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仕事とは「能力×〇〇→〇〇」~中学生向け授業「働くって何?」に学ぶ

今回は、私が中学生向けに行っているキャリア教育プログラム『働くってなんだろう!?を考える授業~僕らは能力の貯蔵庫だ!』の一部を、あえて社会人のみなさんにお届けします。

「働くということ・仕事・職業」に関わる意識をどうつくっていくかは、年齢に関係なく人生の大きな課題です。そしてまた、本質的に重要なことは変わりません。

以下に紹介する中学生向けの授業のスライドには、十分大人になって働いているみなさんにとっても、何かしら有効な気づきを与えてくれるのではないでしょうか。よりよく働くとはどういうことか、自律的なキャリア形成とはどういうことかを考えるのに、歳をとりすぎたということはないと思います。では、14枚のスライド授業をはじめましょう。

「能力」とは自分の中に貯まっていく“資産”である

みなさんは一人ひとり、生まれてからこれまでに、すでにいろいろな能力・才能を育んできました。たとえば……

・サッカーがうまい
・人を笑わせられる
・動物と会話できる
・絵を描かせたらピカイチ!
・パソコンにくわしい
・手先が器用
・リーダーシップ がある
・計算がはやい
・人の悩みをきいてあげられる
・料理ができる
・宇宙のことをよく知っている
・作文には自信がある
・友だちづくりが上手
・英語検定で2級を取った

これら「能力」に含まれるものを簡単に分類すると、次のようになります。

図1

「知識」は、知っていること。「技術」は、身体を使ってできること。「資格」は、知識や技術があることを試験によって証明するもので、免許のようなものです。中学校をきちんと卒業して修了証をもらうと、学位という資格が得られます。

「人とのつながり」は、友だちをつくる力。何か事を成そうとしたときに、一緒にやってくれる仲間、自分を助けてくれる人、味方になってくれる人があちこちにいる、それらを人脈といいます。

「強み・得意なこと」は、たとえば、几帳面である、社交的である、人を引っ張っていける、集中力がある、のんきであるなど、性格的なことも能力の一部になります。

このように能力というのは、学校で習う科目以外のことも含まれます。そして、学校の成績のよしあしが能力のあるなしに関係するともかぎりません。能力は、目には見えませんが、自分のなかに貯蔵されていく大事な「資産・たからもの」です。

「お金持ち」と「能力持ち」

「能力」は、身につけたいという意欲と努力さえあれば、いくらでも自分のなかに貯めこむことができます。つまり───

図2

さて、ここで、「ひらがなカードゲーム」というミニゲームをやりましょう。クラスを大きくAチームとBチームに分けます。

Aチームには、3枚のひらがなカード──「か」・「ず」・「あ」を渡します。
Bチームには5枚のひらがなカード──「か」・「ず」・「あ」・「き」・「ん」を渡します。

では、ゲーム指令です。手持ちのカードを自由に組み替えて、2文字以上の意味ある単語(名詞)をつくりなさい。

……Aチーム、Bチーム、交互に単語を出してもらう。Aチームはすぐに手詰まる。Bチームはいくつも出てくる。両者の差がはっきりする……

それはつまり、こういうことです。

図3

そう、「能力を豊かに持つ人は、豊かに表現ができる」のです。だから「能力持ち」になると、自分がいろいろな表現ができるようになるので、ふだんの勉強や部活や生活(そして働くようになれば、仕事が)が楽しくなるんです。みなさんは、いま、能力がぐんぐん貯まるときです。

図4

図5

世の中は「人が行う仕事」で回っている

さて、ここから「働くこと・仕事・職業」というメインテーマに入っていきましょう。

見渡してみれば、私たちの身の周りには、いろいろな人のいろいろな仕事があります。たとえば、みなさんがレストランに行ってハンバーグステーキを注文したとしましょう。そこで出てくるハンバーグステーキは、それこそ数えきれない人の仕事を経て、あなたの前のお皿の上にやってきました。

つまり、世の中の誰かが、その牛を育てるという仕事をしました。そして、その牛肉を海外の生産地から日本へ運ぶことを仕事にする誰かがいました。成田空港の税関では、誰かがそれを検査する仕事を請け負っています。さらには、その検査が済んだ牛肉をレストランに売る仕事の人がいました。そしてレストランの厨房では誰かがステーキを調理する仕事をしています。ステーキはいよいよ、ウェイター・ウェイトレスという仕事をする人によってあなたのもとに運ばれました。

これで終わりではありません。食後、レストランで会計をしますが、そのレストランでは経理を仕事にする人がいて、きちんと店が回っていくようにお金をやりくりしています。そして、経理の人は、翌日、その売上金を銀行に持っていきます。銀行には、また多くのお金を数えることを仕事にする人が働いています。

このように、みなさんの周りには実に多くのモノやサービスがありますが、よくよく観察すると、そこにはたくさんの仕事・職業がかかわっています。みなさんも、近い将来、何らかの仕事に就いて、親から独立して生きていくことになります。

仕事とは「能力×思い→表現」である

さて、仕事をするためには、何といっても「能力」が欠かせません。でも、能力だけで仕事はできません。仕事をするには、もうひとつの要素「思い」というものが必要です。

「思い」とは、情熱や決意、夢・志、信念のようなものです。簡単に言えば、自分は能力を使って、「こうしてみたい」「こうしてみせるぞ」という心のエネルギーです。こういう心から湧き出るエネルギーが強いか弱いかで、能力の出具合も変わってくるのです。

