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バルセロナの「Harbour.Space」という謎の大学院に飛び込んだ理由

はじめに

全く何の自慢にもならないのだが、僕は「目的にフォーカスして勉強をやる」ということが苦手だ。細かいところが気になってしまうことが多く、本来の目的からすると枝葉末節にすぎない部分にいつまでも捉われてしまいがちである。そのため、壮大かつ緻密な夏休みの勉強計画を立てた2日後に計画が頓挫したこともあるし、自分が掲げた厳しすぎる目標によって自らの首を締めてしまったことも枚挙に遑がない。大学受験もごく簡単に言えば、そういうような調子で浪人してしまった。

それでも流石に30歳を超えると、それなりに自分との付き合い方も何となく編み出しつつある。が、それらはあくまで対処療法であって、根本的な勉強に対する不得手感というものは、あまり払拭されていない。そんな自分が、2020年の9月からスペインのバルセロナにあるHarbour.Space Universityという一風変わった大学院へ留学することになった。

コロナの影響もあり、仲の良い友人や知人、同僚たちにもあまり大々的には伝えていなかったのだが、皆にあたたかく送り出していただき、大変に嬉しい気持ちになった。にもかかわらず、「なぜ行くのか、なぜバルセロナなのか」をきちんと説明できていなかった気がする。そのため、やや今更感もあるが「なぜ勉強に不得手な自分が、バルセロナにある謎の大学院に飛び込むことにしたのか」を書き記しておきたい。

なぜ海外へ行くのか

少し恥ずかしいのだけれど、昔から漠然と海外で生活してみたいと思っていた。高校2年生の時に参加した米国との文化交流に参加してから海外に対する憧れを持っていたし、外大に入ってからそれはより強くなった。でも仕事を始めてから、音楽と仕事のバランスをとることに必死になるうちに、だんだんと海外で生活することに対する情熱が薄くなっていった。コンサルティングファームに転職してからは、仕事に没頭する(せざるを得ない)時間も増えてきてしまい、暇があればビジネス本を読むようになった。

そんな2018年の冬、とあるプロジェクトに参画した。インドと米国との混成チームで、かつ日本メンバーの出身地は、中国、韓国、インド、イギリス。おまけに全員年下の女性。そう、人生初のグローバルプロジェクトだった。当然、会議も資料も全て英語。さらに2ヶ月のプロジェクトにも関わらず、自分が参画するタイミングでは既に3週間が経過しており、テーマも苦手な財務アセスメントというスーパーハードモード。

当然ながら、プロジェクトに参画して最初の1週間は本当に眠れなかった。日本メンバーの英語が早すぎて、とにかく半分くらいしか理解できなかった。電話会議でもほとんど発言できない。絶望感と不甲斐なさで死にたくなった。妻曰く、当時は英語でぶつぶつと寝言を言っていたそうだ。それでも恥をかなぐり捨てて、気合負けだけはしないように振る舞った結果、プロジェクトも円滑に進み、最終的にチームメンバーとは非常に信頼できる仲間になった。そんなプロジェクトを通して、異国の地で複数言語を操りながらバリバリと働く彼女たちと話しているうちに、「海外で生活したい」という欲求が昔よりも具体的になって自分の中に浮かび上がってきた。

なぜ大学院へ留学するのか

海外で生活したいという欲求を満たすだけなら、休職して長めの海外旅行に出ることで擬似体験してみたり、思い切ってワーホリに出ることもできた。あるいは、外国に住むことを前提にして転職しても良かった。その上、勉強に苦手意識あるやつが大学院に行っても意味ないだろうと自分でも思う。けれど、自分の中ではほぼ大学院以外の選択肢はなかったように思う。

まず、第一に仕事という環境を少し離れたかった。職場には大きな不満はないし、仕事も刺激的で楽しいのだけれど、コンサルティングファームでみっちり働きながら、音楽を休日にがっつりやる生活はそれなりにタフだった。かといっていきなり異国の地へ転職するのは、パフォーマンスを出せなかった場合のリスクが大きすぎる。なので、初めての海外生活をスタートさせる上では、少し仕事から離れたいと思った。

