リーダーのためのフィードバックスキル

社内に週1ある振り返りの場でより生産的なFBをできないかと思ったときに見つけた書籍。外資系コンサルのコミュニケーションスタイルがどこまで今の職場に合うかはさておき、FBに際しての要点を学ぶには良書。

フィードバック

フィードバックとは、いったい何なのか?一言で言うと、「特定のプロセスや行動による結果に対して、向上を目的とした情報の伝達」のことです。

フィードバックというのは継続的に行うこと、辻褄が合うように徹底させること、断片的に捉えたと思われないこと。そして非常に慎重に行うこと。さらに最終的に相手に腹落ちしなかったら、最悪恨まれてもしょうがないと理解すること。それであっても行うべき理由は3つある。

1つ目は、ファームの根底にある哲学がピープルファーストだからです。人を大事にするには、簡単に言うと、その人が成長できる機会やアドバイスをできるだけ多く与えることです。
2つ目は、 仕事の質をできる限り高く保つためです。プロジェクトを最終成果物へ近づけるために、ファームではそのストーリーに関与している全チームで繰り返しレビューをします。
3つ目は、 フィードバックができる人は、仕事ができるからです。実際、フィードバックが上手な人は、あらゆる能力が高い水準にあり、それらを総動員して、同僚、部下、上司、クライアント、周囲の信頼や協力を得て、仕事を首尾よく進めていきます。

1つ目があるため、できる人ほどフィードバックを欲しがって、もらってはどんどん成長していきます(と言っても、自分がFBが欲しいものに対してもらえるように期待値コントロールしておくことはFB疲れを起こさないためにも大切)。これには年齢も立場も全く関係ありません。逆にフィードバックを避けることは、2つ目に反し、自分やチームメンバー、ひいては組織全体の成長や成果のチャンスをみすみす捨て去っていくことになります。それであっても、フィードバック文化が生まれにくいのはいくつかの誤解があるためになります。

※フィードバックが望まれないのは、人間は自分で判断し、反省することを好み、「上から目線」のアドバイスをめっぽう嫌う習性があるからなのだそうです。

効果がない:せっかく部下に指摘したりアドバイスしたりしても効果がない。何度も同じことの繰り返し。改善しても要求レベルの3割未満。でも、もしかすると伝えているメッセージが適切でないのかもしれません。フィードバックがファクトベースが大前提です。フィードバックで最も大きな障害(障壁)となっているのが、「誰が言った」という事柄がフォーカスされるからです。一番説得力があるのは「誰が見ても、そう映る」と感じられる客観性のあるメッセージなのです。

気まずい:そもそもフィードバックをするほうもされるほうも、フィードバックは苦手という人は多いように思います。歳を重ねるごとに頭は固くなるので、フィードバックの習慣は早ければ早いほどいいのです。

時間がない:フィードバックが大切とわかっていても、忙しいと後回しになりがちです。実際、いつどのタイミングでどう行うかなど、考え始めると、どんどん面倒くさくなってきます。

とにかく「成長」にフォーカス、「評価」ではない

フィードバックと聞くと、年末の評価面談を思い出す人も多いでしょう。あまり良い気分で臨む人はいませんよね。それはその手のフィードバックの場が大抵、机の向こう側とこちら側で、「攻勢」と「防衛」に分かれるからです。

フィードバックは、人を裁くためにあるのではなく、人を導くためにあるもの。そのため、詳細に焦点をあて、改善プランを立てることに時間を割き、未来志向で、自分との勝負、になります。これを人を裁くためのフィードバックとすると、大きなメッセージに焦点が当たり、注意・指導に時間をさき、過去志向で、他社との勝負、になります。

良いフィードバックのための心構え

ピープルファーストで考察する
ピープル軸で考えない人(ロジック、コンテンツ重視だけ)はフィードバックスキルという概念を断片的に捉える傾向があり、中長期的には失敗してしまいます。ピープル軸で考える人は、フィードバックをするときに相手の立場、情報量、感情などを汲みして伝え方に気をつかいます

