金のすべてを費やさずに、すべてのOKRを達成できる場合、リソースをため込んでいるか、チームが限界に挑戦していない、あるいはその両方とみなされる。これは経営上層部から見ると、人員やリソースをもっと有効活用しそうなグループに再配分すべきだというサインになる。

落とし穴⑤ 価値の低いOKR
OKRは明確な事業価値を約束するものでなければならない。そうでなければ、そのためにリソースを割く理由がない。価値の低いOKRとは、たとえ1.0の評点で達成されたとしても誰も気づかない、あるいはきにしないものである。

落とし穴⑥ コミットする目標に対して、「主要な結果」が不十分
すべてのKRで1.0の評点が得られれば、Oも1.0の評点が得られるようにKRを作成することが重要である。
よくある失敗は、目標達成に対してKRが全体として「必要不十分」であることだ。この失敗が起こりやすいのは、チームが「困難な」KRを完了するのに必要なコミットメントを避けようとするからだ。
個の落とし穴に特に有害なのは、目標達成に必要なリソースの特定を遅らせるだけでなく、目標が予定通りに達成されないリスクの発覚も遅らせるからだ。

優れたOKRかを判断するリトマステスト

・そのOKRを書くのに5分もかからなかったら、おそらく良いものではない。じっくり考えよう。
・目標が1行に収まっていないなら、十分簡潔とは言えない。
・KRにチーム内でしか通じない用語(「Foo4.1を開始」など)が含まれていたら、おそらく良いものではない。重要なのは何かを開始することではなく、その影響度である。なぜ「Foo4.1」は重要なのだろうか?「登録者を 25%増やすためにFoo4.1を開始する」のほうが良い。あるいはシンプルに「登録者を25%増やす」でもいい。
・具体的日付を使う。すべてのKRの期日が四半期の最終日となっているのは、まともな計画がない証拠だろう。
・「主要な結果」は必ず測定可能なものにする。四半期末に客観的に評点を付けられるようでなければならない。「登録者を増やす」はKRとして不出来だ。「5月1日までに1日あたりの登録者数を25%増やす」のほうがいい。
・指標に曖昧さがないこと。「ユーザー100万人」では、延べ人数か、それとも「7日間のアクティブユーザー数」かわからない。
・OKRに含まれていないが、チームにとって重要な活動(あるいは活動の一部)があれば、OKRを追加する。
・規模が大きい組織では、OKRを階層式にする。チーム全体のハイレベルなOKRと、サブチームごとのより詳細なOKRだ。「水平的OKR(複数のチームが関与するプロジェクト)」では、各サブチームにそれを支える「主要な結果」を割り振る。

【参考資料】OKRサイクル

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