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映画「雨を告げる漂流団地」感想

 一言で、映像だけはそれなりのクオリティーですが、設定・脚本・キャラなどが浅く、特に冒険と人間ドラマが噛み合っていないのが勿体ないです。加えて、上映時間120分なのも長過ぎです。

評価「E」

※以降はネタバレを含みますので、未視聴の方は閲覧注意です。また、あまり褒めてないので、絶賛の方&読みたくない方はバックしてください。

 本作は、9月16日に映画館とNetflixにて公開されたスタジオコロリド制作の劇場版アニメ映画です。本作は、『ペンギン・ハイウェイ』、『泣きたい私は猫をかぶる』に続く、3作目で、監督は『ペンギン・ハイウェイ』の石田祐康氏が、脚本は、石田氏・森ハヤシ氏・坂本美南香氏の共同脚本となっています。

 製作に際して、なんと石田監督は実際に団地(神代団地)に移住しています。
 舞台となった団地はすでに解体された「ひばりが丘団地」がモデルとなっており、またひばりが丘団地と建築年代・様式が類似する常盤平団地でロケハンが行われました。(Wikipediaページより)

 本当は映画館で観る予定でしたが、予定が合わず、やむなくNetflixにて鑑賞しました。

・主なあらすじ

 まるで姉弟のように育った幼なじみの航祐と夏芽。しかし、小学6年生のとき、航祐の祖父・安次の他界をきっかけに二人はギクシャクしてしまいます。
 夏休みのある日、航祐はクラスメイトとともに取り壊しの進む「おばけ団地」に忍び込みます。しかし、その団地は、航祐と夏芽が育った思い出の家でした。
 航祐はそこで思いがけず夏芽と遭遇し、謎の少年「のっぽ」の存在について聞かされます。
 すると、突然不思議な現象に巻き込まれ、気づくとそこは、あたり一面の大海原になっていました。しかも、航祐たちを乗せ、団地は謎の海を漂流し始めます。
 初めてのサバイバル生活となり、力を合わせる子どもたち。泣いたりケンカしたり、仲直りしたり、とハプニングが続きますが、果たして元の世界へ戻れるのでしょうか?ひと夏の冒険の旅が始まります…(公式サイトより引用)

・主な登場人物

・熊谷航祐(くまがや こうすけ)(声 - 田村睦心)  
 本作の主人公で小学6年生。夏芽とは幼馴染。サッカークラブに所属しています。

・兎内夏芽(とない なつめ)(声 - 瀬戸麻沙美)
 本作のもう一人の主人公で航祐の幼馴染。両親は離婚し、今は母子家庭です。航佑の祖父、安次を実の孫の航佑以上に慕い懐いていましたが…

・のっぽ(声 - 村瀬歩)
 団地に住みついていた謎の少年。

・橘譲(たちばな ゆずる)(声 - 山下大輝)
 航祐たちの同級生で、大柄の少年。

・小祝太志(こいわい たいし)(声 - 小林由美子)
 航祐たちの同級生。6年生ではあるが小柄で性格もかなり幼いです。解体工事中の団地に潜入を計画した張本人。

・羽馬令依菜(はば れいな)(声 - 水瀬いのり)
 航祐たちの同級生女子。彼に好意を寄せるも、中々素直になれず、彼と親しい夏芽を嫌っています。家は裕福で、フロリダ旅行に彼を誘おうとしていました。

・安藤珠理(あんどう じゅり)(声 - 花澤香菜)
 航祐たちの同級生女子で、令依菜の友人。メガネっ子。

・熊谷安次(くまがや やすじ)(声 - 島田敏)
 航祐の祖父。作中では故人。航祐と夏芽を可愛がっていました。

・兎内里子(とない さとこ)(声 - 水樹奈々)
 夏芽の母。仕事人間故に、不器用な性格。

1. 率直に「スタジオコロリドさんどうした?」と聞きたくなる。

 本作について、第1作目の『ペンギン・ハイウェイ』は、賛否両論あるものの、私はそこそこ楽しめた作品だったので、本作も期待していました。(2作目は未見です。)
 しかし、実際は期待値を大きく下回る「合わない」作品でした。1作目にあったような超常現象へのワクワク感や謎解きカタルシスがなく、寧ろ違和感が先行してしまい、全然乗れなかったです。本当に同じ方が監督されたのかと思うほどでした。

