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遠く離れても。。。。。

僕がこの街に越して来たのは3年前。cafeが好きで、cafeが僕のリラックスできる場所。この街にまだ馴染みの店は無くて、僕はどこで落ち着こうかと戸惑っていた。そんな時、通り沿いでスターバックスを見つけて入ってみた。

このお店はオープンしてまだそんなに時間が経っていないようだった。
真新しいテーブル。家具屋さんから配達されたばかりの様な、ふわふわのソファ。そしてまだ緊張感が伝わってくるバリスタさん達。何より新しい街に住み始めて、新しいお店に入った僕が緊張していた。

そんな中に、君は居た。
僕は君にはじめて珈琲を淹れてもらった。
僕は朝の決まった時間にお店に行った。
毎日、君に珈琲を淹れてもらう度に会話が重なっていった。
だんだんとお互いリラックスできる様になり、
君は大学生で、医療関係の資格取得を目指していると話してくれた。

大学を卒業したら、医療関係の仕事に就きたいと語っていた君は、
研修から帰ってくると人工透析の話をしてくれた。
そして珈琲を手渡してくれた時に受け取る僕の左腕にも人工透析のシャントがあるのに気づいた。
気配りのできる君は将来、立派な医療関係者になるだろうと僕は思った。

冬に、僕が奥さんに編んでもらった手編みのベストを着て行くと、
君は「手編みですか。素敵なベストですね。」と褒めてくれた。
帰って奥さんに話すと「ベストに気がつく人は少ないし、気付いても感じ良く声を掛けられる人はなかなかいないから接客に向いているよ」と言っていた。

ある時、君はブラックエプロンの試験に合格したと、真新しい、まだパリッとアイロンのかかったブラックエプロンを着けて僕の席まで報告に来てくれた。
その頃からcafeの仕事に興味が出てきて医療関係とどちらを選ぶかを迷っていると語ってくれた。
どちらに進んでも君なら間違いないと僕は思った。

大学の卒業の時期になり、君は「この会社にお世話になることに決めました。」と晴々とした顔で報告してくれた。
そして、赴任先を教えてくれた。
遠く離れた場所だった。

今年の桜は開花が早い。
まるで君の旅立ちを見送るかのように咲き出した。
僕は「桜」から「若さ」と「希望」と「無限の可能性」という言葉を、
何故かイメージする。
そして、その言葉を、木の国から晴れの国へ旅立つ、君に贈ろう。

遠く離れても、桜が咲く頃に珈琲を飲むと君を思い出すだろう。
君は何処に行っても、何をしても成功するだろう。
今まで、おいしい珈琲をありがとう。



今日、君の最後の日はいつかと女性のバリスタさんに尋ねた。
そのバリスタさんは「実は私も一緒に行くんです」と答えてくれた。
僕はひっくり返るくらい驚いた。
やっぱり、君はできる男だった。
万歳!





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