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家系

俺の父親は、歌うのが好きだった。
子供の頃からよく家で歌っていたし、
自治会の会合でもカラオケが好きでよく歌っていたという。

家で歌っていた時は、子供相手だからか、
替え歌にしてくだらない歌詞にしたりして、
笑いを取ろうとしていた。

まぁ、駄洒落だったりして、大体がつまらないのだが。

音程も外れていたし、上手いと思ったことは一度もないが、
わざと外していたのかもしれない。
「わしは歌が上手い」のような自慢をよく聞かされていたと思う。

うちの家には、謎のルールがあり、
歌番組がほとんど見られなかった。
たまたま音楽番組のチャンネルになっていると、

「こがなもん、見な!」
(「このようなものを、見るな!」という方言)

と言われ、チャンネルを変えられた。
そしてなぜか、ドラえもんも同じように見ることが出来なかった。

教育に良くない、とでも思っていたのか。
それにしては、お笑い番組は普通に見られた。
当時は、俺たちひょうきん族とか、ドリフも問題なく視聴できた。

ドラえもんが教育に良いとは思わんが、
上品とは言い難いバラエティ番組がそれより良いとも思えない。
まさかしずかちゃんの入浴シーンが過激だとか思っていたのだろうか。

まぁ、父親は一概な(頑固という意味)性格だったので、
何か気に入らないことがあったのだろう。

そんなわけで、音楽番組と縁がなく、学校でも流行歌には付いて行けず、
そういう意味では孤立していた。
別にそれで友達がいなかったわけではないし、
それほど不便とも思わなかったが…。

高校生くらいになると、その規制も緩くなり、
兄が友達から音楽CDを借りてきたりもしたので、
いわゆるJポップという文化に触れる機会が増えた。

当時はMr.childrenが全盛期の頃で、
兄に勧められて聴いて、すぐに好きになった。

歌はいいものだなぁ。
と思って、当時カセットテープに録音して、
同じ曲ばかり聞いていた。

それまでは友達にカラオケに誘われても、
ただ座って時が過ぎるのを待っていただけで、
歌ったりしなかったのだが、歌ってみると、
意外に評判が良く、自分でも気持ちが良い。

もしかして、結構うまく歌えるのでは?
と思った。

それと同時に、やっぱり父親は歌が下手なんじゃなかろうか。
と思うようになった。
自治会の評判では、「あなたのお父さんは歌がうまいんよ」
みたいに言われたことがあった気もするので、
やはり上手だったのだろうか…。

一緒にカラオケに行って確かめてみればよかったのだが、
父親は10年以上前に他界している。

いろいろ思い残すことはあるが、
今思うと、1回くらいカラオケに一緒に行けば良かった。
そして息子の方が上手いんだぜ、と思い知らせてやるべきだったな。
と後悔している。

そういえばうちの兄も以前、
「俺は歌が上手いんだ」
と言っていた。

うちの家系は、こんな奴ばっかりなのか。

兄が生きているうちに、カラオケに行って白黒つけておこうかな。

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