インパクトドリブンで効果を最大化する
簡単に言うと優先順位づけができ、良い決断ができることを指します。フィードバックを行う際、どのフィードバックが大切か、優劣をつけ、3つに絞るなどが基本です。

マインドフルネスで「その場感」を出す
マインドフルネスとは「我、ここにあり」 の意味を含み、今現在起こっている状況や物事に100%の注意を向けるプロセスのことを指します。リーダーシップ力が高い人ほどこのマインドフルネスが優れており、我々もそういう人の前ではその温かい空気に包まれたような状態に陥ります。

例えば、「今、ここ」に集中できている人はリスニング力に非常に秀でており、相手が問題を説明しているときに決して割って入ったりしません。沈黙した状態で最後まで待ってくれます。「そうそう、あなたが言いたいのはこういうことね」と軽く私の意見を端折ったりしません。次に、質問に対し、一言一句丁寧に言葉を選んで答えます。そして最後に、ここが一番素晴らしいところなのですが、私が理解している言語や重んじる価値観(バリュー)、経験、軸で話してくれます

フィードバック中にスマートフォンのメールをチェックしたり、PCを開けながら話したり、世間話になんとなく飛んだり、真剣な場で冗談を言ったり、肝心なところで目線をそらしたり、難しいディスカッションに心ここにあらずで適当な話をする人を目の当たりにした経験があるのではないでしょうか?それでは価値が低く、限られた時間内に、相手に全身全霊を込めて接することが肝心です。

良いフィードバックのための3ポイント

日本人は、誰かからフィードバックをしてもらうのを嫌がります。良く思われていたいという思考が強いのと、迷惑をかけているという自責の念と、失敗はダメという教育、トリプルに阻害的要素が浸透しているからでしょう。

とはいえ、実際フィードバックを嫌う部下も、あなたが良いフィードバックをすれば次第に欲しがるようになります。

スマートであるか?(Is it SMART? )
Specific:具体的、Measurable:測定可能、Actionable:達成可能、elevant:関連性、Timely:タイミングをおさえ、相手にゲスワーク(解釈による理解の相違)をさせないことです。

「強気でいけ」だとか、「元気を出して」とか、「やればできる」とか、そのような類の台詞は一切吐かず、 常に具体的に、詳細部分まで根掘り葉掘り入ります。「どんな活動をしたかは興味がなく」、「活動の結果、どんなことが判明し、それが何につながったか」で仕事を前に進めていきます。

ほどよい目標であるか?(Does it Stretch? ) 

手遅れではないか?(When does it expire? )
フィードバックを行える賞味期限だと考えてください。ここは非常に重要なコンセプト

フィードバックの優先順位

フィードバックには改善しやすいもの、しにくいものがあります。改善しやすいものから順に、マナー/仕事のプロセス/仕事の品質/マインドセットです。

マナー:ミーティング中に相手の目をしっかりと見る、貧乏ゆすりをしない、打ち合わせの10分前には部屋に入り準備をしておくこと、「親しき仲にも礼儀あり」のように必ず守るルールとリラックスするルールを持っている、など

仕事のプロセス:打ち合わせの入れ方やその段取り、細かいレベルではファイル保存の整理の仕方、期限の設定、期限を厳守してもらうこと、など

仕事の質:アウトプットの深さ、知見、インサイト、洞察力などを指します。仕事のクオリティは多岐に渡ります。コミュニケーション(長い、短い、わかりにくい、詳細すぎる、など)、問題解決のやり方、アウトプットの見せ方、など

マインドセットや人格:マインドセットや人格は複雑です。誠実性、信頼、頼りがい、決断力、柔軟性、順応力、創造性、ドライブなどについてのフィードバックは、行うタイミングを後で述べるフォーマルな場へ移すのを勧めたいと思います。これらは安易には取り扱えない、人の深層から深海深くに眠っているものだからです。

※ただし、ビジネス上リスクになるものはマインドセットに関わるものでも迅速に対応する必要がある(そうならないために、採用でのカルチャーフィットは大切)

