睦月都歌集 『Dance with the invisibles』
所属結社「蒼海」の堀本裕樹主宰にすすめられた歌集です。
作者の睦月都さんは1991年生まれ。「かばん」所属。2017年、「十七月の娘たち」で第63回角川短歌賞を受賞されています。
この歌集は旧かな文語で書かれているので、普段旧かな文語で俳句を書いている自分にはとても親しみやすかったです。
また全体の構成が見事で、透明感のある上質な映画を見たあとのような、心地よい読後感がありました。
とくに好きな歌を12首。
灯油売りの車のこゑは薄れゆく花の芽しづむ夕暮れ時を
簡潔に雨降りて止む朝ありて瓦斯火にパン切りナイフかざせり
風の夜あなたの捲毛をほぐしてゐる小さなソファーが箱舟になる
春の夜によそふシチューのごろごろとこどもの顔沈みゐるごとく
婚なさず子なさずをれば一日がシロツメクサのやうな涼しさ
霧(スモーク)をまとふ裸の踊り子の奥歯に銀のかんむりを見き
老いながらわれに似てくる母とゐてわけあふ十月の葡萄パン
居酒屋のいけすのなかにゐる心地ともだちと住む夜の家屋は
鍋に肉ゆつくりと煮てゆくときにひととき水は匂ひ濃くせり
古雑誌めくれば歳月にふやけたる星占ひの山羊座の運命
散るといふよりも壊れてゆきながら体力で立つ桜みてゐる
雨音のまどろみのなかを抱きよせて猫とは毎朝届く花束
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