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映画「ナイル殺人事件」感想

 一言で、ナイル河やエジプトの遺跡の描写は素晴らしいですが、ミステリー・サスペンスなのに緊張感が無く、一部の人物描写が下品で、謎の過去設定やポリコレには違和感があり、今一つな内容でした。

評価「D」

※以降はネタバレを含みますので、未視聴の方は閲覧注意です。また、批判意見多めなので、不快になる方は読まないでください。

 本作の原作は、アガサ・クリスティ氏のミステリー小説「ナイルに死す」です。「ミステリーの女王」として名高い彼女は、「オリエント急行の殺人」をはじめ、沢山のヒット作を夜に送り出しています。彼女の作品は、数え切れないほど映像化・舞台化され、本作の原作も、映像化3回、舞台化1回、メディアミックス化されています。
 尚本作では、ケネス・ブラナーが監督・製作・主演を務めており、幾つかの「改変」を経て、新たな作品に生まれ変わっています。

 彼女の小説に描かれる「特殊な」犯行現場・「独特の」推理方法・「個性豊かな」キャラクター達の描写はとても素晴らしく、後に発表される推理小説・漫画・アニメらに大きな影響を与えています。例えば、江戸川乱歩・横溝正史の推理小説や、「金田一一の事件簿」・「名探偵コナン」など、アガサ・クリスティ作品をモデルにした作品は沢山あります。

 1937年ロンドン、美貌の資産家リネット・リッジウェイは、親友のジャクリーン・ド・ベルフォールから、婚約者のサイモン・ドイルを紹介されます。しかし、一瞬にして恋に落ちたリネットとサイモンは、ジャクリーンを捨てて、結婚してしまいます。 
 ドイル夫妻は新婚旅行でエジプトに向かいますが、嫉妬と怒りに燃えるジャクリーンにストーカーされます。
 また、この旅行にはリネットの専属医師・看護師・後見人・メイド・財産管理人・歌手・歌手のマネージャーなど、関係者が沢山同行していました。
 同じくして、エジプトに休暇に来ていたポアロは、友人ブークとその母親ユーフェミアに会います。また、彼はホテルで会ったドイル夫妻に旅行を中止するよう忠告しますが、(リネットは同意したものの、)サイモンは聞く耳を持ちません。
 彼らは紆余曲折を経て、船カルナック号に乗船し、ナイル河下り旅行に参加します。しかし、それは悲劇の始まりだったのです。

1. 主な登場人物について

 本作には、名探偵エルキュール・ポアロをはじめ、個性豊かなキャラクターが沢山登場します。

 エルキュール・ポアロは、アガサ・クリスティ氏の小説でお馴染みの名探偵キャラクターです。彼はベルギー人ですが、フランス語が得意です。卵型の頭に、ピンと立った口髭が特徴的なオジサマで、「対話」による推理を得意とします。
 リネット・リッジウェイは、美貌の資産家で、とにかく「恋多き女」です。
 サイモン・ドイルは、無職の男性でジャクリーンの元婚約者でしたが、仕事を紹介したリネットに一目惚れし、ジャクリーンを捨てて結婚しました。
 ジャクリーン・ド・ベルフォールは美貌の女性ですが、サイモンに婚約破棄されたことで、ヤンデレ・ストーカーになってしまいます。
 ブークは、ポアロの友人で、本作では原作の「レイス大佐」のポジションです。コネで雇われたオリエント急行を退職し、現在は無職です。マザコンで、母ユーフェミアには逆らえず、ロザリーとの結婚を認めてもらえません。リネットの友人でもあり、今回の旅行に参加します。
 ユーフェミアは、ブークの母で有名な画家です。息子を溺愛しており、旅行にも同行します。
 ロザリー・オッターボーンは、サロメの姪で、伯母サロメのマネージャーです。ブークとは恋人関係、リネットの友人です。
 サロメ・オッターボーンはアメリカ人のジャズシンガーです。ドイル夫妻の結婚式でパフォーマンスを披露します。ロザリーは姪です。
 アンドリュー・カチャドリアンは、リネットの従兄弟で、彼女の財産管理人です。
 ライナス・ウィンドルシャム卿は、ドイル夫妻の専属医師です。リネットとは婚約関係でしたが、彼女がサイモンと結婚したことで、破棄になります。しかし、リネットには未練があるようです。
 ルイーズ・ブルージェは、リネットのメイドです。実は彼女は婚約破棄しており、どうやらリネットがそれに一枚噛んでいるようです。
 マリー・ヴァン・スカイラーはリネットの名付け親で、後見人です。政治的見解より、自分が富豪であることを恥じており、リネットの派手な金遣いには否定的です。
 バワーズは、スカイラーの専属看護師です。株が大暴落して家の資産が激減したため、贅沢な生活を望んでいます。