 まず、作風について。本作も、正直な話、最近の日本の邦画アニメとそこまで変わらない、所謂「青少年ファンタジー作品」の一つでした。
 また、設定や背景は、『千と千尋の神隠し』・『崖の上のポニョ』・『天気の子』・『パプリカ』・『バブル』などの現代世界と異世界をミックスした感じでした。
 そして、登場人物の雰囲気は、『ドラえもん』や『おジャ魔女どれみ』など、ニチアサや夕方5時頃に放映しているような、ファミリーアニメに出てくるような感じでした。
 そのため、上記のような「既視感」は沢山有るのですが、もうここは目を瞑ります。正直、「この手の」邦画アニメは飽和状態ですが、類似点を指摘するとキリがないので。
 勿論、「既視感」はあっても構わないのです。それはそれとして、「新たな視点」や「別の切り口からの描き方」が出来ていれば、そこは評価できるのです。しかし、残念ながら本作からはそれを感じませんでした。

2. 映像は、今のアニメらしく、それなりのクオリティーを保っている。

 本作で評価できた点は、映像のクオリティーですね。そこは、流石現代のジャパニメーションの基準をクリアしています。例えば、水や廃墟、植物・夜光虫の描写はリアルで、本当に異世界に迷い込んだような感じになりました。
 また、「団地が海の上を動く」という異世界の設定は、そこまで悪くないと思います。実写では「ありえない」ことを表現出来るのが、アニメーションの良さなので、それを活かそうとする監督の意思は伝わりました。

3. 設定・脚本・キャラなどが浅く、特に冒険と人間ドラマが噛み合っていない。

 しかし、良かったのは2で述べた部分のみで、他はてんでダメでした。設定(異世界と現実世界のバランス)・脚本・キャラなどが浅く、特に冒険と人間ドラマが噛み合っていないのが致命的でした。

 まず、夏芽も友人達も、どんな理由があろうとも、取り壊し予定の団地にこっそり入ったら、不法侵入です。そして屋上での小競り合い、しかも子供達以外、誰も目撃者がいない、この辺で既に、物語の流れが強引だなぁと思いました。
 また、夏芽があの団地に引きこもった理由も今一釈然としません。親子関係の拗れ・団地の閉鎖・安次の死・のっぽとの邂逅など、夏芽と団地に関する一つ一つのエピソードに繋がりが弱いのです。
 唯一、「怖い」と感情を動かされたのは、のっぽの登場シーンでしたが、(ここはホラゲーを思い出します)皆わりとすぐに打ち解けてしまうので、怖さとしても中途半端でした。
 そして、団地が漂流し始めてからは、もっと話が崩れていきます。最初は、異世界に飛んだことで非日常を楽しんでいた小学生達でしたが、それだけでは話が持たないからなのか、ちょくちょく喧嘩・怪我・育児放棄・離婚などのネガティブな出来事をぶっ込んできます。
 このように、キャラはゴールデンタイムのファミリーアニメ風なのに、話には『ブレイブ・ストーリー』のようなシリアスな問題をぶち込んでくるので、夏休みの冒険というワクワクするテーマと、ウエッティーでドロドロな人間ドラマとの相性が悪く、観るのがキツくなっていました。
 さらに、物語が進むごとに、異世界に対する疑問点が湧き出てくるのですが、それらを無視して話が進んでいくので、頭の中が?だらけになりました。  

 例えば、以下の点は疑問に感じました。

・海の外の世界はどうなっているの?

・彼ら以外の人々は、この「現象」に気づかないの?

・子供達がいなくなって、家族は心配してないの?