フィードバックを快く受け取るために

あなたは自分の同僚や知人の成長目標を把握できていますか?逆に把握してもらえていますか?お互いが理解しあえていると、より的確なフィードバックがなされ、お互い気持ちよく成長することができます。

大切なことは、常々同僚に対し、あなたがどのように扱われたいかを知らせ(シグナル)なければなりません。さもないと、その同僚はあなたを意のままに扱うでしょう。人間の尊厳というものは声を大にして初めて理解されるものだからです

フィードバックの流れ

フィードバックをする際には、以下の流れが欠かせない。

①観察する(オブザベーション)
②相手の話を聴く(アクティブリスニング)
③相手の行動に対して自分の感情を伝える(エモーショナルインパクト)
④行動を促す(アクション)

①観察する(オブザベーション)
いかに「事実」だけに着目するかが大切です
。「あなたはいつも遅刻する」というFBはだめです。厳密に言い直すなら、「あなたは週4回、8時30分のミーティングに10分ほど遅れて参加しています」が正しいのです。

この「ファクトベースで話す」というのは、「客観的にありのままの状態を伝える」 ということと、「(まだ)感情や自身の思いを乗せない」 の2つに集約されます。

適切なタイミングで伝えられるように、「事実+感情」を記録しておきましょう。メモの例は以下の通りです。

事実:「最近メールの返信が遅れる」「メールの内容やコミュニケーションのタイミングについても、いつもに比べミスが多い(2020年3月8日)」
感情: 自分はまあまあ、怒っていた

ファクトベースで話すことの徹底にある背景は、「誰が言うかで反応は大違い」になるからです。私たちはフィードバックをする際、ついその内容より「その人」のことが気になってしまいます。たとえ正しい指摘であっても、こんなフィードバックをしたら受け手にどう思われるか、が気にならないわけはないのです。結論、「フィードバックの『内容』と『人』を切り離して考えるのは困難だ」という前提に立った上で、「誰が言っても同じに聞こえる」 ということを意識することが大切です。主観はゼロでなくてはなりません。

②相手の話を聴く(アクティブリスニング)
これはマインドフルネスが大切になってくる。相手にあなたが「100%いるよというアピール」 をすることが大切です。そして、FBをする前の段階から「信頼」を築くことが欠かせません。

では、信頼というのはどのように勝ち取るのでしょう。いざ答えようとするとなかなか思い浮かばないものです。例えば、普段あなたは誰を信頼していますか?その答えは割と即座に出てきます。家族、妻、夫、親友であったり、会社の先輩であったり、さっと思いつく人がいるはずです。

信頼 = 信憑性 + 確実性 + 親密性 / 自己主張

信憑性:学歴、経歴、実績、他者評価、勲章、昇進、など、外部的に認識されている要因。本人が言わなくても伝わる部分です。
確実性:主に仕事を実行していく中で見えた部分。フィードバック内では、観察力、ファクトの整理、コミュニケーション方法などがあります。
親密性:思いやり、距離感、ユーモア、感情知性に該当し、それが豊かな人ほどこの親密性が高い傾向にあります。
自己主張:自分のアジェンダ、自己中心的な振る舞い。相手にとっての利点は不明確なもの。

フィードバックを行うとき、一番厄介なのが、お互いに持つ思いや解釈のズレです。よく、ありがちなのが、「そういう意味合いで言ったのではない」的な議論が後になって行われることです。そうならないためには、以下のようなtipsを活用すると効果があります。

人として相手の話をしっかりと聞くことを怠らないこと
・聞くときに一旦すべてを聞き取る(間髪入れずにアドバイスや論議の相違点など述べてしまうと結局相手は聞いてもらった気になりません)
・相手の立場にたって聞いてみる
・判断せずに聞く(フィードバックの対話をしているとき、相手のガードが堅いのは当然です。180度異なる意見でも判断をせずに聞く。難度が極めて高いので、情緒的成熟度が求められます)
・相手と同じ姿勢を取る

③相手の行動に対して自分の感情を伝える(エモーショナルインパクト)

