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映画「クルエラ」感想

 一言で、エマ・ストーンのファンション七変化、まるでドロンジョ様や峰不二子を彷彿とさせるダークヒロインで、自由・反骨精神による暴れっぷりが痛快なアクション映画です。安心してください、犬は酷い目には遭いません。

 クルエラ(本名:クルエラ・ド・ヴィル)は、ディズニーのアニメ映画「101匹わんちゃん」に登場するヴィランで、有名なファッションデザイナーでありながら残忍な毛皮マニアで、犬のダルメシアンの斑柄の毛皮コートを作ろうと目論みます。
 今回の実写映画は3度目で、1997年に「101」、2001年に「102」が公開され、女優のグレン・クローズがクルエラ役として主演しています。※尚、グレン・クローズは、本作品ではプロデューサーの一人として参加しています。
 本作品のクルエラは、アニメ版やグレン・クローズ版とはキャラ設定が大きく異なり、「残忍な毛皮マニア」ではなく、「貪欲で上昇志向の強いファンションデザイナー」の一面が強く描かれています。旧作品にあった喫煙シーンはカットされ、毛皮を目的とした「動物虐待」は一切ありません。しかし飲酒シーンはあり、これが物語において重要な鍵となっています。

 本作品の主演は女優のエマ・ストーンです。ミュージカル映画「ラ・ラ・ランド」では、アカデミー賞主演女優賞を受賞した、若手注目女優です。本作品では、あの時の彼女とはまるっきり異なる姿に驚き、女優魂の凄さを感じました。

 ディズニー映画のオープニングのシンデレラ城のアニメのロゴが白黒になっており、(本来はカラー) 序盤から不穏な感じが伝わってきました。こういう見せ方の工夫は本当に細かいです。
 本作品のクルエラ(出生名:エステラ)は、生まれつき黒と白の髪を持っており、優しい母のキャサリンと貧しいながらも幸せに暮らしていました。時が経ち、エステラは名門私立小学校に入学しますが、彼女の見た目と気が強い性格のせいか中々周囲とは馴染めず、いじめに遭ってしまいます。しかし、ただやられるエステラではなく、いじめっ子に度々報復しますが、そのやり方が激しいため、先生からは目をつけられてしまいました。作品を通しての彼女の気の強さや気性の激しさは、恐らく先天的なものだったと思います。(そこで出来た唯一の友達がアニータでした。また、子犬を拾いバディと名付けます。)
 素行問題で小学校を「退学」になったエステラは、母子でロンドンに向かい、その途中で「ヘルマン・ホール」という大きな邸宅に立ち寄ります。母は外のベランダで誰かと話している様子でしたが、突如3匹のダルメシアンに「襲われ」、崖の下へ転落死してしまいました。
 母が亡くなり、失意の中ロンドンに辿り着いたエステラは、スリの子供のコンビのジャスパーとホーレスに出会い、目立たないように白黒の髪を「封印」して、赤い髪に染めます。そして、母親譲りの裁縫の腕を活かし、スリの仲間に加わります。
 13年後、成人したエステラはファッションデザイナーを夢見て高級デパート「リバティ」で働きますが、清掃員の仕事しか貰えません。エステラはそんな毎日に不満が募り、ウイスキーを飲み干して酔っ払い、ウィンドディスプレイの飾り付けを勝手にアレンジしてしまいます。上司から怒られ、クビ宣告をされそうになったエステラですが、ロンドンのカリスマ的ファッションデザイナーのバロネスが彼女の才能を見出します。バロネスの下で一生懸命働くエステラですが、ある時、彼女が「見覚えのあるネックレス」をしていることに気付きます。それは、母の形見で、あの夜に母が口論をしていた相手はバロネスでした。「母はバロネスのせいで死んだ」、エステラは復讐を誓い、ネックレスを取り戻すことを決心し、正体を隠し、「クルエラ」と名乗って、髪を元の白黒ヘアーに戻します。※「クルエラ」の名前は、「残酷・残忍」という意味で、幼い頃に母がつけたあだ名でした。
 自分の計画を実行するため、新聞記者になったアニータや懇意にしているブティックの店主アーティを仲間に入れ、泥棒コンビと一緒にバロネスの舞踏会に乗り込んだクルエラですが、形見のネックレスは、バロネスの愛犬のダルメシアン3匹のうちの1匹が飲み込んでしまいました。何とかしてネックレスを取り戻そうと、ダルメシアンを隠れ家に連れて来ますが、一向に手がかりは見つかりません。
 昼間はエステラ、夜はクルエラと二重生活を楽しんでおり、クルエラモードの時はバロネスのショーを台無しにし、公園で野外パンク・パフォーマンスを行って群衆から大喝采を浴びますが、一連の計画がバロネスにバレてしまい、危機一髪の状況に陥ります。果たしてクルエラの運命は如何に…

