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波多野爽波俳句全集 その1

波多野爽波俳句全集(暁光堂俳句文庫)のKindle版を購入しました。

『舗道の花』(1956年)、『湯呑』(1981年)、『骰子』(1986年)、『一筆』(1990年)の4つの句集と、補遺として句集未収録作品より400句収録されています。(補遺の選句は岩田奎氏)

第一句集から第二句集までの間がずいぶんとあいています。

それについて、草間時彦による『湯呑』解題には以下のように記されています。

波多野爽波ほどの作家が二十六年間、句集未刊行でいたということは、現代の俳壇の常識から言えば意外のことである。その理由は、その間の作品が意に満たなかったのか、それとも、何か決意するものがあってのことか、或いは単に多忙による延引か、それは判らない。いずれにしても、本句集は二十六年間の作品を僅か三百句に圧縮しているのである。

波多野爽波句集『湯呑』解題 草間時彦

爽波自身による句集の後記を読んでも、とくにこれといった理由は記載されていませんでした。

それでは第一句集『舗道の花』について。編年体で編まれています。

爽波の有名句、
腕時計の手が垂れてをりハンモック
鳥の巣に鳥が入つてゆくところ
白靴の中なる金の文字が見ゆ

これらは爽波がまだ十代のときの作品だったことを知って驚きました。

好きな句を挙げていきます。

師三人並び現れ寒稽古
雪やんでゐたりしスキー小屋につく
瀧茶屋の鏡に岩の映りをる
夕焼のさめたる雲の残りをり
時雨るるや音してともる電熱器
掃除しに上る二階や冬の雨
更衣二間つづきの母の部屋
瀧見えて瀧見る人も見えてきし
かの舞妓大きくなりぬ厄詣
夜濯をなかなかやめぬ妻を呼ぶ
籐椅子にひつかかりつつ出てゆきぬ
次の間へ歩きながらに浴衣ぬぐ
汽車長し海水浴の人降りて
下るにはまだ早ければ秋の山
妻と我いちどきになり初鏡
種痘する机の角がそこにある
粧ひて家にある人夏の月
天と地の間に丸し箒草
手袋に明かるき昼の光かな
冬空や猫塀づたひどこへもゆける
誘はれてきしだけのこと探梅行
春燈にかく育ちたる目鼻立
春愁の吾を写真に撮るといふ
爽かに思ひ返して好きになりぬ
春宵や食事のあとの消化剤
赤と青闘つてゐる夕焼かな
入学の朝ありあまる時間あり
金魚玉とり落としなば舗道の花
片蔭を奪ひ合ふごとすれ違ふ
平らなる一枚の地や墓詣
菊匂ひ石鹸匂ひ洗面所

以前読んだ『波多野爽波の百句』(山口昭男)もとても面白い本でした。

ひきつづき第二句集以降も読んでいこうと思います。


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