・漂流団地や、流れてくる建物に他の人はいないの?

・外部から、助けは来ないの?

・衣食住、特に食が尽きたら生存できないよ。子供達にそれを打開できるスキルあるの?

・デパートのおもちゃ売り場の女の子と観覧車にいた女の子は誰?

・水底の黒いお化けとは?

・のっぽに植物が生えた設定は?

・天の川の夜光虫は一体何?

・結局、ぬいぐるみとカメラの役割って何?

・主人公とヒロインが「サッカー好き」という設定、必要だった?(作中では、「バディ」という所しか活かされていない。)

 このように、こういった疑問は沢山出てくるのに、誰もそれに答えようとしないし、解明しようともしないので、付き合うのも嫌になってくるのです。※そのうち、一部は解明されるものの、答えを提示するプロセスがほぼ「説明」になってしまっているため、そこにカタルシスは感じることはなかったです。

 結局、こういう疑問が出てくるのって、作品全体を通して、子供達とそれ以外の人々の交流があまりにも描かれてなさすぎて、物理的にも作劇的にも「閉じた話」になってしまっているからなんですよね。しかも、どうやっても状況が詰んでしまっています。
 もし、子供達がわからなければ、それを解明する「仕組み」を作ればまだ状況は改善に向かうはずなのに、それすらないのです。

 これを踏まえると、もし閉鎖空間や少ない人物で話を作るなら、余程脚本を練らないとダメなんですよね。例えば、『CUBE』・『キサラギ』・『セトウツミ』などは、この辺をうまくクリアしています。

 ちなみに、過去作を振り返ると、『ペンギン・ハイウェイ』では、森見登美彦氏の原作小説と、ヨーロッパ企画の上田誠氏の脚本がかなり功を奏していたんですね。(上田誠氏といえば、湯浅政明監督作品でも、かなりエッセンスとスパイスを与えています。)
 やはり、邦画アニメで原作なしのストーリーは厳しいのでしょうか?それか、監督が脚本を書くと、「オカシクなる」例がまた出来てしまったのでしょうか…(今回はまだ共同脚本ですが。)
 石田監督が、くれぐれも某監督化しないことを祈りたいです…

4. 一部の登場人物に不快感を覚える。

 前述しましたが、本作は子供達の会話が、ほぼ怒鳴り合いと喧嘩ばかりで、全体的に煩かったです。しかも、同じ内容を何度も繰り返すため、次第にイライラが大きくなって、彼らに感情移入できませんでした。

 特にダメなのが、夏芽と令依菜でした。まず、夏芽は航祐と気まずい関係(実は両片想い)ですが、次第にのっぽにも惹かれていきます。しかし、二人の間で揺れ動く気持ちが揺れ動くせいで、自ら単独行動して、自分も仲間も危険に晒してしまいます。しかもそれで泣き喚くので、収拾のつかない人になっていました。
 また、令依菜は航祐とのっぽ関連で、何度も夏芽に強く当たります。作中では、「アンタのせいよ!」と事あるごとに言うので、喧嘩の元凶になっていました。

 余談ですが、スタジオコロリドさんの作品って、やたら小学生をマセて色っぽく描こうとする癖があります。こういうマセキャラは、『ペンギン・ハイウェイ』のアオヤマ君から変わってないのです。変なところで頬を赤らめたりするので、観ていて恥ずかしくなりました。

5. 現代っ子の小学生の能力を過信しすぎ。

 本作のコンセプトの一つである「小学生がサバイバルする」という点ですが、これも現代っ子の小学生の能力を過信しすぎていて、終始違和感しかなかったです。

 例えば、以下の点は引っかかりました。

・日中、工事現場の人が見張っている団地に、夏芽一人で食料と水を大量に運べる?何度も往復してもバレないのは却って不自然。

・それらが底をついたタイミングで、飛び乗った隣の建物から非常用袋が出てくるのもご都合主義的だなぁ。

・縄を渡されていきなりロープワークできる?(もし、キャンプ経験者がいれば可能かもしれませんが、そういった描写は作中には無いです。)

・金属製のワイヤーや折れたアンテナを、子供の力で曲げたり結べたりできる?