 まず、クルエラのファッションは奇抜で個性的なので、まるでレディ・ガガのようでした。次の場面ではどんな格好をするのか、ワクワクして楽しかったです。火でドレスの色が変わったり、「ゴミ」のドレスを纏ったり、「ある生物」で作ったドレスでバロネスをギャフンと言わせたり、(集合体恐怖症の方は閲覧注意レベルです) もうダークヒロインとしてやりたい放題でした。ここにエマ・ストーンの美貌というスパイスが加わったので、もうクルエラそのものでした。ある意味、「混ぜるな危険、でも混ぜたくなる衝動性を掻き立てられる」と言いますか。

 次に、泥棒コンビのジャスパーとホーレスは、とても良い味を出していました。「クルエラ・ジャスパー・ホーレス」のトリオ、既視感がありましたが、これはヤッターマンに登場するドロンボー一味(ドロンジョ様・ボヤッキー・トンヅラー)ですね。きっと本作はガンちゃん・アイちゃんがいない世界線だったのでしょう。勿論、ホーレスの相棒のチワワのウィンクも賢くて可愛かったです。流石にネズミに扮装するのはちょっと無理があったかな(笑)また、ルパン三世に登場する峰不二子にも似ています。危険な香りがしながらも異性を惹きつける魅力の高さは、クルエラ・ドロンジョ様・峰不二子に共通しますね。また、元は孤児達だった3人が身を寄せ合い、軽犯罪で生計を立てる設定は、「流星の絆」の有明3兄妹を思い出しました。また、どんな手を使ってでも、のし上がりたい強情なハングリー精神は、「パラサイト 半地下家族」のギテク一家にも似る部分がありました。尚、他の方の感想では、「『プラダを着た悪魔』や『ジョーカー』にも似る部分があった」と仰るものもありました。

 そして、バロネスのラスボス感、半端無かったです。彼女はカリスマ的デザイナーで、エステラの才能を見出し、デザイナーの仕事を与えますが、本性はパワハラ上司そのものです。バロネスとクルエラのショー対決は、まるで「鏡の国のアリス」の赤の女王と白の女王対決のようでした。善悪の対決ではなく、悪悪の対決なところがとても面白かったです。実はバロネスは大きな秘密を隠していましたが…

 また、ブティックの店主のアーティも印象的でした。独特なファッションセンスの持ち主で、クルエラの計画に協力します。見た目は芸人の「ゴー⭐︎ジャス」のようですが、実はパンクロッカーな一面もあります。実際に演じた俳優さんは、LGBTの方でした。クルエラとアーティは「人とは違うことによる生きづらさ」で苦しんだ経験から、共鳴するところがあったのでしょう。実際、本作品の舞台となった1970年代ロンドンは、反骨精神を掲げたパンク・ムーブメントや奇抜で新しいファンションの台頭など、現代に受け継がれる文化の目覚めを象徴する時代でした。その時代に生きたクルエラやアーティからは、爆発する個性や揺るがぬ強い意志を武器にして自由と反骨精神を掲げる強さを感じました。

 さらに、クルエラは車の運転がとても荒いので、路上での暴れっぷりや留置所に車で突っ込むシーンは驚きましたが、同時に痛快でした。私は、作中における「物が破壊される描写」が苦手なのですが、ここまで倫理観の針が振り切ってしまっていると、却って「いいぞ、もっとやれ」と煽りたくなりました。※倫理的な善悪からすれば、クルエラ一味の行動は「アウトローで悪」なので、決してこういった行動を称賛するものではありません。

 最後に、ラストのエステラの「葬式」もグッときました。それは「母との決別」であり、クルエラとしての新たな「誕生」でした。勿論、「母」のことは今でも好き、しかし泉の側で泣いていたエステラはもういない。例え「出生ガチャ」が上手くいかなかったとしても自己憐憫しない、自分の人生のケツは自分で拭く、「ダークヒロイン」や「魔女」として自らを救済した彼女の強い意志・決意を感じました。

 今回鑑賞したのは日本語吹き替え版でしたが、クルエラ役の柴咲コウさん、とてもマッチしていて上手でした。主題歌も歌っています。バロネス役の塩田朋子さんは、グレン・クローズ版ではクルエラ役でした。他には、ジャスパー役の野島裕史さん、ホーレス役のかぬか光明さん、アーティ役の花江夏樹さん、バロネスの側近のジョン役の広瀬彰勇さん、キャサリン役の垣松あゆみさんなど、豪華な声優陣が出演しています。また、字幕版の予告編のエマ・ストーンは結構低音ボイスなので、見た目と声にギャップが大きくて良いです。時間があれば、字幕版も観たいと思いました。
 ちなみに、エンドロールには「ペットを飼う時は保護施設から」の表記がありました。こういう表記をきちんと入れてくれるのは、ディズニー映画らしいです。

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