Free For All / Art Blakey & the Jazz Messengers

お気づきの方もいるかもしれないが、時折、「曲名/アーティスト名」のタイトルで記事を書いている。この記事がまさにそうだ。しかしこのタイトルには理由がある。我々は、「愛すべきおバカ曲」というテーマの下にこの記事を書いている。そこには、愛情とおバカさの両方が等しく揃っていなければならない。どちらに肩入れすることもできない。だから、客観的なタイトルを付けざるを得ない。ということにしておこう。

1964年は、音楽における大英帝国の復権と言える年だった。UKチャートを制覇したThe Beatlesが満を持して、海を超えて米国に初上陸したのだから。その後、彼らは当然のように米国、そして世界中を席巻することになるわけだが(ちなみに日本にやってくるのは、2年後のことである)、今日はその話をしたいわけではない。僕が書きたいのは、The Beatlesの影に追いやられた音楽、つまりジャズの話である。

別に、恨めしく悲喜こもごもに「ジャズは死んだ」と言うつもりはないし、「あの頃はよかった」と懐古的に語りたいわけでもない。そもそも僕は1964年には生まれていないし、ジャズの歴史に詳しいわけでもない。そして何より僕も、このマガジンを一緒に書いているonakaippeiとかいうふざけたペンネームの野郎も、The Beatlesが大好きである。そういえば、このマガジンの記念すべき最初の投稿も彼が書いたThe Beatlesに関するおバカ曲だった。尚、内容は素晴らしいのだが、残念ながら彼はJohn派で僕はPaul派であるため、諸手を挙げて礼讃することはできない。

例によって前置きが長くなり、「お前は本当にジャズの話をする気があるのか」と言われても仕方ない書き出しになりつつあるので、そろそろ真面目に今回のおバカ曲を紹介したい。と言っても、バンド自体はあまりにも有名なあの”Art Blakey and The Jazz Messengers”である。少しでもジャズを聞いたことのある人には耳馴染みのあるバンドだろうし、おそらく下記のMoanin'は音楽に興味のない人でも、一度は耳にしたことがあるのではないだろうか。

バンドリーダーであるArt Blakeyは、ジャズファンにはもはや説明不要の名ドラマーであるが、そんな彼もキャリアの初期は、うだつの上がらないへっぽこピアニストとして活動を始めたそうだ。あまりに下手すぎて弾いていたバーから叩き出されたり、ピアノを諦めてドラマーに転向してからも下手くそと揶揄されたり、というなかなかの苦労人である。それでも1960年にはドラマーとしてすっかり名声を確立し、日本でも不動の人気を博していたそうだ。そんな彼が、The Beatlesによって米国の音楽チャートが席巻される1964年にレコーディングしたのが、今回紹介する愛すべきおバカ曲である。その曲の名は、”Free For All”。

自分が初めてこの曲を聞いた時、あまりに凄まじい熱量に圧倒されると同時に意味がわからなかった。何しろ11分9秒もの間、ほぼずっと爆音で叩き続けている。普通のバンドがこういう演奏をしたら間違いなく飽きる。百歩譲って飽きないくらいテクニックの引き出しを持っていたとしても、11分9秒も演奏しようとは思わない。さらに百歩譲って、ミュージシャン同士の仲間内で演奏することがあったとしても、それを音源にしようとはまず思わない。気付いたら、わずか数行のうちに僕が二百歩も譲っているほどに意味がわからないのだ。

そもそも、Art Blakeyは決して超絶テクニック系の繊細なドラマーではないので、正直そこまでパターンの引き出しは多くない。その上、3−4分の曲がほとんどのThe Beatles全盛の時代にこういう長さの曲を選んでしまうあたり、本当に不器用な男だと思う。そんな不器用さが詰まったこの曲が僕はたまらなく好きだ。だから、何かに悩んでいたり、強烈なエネルギーに触れたい人は、是非聞いてみてほしい。一度再生したら、きっと途中で止めることができないので覚悟をしてから、再生ボタンを押すことを強くお勧めする。

ちなみにこの曲はセカンドテイクも録られているのだが、お蔵入りになっている。なぜなら、途中でArt Blakeyのドラムがぶっ壊れたから。もはやジャズドラマーの所業ではないと僕は思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?