みなさんもレストランに行ったとき、やる気のない店員が無表情で料理を出してくるときと、意欲に燃えた笑顔の店員が出してくるときでは、どちらが「よい仕事」をしていると感じますか? そのように、働くこと・仕事というものは、「能力」以上に「思い」が関係しているのです。

そしてこの「能力」と「思い」を掛け合わせて、何らかの「表現」をする――表現をするとは、物をつくったり、行動で表したりすること――この3つの要素をひっくるめて、「働くこと・仕事」になるんです。

図6

図7

「働くこと」の3つの要素のうち、「能力」と「思い」は自分の内側にあるものです。ですから、人からは見えにくい。ところが、3つめの「表現」は、自分の外側に生み落とされるので、人からよく見えるものです。この見えるようになった「表現」に対し、人(お客様)がいろいろと反応してくれるわけです。

「スゴーイ!」っていう反応もあれば、「いいね、それ!」とか、「助かったわぁ」「ありがとう!」という反応もあるでしょう。

「働けばお金がもらえる」のではなく……

みなさんのお父さん・お母さんも、みな、「働くこと」で、生活のためのお金(給料)を得ています。みなさんも、少し家の手伝いをして、その分のお小遣いをもらえるときがあるかもしれません。

でも、そのときに、「(ガマンして)働けばお金がもらえる」ということではなく、このように考えてみてはどうでしょう。

図8

プロ野球やプロサッカーの選手は、自分の能力と思いを組み合わせて、すごいプレー(=表現)をする。だから、「感動をくれてありがとう!」といってみんながそこにお金を払いたくなるんです。学校の先生や病院の先生についても、「新しいことを教えてくれてありがとう」「病気を治してくれて助かりました」ということに対して、私たちはお金を払うんです。そしてそれが、先生がたの給料になるということです。

だから、働いて得るお金というのは、実は、自分の「表現」したものが、どれだけ「ありがとう」の気持ちを集められたかという合計量によって決まってくるものなんです。

遠くない将来に来る「就職」

みなさんは、いま学業に専念できる時期ですが、すぐに年月は経ち、「就職」という人生の大きな選択をするときがきます。そのとき、自分に問われることは次の3つです。

1) どれだけ豊かに「能力」を貯蔵したか?
2) どんな「思い」を強くもっているか?
3) 世の中に何を「表現」していきたいか?

図9

この3つについて準備をするためには、もちろん自分一人では難しいところもありますから、保護者や先生ともふだんからいろいろと話をしてください。そして、特に「思い」や「表現」について考えを広げるためには、読書をしてください。私は歴史上の偉人の本を読むことを強くすすめます。そこからは、大きな生き方・大きな考え方が学べるからです。

また、新聞などの記事には、いろいろな人のいろいろな仕事ぶりが紹介されています。世の中にはこんな思いで、こんな仕事をしている人もいるんだという模範を多く知るために、新聞をときどき読んでみるのもいいでしょう。

「自律的な人」とは

就職にせよ、そして大きくは人生にせよ、最終的には、自分が一人で決断し、切り拓いていくものです。自分で考え、自分で行動する人を「自律的な人」といいます。

自律的な人は、「能力」「思い」「表現」についても、こういうことができる人です。

図10

最後になりましたが、「偉人・賢人のことば」を紹介しておきましょう。

これらの言葉は、たとえて言うなら、お寺にある「鐘」のようなものです。細い棒でたたけば、ちいさな音しかなりませんが、大きな丸太でドーンとたたけば、ゴォオーーーンという大きな音がなります。

いま、これらの言葉を読んで、あまりゴォオーーーンとこないかもしれない。それは、まだ、みなさん持っている棒が細くて小さいからです。ところが、もっと大人になって、うんと悩んだときに、これらの言葉を思い出してください。そのときは、きっと大きな音が自分のなかで鳴り響くでしょう。

図11

図12

図13

図14

* * * * *

さて、中学生向けの授業、いかがだったでしょう。人間は学ぶことに老いすぎたということはありません。社会人として何らかの仕事に就いたいまも、やはり私たちは「働くとは何か?」という一大テーマについて悩みや惑いは尽きません。

働くとは、「能力×思い→表現」でした。あなたは常に能力を広げ、高めているでしょうか。さらに、いったん習得した能力の更新は怠っていないでしょうか(知識や技能は、放置しておくと陳腐化します)。また、その能力習得は、即効的に業務をこなすだけのハウツーものに偏っていないでしょうか。

能力以上に、あなたに「思い」はあるでしょうか。「何のために」という情熱や使命感、意味を働くことの基盤に据えているでしょうか。その仕事には「思い」がなく、技巧的に処理するだけの仕事に陥っていないでしょうか。

あなたの「表現」は、お客様から「スゴーイ!」「いいね。それ!」「助かったわぁ」「ありがとう!」の声で満たされているでしょうか。上司に叱られない程度の表現で、だましだましやっていないでしょうか。また、あなたは給料を「ガマン・辛抱」の対価とみなしてはいないでしょうか。

最後に挙げた「賢人・偉人のことば」をどう読んだでしょうか。響くか響かないかは、ひとえに、あなたがその言葉を細い棒キレでたたくか、太い丸太でたたくかによっています。また、学ぶ心・追い求める心が錆びきっている人には、こうした言葉はむなしく聞こえるにちがいありません。

人は定年まで何十年と働きます。また定年後も働くことが普通になるでしょう。「働くこと」に対しての意識をいい加減にすることは、人生をいい加減にすることでもあります。職場で、家庭で、学校で、「働くこと」についての意識をあらためて掘り起こしたいものです。

執筆者:村山昇 キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
*本記事は、「GLOBIS知見録」からの転載です。