第二に、外国でも信頼できる仲間を見つけたかった。30年少々の人生しか送っていないものの、時間を共有することで互いに信頼できる仲間が見つかることは、人生において本当に貴重な財産だと思っている。だから仕事をせずにそういう仲間を作るには、どこかのコミュニティに入るのが一番近い。そういう意味で大学院は、比較的自分の嗜好と近い仲間を見つけられる可能性が高いと思った。

最後に、そしてこれが最も大きな理由だが、Harbour.Space大学に出会ってしまったから。勉強に気乗りしない自分が、この大学院に行ってみたいと強く思ってしまった。なぜそんなに惹かれたのか、そしてどんな大学なのかということを、もう少しだけ語りたいと思う。

なぜHarbour.Space Universityか

そもそもまず、Harbour.Space 大学ってどこだよ、という話。読み方は「ハーバースペース」。バルセロナの海辺にある2015年に出来たばかりの新しい大学でデザイン、テクノロジー、アントレプレナーシップ(起業家精神)」の3つをキーワードに掲げている。大学のスポンサーにはマッキンゼーやBMWなどがついていることからも読み取れるように、アカデミックよりも実践的なアプローチを重視しており、現実世界の課題解決を大学教育の中心に据えている。ちなみにキャンパスはバルセロナにあるものの、授業は全て英語で行われる。一応、公式のHPを貼っておくと下記。

上記の3領域に基づいて2020年9月の現時点で、8種類の学位が用意されている。ちなみに、自分はHigh-Tech Entrepreneurshipである。
<学位一覧>
・Computer Science
・Data Science
・Cyber Security
・Supercities
・Fintech
・Interaction Design
・High-Tech Entrepreneurship(私)
・Digital Marketing

僕がこの大学を気に入った理由は、大きく5つある。だいぶ感覚的かつ主観的な部分もあるので、共感を呼べない可能性があることは承知の上であるがお付き合いいただきたい。

理由① 大学のコンセプトに共感しているから

何よりもまず自分にとって、テック、デザイン、アントレの3要素の納得感が大きい。時代に適合している感じがするし、イノベーションに必須の要素だとも思う。加えて、大学の掲げているプラクティカルなアプローチも自分向きだと思う。具体的な例を挙げると、授業は徹底的な少人数制(10人以下もざら)であり、教授や講師はビジネスの現場でゴリゴリやっている人が多い。また、授業の内容は「現実世界でどう活用すべきか」というところに主眼が置かれているので、仮に畑が違う領域でも同じビジネスパーソンとして対峙できる。また学期についても前期・後期と分かれているのではなく、1つのテーマ(モジュールと呼ばれる)を3週間で完結するというスタイルになっており、テーマを変えながら一年間延々と続く。これもコンサルかつ飽きっぽい自分には、プロジェクトに通ずるところがあり、馴染みがあるように感じる。このあたりは、また大学が始まったら実際の授業を受けて感じたことと併せて書いていければと思っている。なお、アカデミックな授業を否定している意図は決してないのであしからず。

理由② 費用が安いから

海外大学院留学の王道であるMBAよりも、費用がだいぶ安い。具体的には、年間で22,900ユーロなので300万を切る。これはいわゆる海外MBAの3分の1くらいの費用である。かくいう自分も始めは海外の有名大学院でMBAを取ることを真剣に検討したのだけれど、どう考えても自分には高すぎるように思えた。もちろん世界中のエリートと肩を並べて切磋琢磨する中で得られる経験と仲間は、本当に貴重だと思う。が、勉強が苦手な自分にとっては、運良く入れても落ちこぼれる未来しか見えない。そんな未来に、年間1千万近くの金額を懸ける勇気が僕にはなかった。

またいわゆる経営に関する教科書的な知識は、日々のプロジェクトをこなす中で、断片的ではあるものの習得する機会に恵まれてきた。なので「改めて経営を体系的に勉強したい」という意欲があまりなかったというのも、費用を高く感じさせた一因かもしれない。なお、クラシカルな海外大学のMBAを選んだ方々を否定する意図は微塵もなく、むしろ大きな尊敬と称賛を持っていることを、念のため誤解のなきように書き添えておく。