2. 「旅行映画」としては高評価。

 本作は、「旅行映画」としては高評価です。
 まず、景色がとても綺麗で、エジプトやナイル河の魅力は伝わってきました。ピラミッド・スフィンクス・アブ・シンベル神殿などの遺跡のクオリティーは素晴らしかったです。これまでも、「インディー・ジョーンズ」や、「ハムナプトラ」など、エジプトを舞台にした作品は沢山ありますが、本作でも、エジプトの遺跡の壮大さを感じました。
 また、蒸気船カルナック号で行くナイル河クルーズは、ゆっくりのんびり時間が過ぎていくので、好きなことを好きなだけできるのが羨ましいです。所謂、お金持ちのバカンス旅行なので、「自分の好きなように時間を使う」ことが楽しみなんでしょう。普段私が行く、短期間で観光地をいそいそ巡るような旅とは違いました。
 そして、流域の自然(ヤシの木・畑)や、動物描写(ワニ・鳥・犬・魚・現地人など)や、朝焼け・夕焼けなどの自然現象の描写はとても良く、まるでディズニーランドのマーク・トウェイン号や、ジャングル・クルーズを体験しているかのようでした。※ただ、河下りなので景色は「単調」ではありますが。
 さらに、船着き場やホテルは、アラブ特有のエスニックでエキゾチックで、ゴチャゴチャカオス感がありました。ここは、映画「アラジン」みたいでした。
 このように本作は背景やセットのクオリティーが高いので、実際にエジプトロケを敢行したのかと思っていました。しかし、パンフレットより、撮影地は主にイギリスのコッツウォルズで、エジプトには全く行ってないようです。つまり、セットとCGが大半でしたが、そこまで違和感は無かったです。 

 私は、クルーズ旅行にはまだ行ったことはないですが、本作を観たら、行きたくなりました。そのためのお金と時間が欲しいです(笑)

 ちなみに、リネットが持っていた大きな黄色いダイヤモンドのネックレスはTiffany製です。とても綺麗ですが、大きすぎて肩が凝りそうでした。

3. ポアロの「過去描写」は賛否両論?

 序盤、プロローグとして、若き頃のポアロの回想が入ります。第一次世界大戦の白黒描写から始まるので、一瞬観る作品を間違えたかと思いました。
 本作のポアロは軍人で、チャームポイントの口髭は、顔の負傷を隠すために伸ばしたようです。
 また、原作では彼は生涯独身を通しましたが、本作では結婚しており、亡妻とのロマンスが描かれます。これって、本作のテーマの「愛の数だけ、秘密がある」の中に、ポアロも含まれるってことでしょうか?私は、この改変を「否定」こそしませんが、特に必然性も無いと思います。

4. 「ポリコレ配慮」による大幅な人物改変

 本作でも、近年の映画の「お約束」となった、「ポリコレ配慮」により、大幅な人物改変があります。※この件について、私は「この役はこの人種の人がやるべき、それ以外は認めない」とは思っていません。もしオリジナルから「改変」しても、そこまで影響が出ないものや、キャラのイメージがはっきりと「限定」されていないもの、歴史やセクシャリティの観点から「違和感が無い」もの、なら構わないです。
 今回は、サロメとロザリーが、アフリカ系女優に、アンドリューがインド系俳優に変更されています。また、サロメは小説家からジャズシンガーに、ロザリーは彼女のマネージャーになっています。2人は、原作では「親子」でしたが、本作では「伯母姪」になっています。
 さらに、リネットとサイモン、ロザリーとブークのように、資産家やキャリアウーマンの女性と無職の男性のカップリングがあり、まるで「逆玉の輿」みたいな描写だと思いました。 
 私は、前者の俳優の「改変」はそこまで違和感を覚えませんでしたが、後者の「強い」女性と「弱い」男性のカプには、やり過ぎな「女尊男卑」を感じました。※勿論、このような関係性を否定するものではありません。