FBにあたっては、「実は、それをやられて私は嫌な気持ちになりました、あれは少しイラッとしてしまいます」とズバッと言い切ることが大切です。相手はまず、唖然とするのですが、すぐに集中が戻ってきて、そうなんですか、他にありますか、となることが多いです。他もイメージを湧くための例としては、「それをやられると私は不愉快です」「しゃべるのも面倒くさくなります」「むかつきます」「吐きそうになります」「怖いです」「残念な気持ちになります」「驚きました」といった類のことを伝えます。率直に言うのがベストです。回りくどいと相手に真意が伝わりません。

自分が感じたことについて、あなたが感じたことは理不尽だ!なんていう人はまず、いません。感じることはまさに個人の自由だからです、なんて言ったら笑われそうですが、事実です。感情を伝えることの利点を挙げていきます。

率直に伝わる:フィードバックをする側も一人の人間であることが伝わる
摩擦を和らげる:日々仕事をしていて嫌いな人やあまり合わない人もいます。 細かく感情を伝えることで抽象度が和らぎ、相手についての複雑な気持ちに対する理解や整理が可能になります
インパクトを高める:仕事は真剣な場所です。そんな環境にいると、人は「考え、実行する」というような機械的な思考に陥りがちになります。しかし、「考え、 感じ、 実行」することを忘れてはなりません
相手の本音がわかる:仕事をしていると、プロフェッショナルな世界なので、相手の本音の判断はしにくいものです。

感情を伝える=感情を露わにする、ことではありません。 怒鳴ったりすることではないのです。淡々と平然と感情のことを話します。コツはこう感じたということをサラッと言ってしまえることです。

④行動を促す(アクション)
最後にアクションにつなげるためのすり合わせをします。

すぐに改善できるものから言う:話が長い人は何から改善できるのでしょう。「短く」と言ってすぐ実行するのは難しいと思います。
期待値を言う、そして握る:何を言ったら、合格なのか。どんな行動を取ったらよいのか。改善点がどれくらいまでいけば解消にまで至るのかをすり合わせる。
できたら即、褒めて、強化する:アドバイスが実行に移り、その「兆し」が現れたら、その都度褒める。
できないときは原因を探る:現実は一朝一夕にはいきません。繰り返し間違いがあり、それを改善する長期戦となることも少なくないのです。その場合は、その現象が起こっている原因を掘り下げないといけません。

チームフィードバック

大まかに次の4つのステップを踏んで、実施するとよいでしょう。これはチームビルディングでも参考になります。

1.仕事の全体像を確認する(スコープの確認)
2.お互いの強み弱みを共有する(ケイパビリティの共有)
3.お互いの仕事習慣を共有する(ワークスタイルの共有)
4.当日のまとめとその後の共有(フォローアップ) 

難しいフィードバックに立ち向かう

難しく根深い問題の話ほど、人は取り繕ったり、オブラートに包んだり、本音を避けたりしますが、フィードバックをする際に得策ではありません。覚悟として、相手が怒って、不愉快になって、部屋を出て行ってしまう。けれども、必ず何かしらの答えを探し出して、改善をしてくる、のように考えて勝負するとよいです。喧嘩をすると、仲直りした後に、さらに強い絆で結ばれる場合がありますが、それくらいの心持ちが必要です。

※人は普段、「なぜ自分がそのような精神状態に陥ったかの真因を探ることに時間をかけすぎている」。逆に、「いかに迅速にその悪状況から脱出するかに焦点を置くほうが断然効果的」です。

もし、「あなたはプライドが高い」というフィードバックをしてしまったら、それは主観が入りすぎてしまい、ろくな議論展開が叶いません。なので、柔軟にそれを言い換える必要が出てきます。防御的で、リアクティブ、自己を庇う、正当化する、感情的、素直ではない、など表現は様々ありますが、少ない言葉や短いフレーズで的確に表現できる能力が必要です。

肝心「何を言うか」に固執するのではなく、相手の状態にどのように合わせ、素直に聞いてもらうようにするか、です。準備してきた重要な2~3点について、そのまま曲げず、ありのままで伝えます


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