・落ちそうな人を子供の力で引っ張り上げられる?

 もしかすると、監督は『十五少年漂流記』・『漂流教室』・『トム・ソーヤーの冒険』・『天空の城ラピュタ』など、子供達のアクションが見られる作品を参考にされたのかもしれません。
 しかし、それを現代っ子でやるのは無理がありすぎます。『千と千尋の神隠し』の初期千尋みたいになるのが関の山ではないかと思います。

6. やたら流血シーンが多く、不快になる。

 本作で最も不快だったのは、やたら流血シーンが多く、しかも女児のみが怪我をすることです。例えば、小学生女子が廃墟の中で転倒してガラスで膝を切る、尖った鉄骨を掴んで手を切る、頭を打って後頭部から大量流血して気を失う、など何故怪我の描写ばかりリアルなのか、誰がこんなの見たいのよと理解に苦しみました。
 しかも、その処置は小学生らしく、消毒もせず絆創膏や包帯のみの雑な感じなのです。いや、あれじゃ破傷風になるよと思わずツッコんでしまいました。

 本当に、予告編やポスターの爽やか・キラキラ感がまるでなかったです。ある意味、予告・ポスター詐欺かもしれません。そういえば、この辺の「不快な」描写、某監督にもあったなぁと思い出しました。

7. ファンタジーとリアリティーのバランスが悪すぎる。

 本作も、他の邦画アニメに漏れず、ファンタジーとリアリティーのバランスが悪すぎます。
 物語の舞台をこれ程のぶっ飛んだファンタジーにするなら、いっそ人物もファンタジーにしたほうが良かったですね。例えば、子供達がスーパーヒーローや魔法使いのように、皆が「超能力」をもっていて、海で狩りや漁ができるとか、ドラえもんのひみつ道具的なスキルがあって、多少の食料なら生み出せるとか、そうした方ががまだ説得力がありました。

 その点では、今年公開された『バブル』も賛否両論でしたが、私は『バブル』の方がまだ「観れた」かなと思います。あちらの方が、映像のクオリティー・疾走感・ゲーム感は評価できます。
 また、最初から、「重力が壊れた世界」という荒唐無稽な設定で、それ故に住人の少年達が、「パルクール」という特殊能力を鍛えていたり、試合でいろんなチームメンバーと出会ったり、外部の人と交流したり、ヒロインの設定も、最初から地球外知的生命体だったり、「世界観」はかなりフワフワしているものの、本作よりは構築出来ていたかなと思います。特にイライラするキャラもいなかったですし。

 そして、本作のラストの「あの世界で数日の経過が、この世界では数時間だった」、みたいな設定にも捻りがないなぁと思いました。正直、こういう展開は何度も見たので。

8. アニメ映画に120分は長過ぎる。

 本作、時間を見たときに120分近くあるアニメと知って驚きました。実際に観たところ、あまりにも長いので、時計で時間を気にしてしまいました。
 正直、これくらいの内容なら、90分くらいで纏めてくれた方が観やすかったですね。仮に、もし映画館で観てたら、途中退出していたかもしれません。

 本作、ストーリーにある程度の「整合性」を求める人はやめた方がいいです。勿論、「理屈で捉える作品ではない」ことも理解しています。しかし、それを以てしても、あまりにもあり得ない出来事&受け付けない描写の目白押しだったので、溜息が出てしまいました。

 最後に、好きな人には辛口評価になってしまって、本当にすみません。しかし、やはり一個人の意見としては、お勧めしない作品です。

出典: 
・「雨を告げる漂流団地」公式サイト

・「雨を告げる漂流団地」Wikipediaページhttps://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%A8%E3%82%92%E5%91%8A%E3%81%92%E3%82%8B%E6%BC%82%E6%B5%81%E5%9B%A3%E5%9C%B0

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