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能村登四郎全句集③ 『枯野の沖』

能村登四郎の第3句集『枯野の沖』は、昭和45年、登四郎59歳のときに出版されました。前の句集から13年が経っています。(全句集には、昭和51年に刊行された『定本 枯野の沖』が収録されています。)登四郎自身はあとがきで、自身の句の「混沌の時代」と書いています。収録句数は644句。

句集の前半は、難しい言葉を用いた句が多く、読むのがすこし大変でした。句集の終わりに近づくにつれて、句がシンプルになっていくのを感じました。同居されていた奥様のお母様を詠まれた句が特別にいいなと思いました。

火を焚くや枯野の沖を誰か過ぐ
雪にぶち撒く洗顔の水受験生
母を拭く湯気たぎらせて十三夜
萩夕日病母の口に飴が鳴る
蓼あかし売るときちよつと豚拭かれ
母逝きぬ冬日に幾顆飴遺し
膨れんとして膨れざる餅あはれ
今日の雲けふにて亡ぶ蟻地獄
昼野分艶うまれゆく炒め飯
流し雛見えなくなりて子の手取る
花冷えや老いても着たき紺絣
春ひとり槍投げて槍に歩み寄る
野火を見てマラソンのまた力出す
ねむりたき線虫の来て髪にとまる
あたらしき水着の痒さ海まで駈く




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