5. 前半と後半の展開のスピードが違いすぎる。

 本作の展開のスピードを振り返ると、前半のダラダラ展開から、後半の「急展開」のオンパレードと、急に切り替わるため、観てて疲れてしまいました。
 約2時間の上映時間のうち、序盤から、最初の「事件」までは緩々としたペースで進みますが、ラスト20分くらいで急ピッチで事件が片付いてしまうのです。

6. ドイル夫婦の求愛行動?が一々「下品」で気持ち悪い。

 作中を通して、とにかく「気持ち悪かった」のが、ドイル夫妻です。彼らは、婚約したり破棄したり、略奪したりとかなり恋愛にだらしないです。 また、ダンスホールやアブ・シンベル神殿での「バック体位」を模した体勢を取っており、かなり変○にも見えてしまいます。
 特に、世界遺産アブ・シンベル神殿での野外の模擬○○○には、ドン引きでした。これって、エジプト人に失礼ではないかと?怒ると思います。もし、もし日本の世界遺産で外国人観光客が同じことをしてたら、最低だと思います。これなら、「投石」されても仕方無い…行動を肯定はしませんが。

7. ミステリー・サスペンスなのに、全く「緊張感」が無い。

 本作の「一人ずついなくなるけど、犯人がわからない」という構成は、従来のクリスティ作品と同じです。しかし、本作では「犯人は誰だろう?」と視聴者を作品に引き込む工夫が不足しており、視聴者が終始「傍観者」になっていたように思います。

 まず、どう見ても「怪しい」キャラがいるので、犯人が「すぐに」わかってしまいました。その人物が「ヤンデレ・ストーカー」という目立つ性格をしているので、「推理」しなくても、明らかに事件に関わっているのが明白でした。尚、その人物については、最初の事件では、「アリバイ」があったので、すぐには疑われなかったです。そこは共犯者がいることを踏まえた上で「敢えて」のミスリードだったと思います。
 また、ポアロは事件発生後、いつものように「対話」による推理で犯人を炙り出し、物的証拠を調べ、ラストは関係者全員を集めて犯人を「告白」するスタイルを取っているものの、今回はその見せ方が今一つでした。
 何故なら、ブラナーが演じたポアロの口調がキツいため、同乗者を力技で問い詰める姿がパワハラのように見えたからです。
 そして、犯人の手掛かりとなる「伏線」はそれとなく示されているのですが、その出し方が「雑」なため、視聴者がポアロと一緒になって推理するのではなく、彼の「講義」を延々と聞かされているようでした。例えば、船という「密室・限定空間」なら、ポアロ・同乗者・視聴者、各々視点から犯行を映したり、各々が「見えていない」・「知らない」ことをうまく利用して推理したり、見せ方に工夫を凝らすことは出来たと思うのに、そこが物足りなかったです。
 最も、推理小説を映像化すると、犯行説明や回想が「後付け説明」っぽくなってしまう所はあるので、「仕方無い」といえばそうなんですが。※本とは違って、ページを捲って「戻る」ことができないため。

8. こんなに人が亡くなったら、探偵として「無能」なのでは?

 このクルーズにて亡くなった被害者は、「5人」です。しかし、いくら推理中とはいえ、5人も死なせるのは、探偵としてどうなのでしょうか?まず1人が亡くなった時点で、次の犠牲者を出さないように努めるべきでした。本作のポアロは、まるで「江戸川コナン」の大人版のようです。本人がいると、他の人の「死○フラグ」が立ってしまうところが。最も「原作がそうだから」といえば、そうなんですけどね。

9. ラストの生存キャラの処遇はあやふやだし、エピローグのポアロについても「賛否両論」。

 結局、横領・投石による○人未遂をしたアンドリューは逮捕されないのでしょうか?ここは、モヤッとします。まぁ飽くまでも、ポアロは探偵であって警察ではないので、逮捕はできませんが。そして、エピローグでポアロはロンドンに戻って、序盤のダンスホールでサロメの音楽を聴いていました。これって、彼が彼女に「恋」しているってことでしょうか?やはり、プロローグとエピローグに挿入されたポアロの「ロマンス」には、そこまで必然性を感じませんでした。

出典:
・「ナイル殺人事件」公式サイトhttps://www.20thcenturystudios.jp/movies/nile-movie

・「ナイル殺人事件」公式パンフレット

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