理由③ 希少価値が高いから

大学としてはまだまだ新しくて知名度は低い上、バルセロナという地理的な要因も相まって生徒にアジア人が比較的少ない。一方で、卒業生の顔ぶれを見ると本当に出身国は多岐に渡っており、かつ少人数なので、おそらく自分が日本出身であることを意識する機会も多いだろう。そんな大学院の5期生としてマスターを取得するということは、投資として筋が良いかどうかはさておき、希少性があることは間違いない。自分が日本という国に対するフィルターとして捉えられる環境下でどう振る舞うかということを意識しながら授業に臨むのは刺激的だと思う。また、「バルセロナに留学して、ハイテクアントレのマスターを取りました」と言えるようになるのは、だいぶキャリアとしてはユニークで面白いのではないかと思う。

理由④ バルセロナにあるから

海外に留学することを検討し始めた時から、ぼんやりとアメリカではなく、ヨーロッパが良いなと思っていた。これまた感覚的かつ大変粗雑な表現で申し訳ないのだが、所謂アメリカ的な競い合うマッチョな雰囲気が、自分にはあまり合わないだろうという感覚があったからだ。なお、アメリカとヨーロッパという分け方が超乱暴であること、またアジアやその他の地域についても選択肢として考慮する価値があることについては重々承知の上であるが、その辺りを含めて書くとかなり長くなってしまいそうなので、ご容赦いただきたい。

とはいえ、勝手な感覚だけで大学を決めるわけにも行かないので、Harbour.Spaceを見つけた2019年の春ごろに、1週間ほどバルセロナで一人滞在してみた。主な目的は大学への訪問だったが、ひたすら街を歩き、食事をしたり、文化施設を訪れる中で、街に流れるフラットかつ多国籍な雰囲気を感じるうちに、「ここで暮らしてみたい」と思うようになった。早い話が大学があるバルセロナという街を気に入ったのである。

理由⑤ 「起業する」ということに向き合いたいから

いつか海外で生活したいという欲求以外に、もう一つ昔から漠然と思い描いていたものがある。それは「起業する」ということだ。世の中の課題を解決することも、ユニークな価値を生み出すことも、つまりコンサルティングも音楽活動も、僕にとってはどちらも刺激的で、クリエイティブで、人生をワクワクさせてくれることだ。けれど、もし起業したら2つを同時に体験できるかもしれない。

勿論、綺麗事ではすまないこともたくさんあるだろう。それにいきなり考えもなしに会社をやめて、起業するほどの度胸も自信もない。それでも、やはり挑戦してみたいと思った。そして、その時に同じように起業家精神を持った世界中のやつらと肩を並べて挑戦できる環境に身をおきたかった。さらには、もし自分が失敗したり、適性がなかったとしても、仲間の夢を応援できるような環境に身をおきたいと思った。

2019年の春、Harbour.Space大学を訪問した時に、アドミッションに言われたことは今でも耳に残っている。

「既存の大学院ではない選択肢が何かないだろうかと探す中で、世界中から独力で我々の大学を見つけて、我々に賭けてくれる生徒たちが沢山いる。Harbour.Spaceは、そういう人たちのためにあると思っている。MBA卒という名誉を得ることはできないが、自分で何かを切り開きたいのならば、是非門戸を叩いてほしい。」

具体的には何をしていくのか

現在「音楽×Tech」の領域でプロダクト開発を企んでおり、3ヶ月ほど前から3人でチームを組成して目下活動中である。直近ではユーザーアンケートやインタビューを実施しており、それらのインプットを元にプロダクトのプロトタイプを作ろうとしている。大学の授業と合わせて、こちらも適宜進捗などをnoteに書いていくつもりである。

といっても、まだバルセロナに5日前に来たばかりであり、大学の授業も9月後半からなので、今は軽く観光なども交えながら、初の海外での生活に体をなじまているところである。大学院を卒業する頃に、自分でこの投稿を見直すことを楽しみにしつつ、日々頑張っていきたいと思う。

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